続き物
流される血
※流血表現有
戦闘態勢に入ったゴウセル様の胸にドレファス聖騎士長が剣を突き刺すと、二人は時が止まったかのように動かなくなった。
ゴウセル様の指がドレファス聖騎士長の頭に触れているのを見る限り、ゴウセル様の技が発動しているようだ。
そんな時間もすぐに終わり、先に動き出したのはドレファス聖騎士長だった。
ゴウセル様の技が破られ、彼だけが正気を取り戻したらしい。
そのままゴウセル様に止めを刺そうと剣を振り翳したが、それは振り下ろされることなく地面に突き刺さった。
思わず悲鳴を上げ駆け寄りそうになった私を、近くにいたギーラ様が危険だと止めた。
顔を青くしたドレファス聖騎士長はギルサンダー様に連れられ、この場をヘルブラム卿に託して行った。
やる気を出したらしいヘルブラム卿と目が合い、私は以前ギーラ様に言われた事を思い出した。
私の魔力に興味を示したヘルブラム卿が私で実験したいと言っていた事だ。
未だにあの時の背筋が凍るような恐怖が頭から離れなかった。
私と目が合ったヘルブラム卿は眼帯をしていない方の目をスッと細め、口角上げながら言った。
「チミの魔力はずっと気になってたんだよねェ〜
出来れば生け捕りにして実験したいところだけど、今はコッチを片付けるのが先かな?」
「アンタ一人なら勝機は――」
「プフッ!!
だとしたらチミら、若さと勢いだけじゃなく救いようのにゃいカス以下のクソ甘野郎ってことだよン」
「いくぞ!!」
「混戦じゃなくなったってことはさァ〜っ俺っちも好き放題出来るってこと、お忘れかにィ〜〜!!?
もしこれを食らって生きてたらチミは晴れて俺っちのモルモットだよン♪」
"地獄の呼び声(コール・オブ・インフェルノ)"
ヘルブラム卿が地面に剣を突き刺すと、黒い霧のようなものが辺り一面に出現した。
何か分からないそれを吸い込んでしまった瞬間、一気に呼吸が苦しくなり咳込むと喀血した。
息もままならない苦しみと痛みに、立っていられず地面に跪いた。
その状態は戦っていた二人とディアンヌの傍にいた私だけでなく、ディアンヌとその手の中にいたジール様や戦闘不能のジェリコ様にまで及んだ。
味方をも巻き込んだ攻撃にハウザー様は信じられないとばかりに声を上げた。
ギーラ様が壁に背を預けて崩れ落ち、ハウザー様がそれに気を取られているとヘルブラム卿は黒い霧を更に濃くしようとした。
しかしその前にディアンヌが瀕死の体に鞭を打って拳を振り下ろした。
「だ…れも…死なせるもんか…!!」
「でぃ、あんぬ…」
「ディアンヌ…!!お前、その体…で、ごほっ」
「ハウザー…!この子とユウキを連れて逃げて…!」
「だめ…ディアンヌ、を置いて…行けないよ…」
「…っざけんな!!
またそうやってお前は…他人のこと…ばかり…、ガハッ…、少しは自分のこと考えやがれ…!!」
振り下ろした拳を引き上げることも出来ず、ディアンヌは四つん這いの様な体勢のまま言った。
ジール様はギーラ様によってディアンヌの手の中から連れ出された。
ディアンヌの発言に反論するハウザー様。
その直後、ディアンヌに潰されたヘルブラム卿が攻撃を仕掛けてきた。
「しつこい巨人だ…神器も振るえない体で俺っちを倒せるわけないでしょーが。
勿論、大事なモルモットも逃がすわけないじゃん」
"殺しの氷山(キラーアイスバーグ)"
一瞬の出来事だった。
巨大な氷柱がディアンヌの腹部を貫き、既に瀕死の状態だった体に追い打ちをかけた。
ハウザー様が大きくディアンヌの名前を叫ぶが、意識を失っているのか反応がない。
このままでは次の一撃を自力で防ぐのは無理だろう。
ヘルブラム卿も次が止めと悟り、人間大の大きさの氷柱を幾つも出現させた。
呼吸が辛い、苦しい。
今も呼吸する度、止め処なく気管から出血している。
気管が詰まらない様に咳き込む反射も、今は苦しくて堪らない。
それでも、走らないと。
このままでは本当にディアンヌが死んでしまう。
跪いていた膝と怖気づく心を奮い立たせ、始めはよろよろと、次第に勢いに任せて瓦礫にぐったりと凭れるディアンヌの所まで走った。
ディアンヌに集中しているのか、私が走り出したことにこの場の誰一人として気が付いていない。
握ったままだった簪とピアスを、ポケットに入れる。
直接触れていなくても、きっと大丈夫。
足以外に上手く力が入らないから、落としてしまうかもしれない。
「バハハ〜イ」
「やめ…て…」
「やめろー!!」
「まに、あえ…!」
ギーラ様とハウザー様の声が横から後ろに過ぎ去っていく。
伸ばした手が、張った防壁が、僅かにディアンヌの体を取りこぼす。
それでも体の大半は覆うことが出来た。
後ろにいるディアンヌを中心に張った防壁は私の全身を覆っているわけではない。
ディアンヌの左肩から先と左足、そして私の右半身は防壁に覆われていなかった。
パリンッ
私の張った防壁に当たり砕けた氷と、何かに砕かれた氷が宙を舞った。
パラパラと降り注ぐ砕けた氷の中、ディアンヌを背に庇い宙に浮く少年がいた。
その少年は見覚えのある特徴的な槍を従えていた。
私の記憶の人とは全くの別人だが、今思い浮んだのはその人しかいなかった。
「これはこれは妖精王殿……ちと遅すぎたねぇ?」
ディアンヌを庇い、その痛々しい姿に涙する人は、キング様なんだと。
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