続き物
起床は午後
※はじまり









そこそこセキュリティのちゃんとした小奇麗な五階建てマンション。
その304号室のドアが開いた。
現時刻朝の七時三十八分。
部屋の主は赤紫色の髪に眼鏡を掛けた女顔の少年。
服装が学ランなのを見ると学生で、これから登校するのだと分かる。
しかし少年は部屋を出たかと思いきや、隣室の305号室の鍵を開け何の躊躇もなく入って行った。

持っていた合鍵を使って玄関を開けると、慣れたようにキッチンへ行きおかずをレンジに入れてスイッチを押すと、とある部屋に向かった。
そのドアを開け、部屋の主が眠るベッドを揺するが起きる気配はない。
その後声を掛けても布団を引っぺがしても起きない人物を暫し観察すると、少年は勝手にハンガーに掛けられたセーラー服を持ち出した。
どうやら部屋の主は少女のようだ。
しかしそんなこともお構いなしに少女の白黒のパジャマを脱がすと、今度こそ寒さで少女は起きた。


「さむ…ん?ごうせる?」

[おはよう、ユウキ。遅刻するぞ]

「おはよぉ。ごはんは?」

[ユリコさんが用意していったものを温めた]

「分かった。じゃあ着替えるか〜」


ユウキと呼ばれた少女は服を脱がされたことには気にも留めず、下着姿のまま制服に着替えた。
ゴウセルと呼ばれた少年は、少女が着替え始めると無言で部屋を出て電子レンジから温めたおかずを取り出し、朝食の用意をしていた。
着替え終わった少女が部屋から出てくると、二人は少年の用意したご飯を食べた。


[昨夜もゲームしていたのか?]

「うん!新しいクエストが配信されたから素材を集めに」

[そうか。だがあまりやり過ぎると起きれなくなるぞ]

「その時はゴウセルが起こしてくれるでしょ?」

[俺に頼り過ぎだ。それくらいは自分でやるものだろう]

「え、そうなの?」


食事しながら会話をする二人は幼稚園から一緒にいる、所謂幼馴染だった。
小中高と同じ学校でクラスも時たま重なるくらいには接点があった。
そして一番の接点が住んでいる部屋が隣同士であることだ。
ゴウセルは中学生の時に両親が仕事上の都合で海外へ行って以来、一人暮らしをしている。
ユウキはシングルマザーの母、ユリコと二人で暮らしている。
二人の保護者の仲が良いことと、一人暮らしをするゴウセルを心配してユリコは二人分の食事を作っていた。
弁当はゴウセルが適当にレシピを見て作る。
因みにユウキは料理が一切出来ない。


食事を終えた二人は今度こそ学校に向かうべくマンションを出た。
電車で学校の最寄り駅まで行き、そこから徒歩で15分ほど。
やや坂のある道を登って見えるのが、二人の通うリオネス学園である。


ゴウセルは見た目こそ女顔で細身だが、この学園では知らぬ者がいない程の問題児だった。
ユウキはそのゴウセルを唯一無条件で従わせることが出来る生徒としてある意味で有名人だった。
そんな有名人二人が登校する様はやはり人目を引いた。
しかしゴウセルはどこ吹く風、ユウキは眠いらしく半寝でゴウセルに手を引かれていたので全く気が付いていなかった。
教室へ行くと、クラスメイトのキングとバンが挨拶をしてきた。


「おはよ」
「おーっす♪」

[おはよう]
「おはよ。朝からキングがいるの珍しいね」

キングはサボりの常習犯で、この学園の有名人の一人だ。
因みにバンは生徒への恐喝、備品の強奪、無断借用などで有名である。
その他にも数名の有名人基問題児がこの学園にはいるが、それはまたの機会にしよう。
遠巻きに見ているクラスメイトには見向きもせずに席に着くと、早速今ハマりのゲームを始めるユウキ。
ゴウセルはその隣の席に座ってじっとゲームするユウキを見ている。
本来ユウキの隣だった生徒はこの朝の光景を知っているので、放課後の席替え後早々に自分の席をゴウセルと交換した。


「またゲームしてるの?今度は何?」

「この前発売されたハント系のシュミレーションゲーム」

「ゴメンユウキに聞いたオイラが間違いだった。
ゴウセル、このゲーム何?」

[それは先週発売された≪dragon hunter≫略してドラハン。
何種類ものドラゴンとその亜種が登場する。
それを仕留めて装備にしたり、卵を育てて相棒にするゲームだ。
オンライン機能があるので他プレイヤーと連携したり育てたドラゴンを戦わせることが出来る]

「ふーん、でユウキはどれくらいやってるの?」

[発売してから3日でおよそ35時間はやっているな]

「ハァ!?じゃあ連休中寝ている時以外やりっぱなしって事じゃないか!!」

[食事中は取り上げているからやっていない]

「いや、そういう問題じゃないから!!」

「…ちょっと静かにして。今ラスボス」

[キングのせいで俺まで怒られた]

「ちょ、オイラのせい!?ってユウキ!もう止めなよ!チャイム鳴っちゃうよ!?」

「もう少し」

[そろそろ渡せ。ユリコさんにも言われている]

「…分かった」


母親の名前を出され渋々と言った感じで持っていたゲーム機をゴウセルに渡したユウキ。
勿論先程のラスボスはクリア済みだ。
これで今最新のクエストは制覇した。
午前中は良いだろう、とユウキは持ってきた教科書を出した。
しかし、時間割と出した教科書を見比べて、ユウキは呟いた。


「あ…間違えた」

[どうしたユウキ?]

「おいゴウセル、今はホームルーム中だ。静かにしろ」

「教科書違うの持ってきた…」

[なら俺のを使え]

「いや、お前も同じ授業受けるんだぞ、貸してどうする!
キング、まだ授業前だ、寝るな!!
バンはどこ行った!?」

「ドレファス先生…声大きいよ」

「えぇい!!なんでこのクラスは問題児が三人もいるんだ!!!」


私立リオネス学園高等部二年B組担任のドレファスは、毎度毎度繰り広げられるこの生徒たちの問題行動に頭を悩ませていた。
ドレファスの担当教科は現代文。
今日の一限目は担任であるドレファスの授業だった。
勿論バンは既に教室には居らず、キングは早々に爆睡している。
ユウキは毎朝恒例のように行われるこのやり取りを見て、早くゲームしたいと思っていた。
ゴウセルはユウキが教科書を忘れたのを良いことに机をピッタリくっ付けようとしている。
普段から二人の机の距離は他生徒達に比べて半分という近距離だったが、ここぞとばかりにその距離をゼロにしようとしている。
それに気が付いたドレファスは、すかさずゴウセルに向かって声を張り上げた。


「ゴウセル!!サギサカとの距離が近すぎる!!教科書を見せるだけならそんなに近づく必要はない!!」

[より見やすくするために必要なことだ]

「…眠い」


舟を漕ぎながら二人の不毛な会話を聞き流しているユウキは、早く学校終われ。
と念じるのだった。



放課後、ユウキはいつものように部活動に行く生徒達をぼーっと眺めながら椅子に座っていた。
そうしているうちにゴウセルが迎えにやって来る。
ゴウセルの部活は演劇部、ユウキはパソコン部だ。
しかし、パソコン部とは名ばかりでその実ゲーム好きの集まるゲーム部のようなものだった。
何かルールがあるわけでもイベントがあるわけでもないが、同じ趣味を持つ仲間が集まる、と言うのはそれだけでも楽しいものだ。
新作ゲームの話や攻略方法、通信など様々な付き合いが出来る。
例え日常で会話を一切しなくとも、部活中やコミュニティ掲示板内で話せれば良い、と少なくともユウキは思っている。

彼女の性格上あまりしつこく絡んでくる人間は好まない。
その辺りをゴウセルはちゃっかり把握しており、嫌がられない程度にくっ付いているのだ。

そうしてゴウセルの部活が終わるまでパソコン室でゲームを楽しんだユウキは、迎えに来たゴウセルと共に自宅に向かうのだった。


そしてパートから帰宅した母ユリコとゴウセルと共に夕飯を食べ、風呂に入り歯を磨く。
深夜にはゴウセルが部屋へ来てゲームを取り上げて行くので、渋々眠りにつく。
これが彼女、サギサカユウキの日常である。







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