続き物
親しさの証明
※ディアンヌと女子トークのその後





この前ディアンヌと出掛けてから出来るだけディアンヌを呼び捨てに、そして敬語は使わないように心掛けてきた。
おかげでディアンヌとの距離が縮まったように思う。それが嬉しかった。
そんな私の変化にいち早く気付いたらしいゴウセル様は、仕事中にも関わらず早速というか、会って早々突っ込んできた。


[機嫌が良いみたいだな。何かあったのか?]

「あ、分かりますか?実は、この前ディアンヌと一緒にお昼を食べたときにですね……」

私はその時あった出来事をゴウセル様に話した。
ゴウセル様は相槌は打たなかったが、静かに私の話を聞いてくれた。

[つまり、ユウキはディアンヌと親しくなったことが嬉しかったということか?]

「要はそうなりますね」

私は纏めて話すのが苦手らしく、話があちこち飛んでしまいがちになるが、今回はゴウセル様が上手く要約してくださった。
本当に見た目に寄らずハイスペックである。
失礼だと思うが、大きな体に鎧という見た目とイメージが固定されているので、どうしてもガサツそうな、肉体労働派にしか見えない。
そんなイメージしかなかった時に彼が本を読んでいた時は、我が目を疑ったものである。
ゴウセル様が毎日鎧を片時も脱がず身に着けているのは何か理由があるのだろうか。
気にはなったが、本人のコンプレックスだったりしたら申し訳ないし、そもそも聞けるわけがない。…忘れよう。
そうこう考えているとまたゴウセル様の質問タイムが始まった。


[何故呼び捨てが親しいことになるんだ?]

[親しくなる、というのは呼び捨てと敬語で決まるのか?]

[ユウキが七つの大罪で親しいのはディアンヌだけなのか?]

「、え?そ、そんなことは無いと思いますが…」

なぜ、そんなことを聞かれるのですか?

三つ目の質問に声にならなかった疑問が頭を駆け巡った。
確かに私的には七つの大罪で一番交流と言うか、関わりがあるのはディアンヌだと思う。
同じ女性ということでマーリン様の事も気にはなるが、なかなかお話しする機会が無い。
男性で言えばゴウセル様が一番お話しをするし、親しいと思っていたのだが、私の思い込みだったのだろうか。
最後のディアンヌだけというワードが妙に気になった。
使用人同士ならまだしも、主を私の判断で呼び捨てなどにするわけにはいかない。
ここはゴウセル様に納得していただかなければならない。


「使用人の私が主を呼び捨てしたり敬語を使わなくても良いというのは、相手の方との親しさとその方の許可が必要です」

[では俺が許可したらユウキは敬語と様付けを止めるのか?]


暫し顎に手を持って行き考える素振りをしていたゴウセル様が、衝撃的なことを聞いてきた。
え、聞き間違い?いやいや、この距離でそれはない。
私はそれほど鈍い方ではない(何故かこれを言うと同室の使用人達やディアンヌにため息をつかれる)ので、これは取り方によってはゴウセル様にその気があるように聞こえなくもない。
だが、今はあくまで親しさの話であり、きっとゴウセル様は友人的な意味で質問されたのだ。

騎士と良い関係になる使用人は多い。
現に同室のメリザは今は騎士と付き合っている。
友人の趣味にとやかく言うつもりはないが、ガチムチでダンディーなおじさまは正直そこまで好みじゃない。
おっと、今はそんなことを考えている時ではない!


「…ゴウセル様は私と親しくなりたいのですか?」


短い間ではあるが、伊達に今まで付きっきりでお世話をしてきたわけじゃない。
少しくらい彼らのことを知ったつもりだ。
私の見立てでは、ゴウセル様に遠回しな質問は通用しない。
抽象的な質問では彼は理解できないし、結局はそのことをまた突かれるはめになる。
これはキング様とゴウセル様のやり取りで学んだ。
キング様はあまり人にものをハッキリ仰るタイプでは無いから、ゴウセル様とは会話の端々に解釈の相違やじれったくなる場面が多くあった。
それでも仲が悪いというわけでもないので、ちょくちょく会話しているところをお見掛けする。


[分からない。だが、ディアンヌにはそうであって、俺にはそうでないことが嫌だと思うのは、親しくなりたいからではないのか?]

ここで言うそうである、というのは呼び捨てで且つ敬語不使用のことだろう。

「…そうですね。そう思われておいでならそういうことかもしれません。

ゴウセル様は私が敬語を使わない方が嬉しいですか?」


あの時私はディアンヌに喜んでほしかった。
彼女は巨人族であり七つの大罪であるが故に、友人が出来ないことを嘆いていた。
ゴウセル様はいつも感情が欠けているような話し方や言葉の選び方をされる。
ご自分のことなのに、まるで他人事のように。
きっとそれは、生い立ちや過去に関わりがあるのだろう。あんなに賑やかな七つの大罪の方々と居るのに少しも感情に変化がないから。
もしそんなゴウセル様が私と親しくなりたい、砕けた話し方の方が嬉しい、と思ってくださるのなら、私は願いを叶えて差し上げたい。


[嬉しい、という感情が俺には分からない。ただユウキが敬語を使わない方が、何故か温かくなる]

そう言うと同時に、ゴウセル様は胸に手を当てた。
その姿に、なんだかキュンと胸が鳴った。
大きな鎧が胸に手を当てているなんて、パッと見不思議だが、あのゴウセル様が凄く天然さんのように見えて可愛かった。


「っ、分かりました。ではこれからはゴウセル様とは敬語なしでお話しするように致しますね。正式な場などはご勘弁を」

[あぁ、承知した。ユウキ、ありがとう]



ゴウセル様が過ぎ去ったあと、少しの間現実を受け止められずにいた。
あれって…告白じゃないの?心の中でその考えが一部に芽生えた。
だが、他の思考がそれを掻き消そうと様々な問題点を指摘する。
使用人と主では身分が違い過ぎる、特殊な力があるとはいえ戦闘に不向きだし迷惑がかかる、そもそも顔どころか素肌すら晒したことのない人だ。勿論身体的特徴なんて大きい鎧以外一切知らない。
やはり、ゴウセル様のあの発言は感情を理解できないが故に表現を誤ってしまったものだと結論付けた。


色々な理由をつけて、それを踏み越えないことに必死だった。







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