続き物
ifアーマンドのもとへトリップ@
※アーマンドとしてオーダン村で暮らしていたゴウセルのもとへトリップ








ゴウセルが帰ってしまって半年、私は新しく借りたペット可のマンションでネイと暮らしていた。
新しくなった部屋に最初はそわそわしていたネイも、半年も経てば慣れたようでもう我が物顔である。
ただ未だに気掛かりなのは、前の家でいつもゴウセルが座っていたベランダのカーテン裏に居ることだ。
少し目を離すといつもそこにいる。
半年経った今も、ネイはゴウセルの帰りを待っているのだ。
それを見る度、胸が締め付けられるような傷みと穴が空いたかのような喪失感に襲われる。


「ネイ、ご飯だよ」


今日もまた、ゴウセルの帰りを待つようにベランダ前で寝そべっていたネイを呼んだ。
この子は頭が良いようで、呼べばちゃんと来てくれる。
しかし、いつもは真っ直ぐこちらにやって来てご飯を食べるネイが、なかなかこちらへ来ようとしない。
ジッと私を見たまま動かないのだ。
いや、正しくは私の後ろ…。


「ネイ?どうし、っ!?」


後ろを振り向いた瞬間、私の体を突風が攫った。
室内に何故か吹き荒れる強い風に目を開けていられず、真っ暗な視界の中、穴に落ちるような浮遊感を感じた。
僅かに開いた眼にはフローリングの床にぽっかり空いた穴と、それに落ちていく私、そしてテーブルの下に避難している愛猫が映った。
飼い主を置いて逃げるとは何て奴だ。
自分の状況を深く考えずに、呑気にそんなことを思っていた。


下から来る風と浮遊感から、恐らく落下しているのは分かった。
しかしこの状況をどうにかする方法なんて私は知らないし、いつまで落ちているのかさえ分からない。
一体私の家のフローリングは何処に繋がっていると言うのか。

暫く落ちていると、浮遊感に慣れてきたのか思考する事が出来た。
少なくとも今落ちているのは家の床下ではない。
以前ゴウセルが落ちて来た様に私も何処かに落ちているのだろう。
だとしたら、このまま落ちていればゴウセルのもとへ行けるのだろうか。

そう思い至った途端、下から光が当たり景色がガラリと変わった。
暗闇からいきなり光の中へ放り込まれ、眩しさで目が開かなかったが、薄目で確認した所外へ出られたらしい。
しかし状況は最悪だ。このまま行けば落下の衝撃で苦いトマトケチャップになるのは必至。

やっと開いた目で地上を見ると、何処までも続く森と山。
運良く葉の茂った木に落ちれば即死は避けられるかもしれないが、無事では済まないだろう。
そうこうしているうちに地面は直ぐそこだ。

私は目をきつく瞑って身を縮め、頭を腕で覆った。
そこから先は良く覚えていないが、大きな衝撃で意識を失ったようだ。



「ん?あそこに誰か倒れてないか?」

「本当だ。おい、大丈夫か?…どうする?」

「オーダンの娘か?怪我してるみてぇだし、ついでに連れてってやるか」



ガタガタと揺れる床とそれに伴い痛む身体に目が覚めた。
どうやら何かに乗せられているみたいだ。
木の積荷が山になっていて、その隙間に私は転がされている。
一体何の積荷何だろう。まさかヤバい物だったりしないだろうか。
不安になりながら、改めて自分の身体を見ると直撃は免れたが着地に失敗したらしい。
所々服が切れて血が滲んでいる。
左から落ちたのか打撲したようで左半身がとても痛い。
だがあの高さから落ちた割に軽傷だ。

結局何も出来ずぼーっと揺られていると、急に揺れが止まった。
そして荷車のドアが軋みながら開けられていく。


「お、起きてたか。ほら着いたぞ、オーダン村だ」

「あの、つかぬ事をお聞きしますが、貴方は誰ですか?」

「俺は旅商人のレアンだ!オーダン村に来る途中、倒れてたお前を拾ったのさ。お前オーダンの娘だろ?あんな所で木登りなんて危ないぜ」


中々のマシンガントークにポカンとしていると、レアンの後ろからぞろぞろと体格の良い男達が出て来た。
彼等は村や町を渡り歩く旅商人で、オーダン村を通過しようと山道を進んでいる所で私を見つけたという。
オーダン村からそう離れていなかった為、私を村の娘と勘違いした様だ。
人里に連れて来てもらえたのは有難かったので、一先ずお礼を言って外へ出してもらった。
広い畑と風車に囲まれた小さな村だが、とても活気があった。
子供達の声が遠くから聞こえてくる。


「んで、お嬢ちゃん家は何処だ?その怪我だし、ついでだから送ってってやるよ」

「あ…いえ、私はもう大丈夫なので!」

「大丈夫な訳ねぇだろ、さっきまで動けなかったじゃねぇか。レアンに送ってもらえ」


こ、困った。
私はこの村の人間では無いし、勿論家なんて物は無い。
なので送ってもらった所で行き先が無いのだ。
けれどそんな事を言ったら、では何処に住んでいるんだという話になる。
空の上から見た景色では広大な森林が大地を覆っていた。
森林伐採なんて問題は無さそうである。
この事実と、彼等旅商人の服装から、何と無く私のいた世界では無い様な気がした。

国ではなく世界と思ってしまう辺り、ゴウセルに影響されているのかもしれ無い。


「おい!アーマンド遅れてるぞ!」

「すみません、ペリオ坊っちゃん…」


さっきまで遠くで聞こえていた子供達の賑やかな声が、いつの間にか近付いていた。
ズンズンと一人先へ進む子供に着いていく男の声には聞き覚えがあった。
説得して来るレアンさん達の声を聞きながら、目は彼に釘付けだった。

「ゴウセル…?」

私の吐息の様な呟きを拾ったのは、一番近くにいたレアンさん達でも、子供達でも無かった。

「ユウキ?」

ハッキリと私の名前を呟いた彼は、子供の後を歩くのを止め、一直線にこちらへ来た。


「ん?お前この子の知り合いか?じゃあ家まで送ってってやってくれよ」

「あ、はい。どうもありがとうございます」

無表情でこちらへ来たかと思ったら、急にヘラリとした口調で後頭部を掻いている。
全くキャラが掴めないし見た目が少し違うが、恐らく彼はゴウセルなのだろう。

レアンさん達にお礼を言って別れた後、ゴウセルはポケットから何かを渡してきた。


「あ…これ…」

「あの時渡された”いるか”だ。何故か手放せなかった」

「ずっと持っててくれたんだ。ありがとうね」


彼が元の世界に帰る前に渡したイルカのストラップ。
鮮やかなピンク色だったそれは、今はもう見る影も無いが確かに私が渡した物だった。
私もポケットからケータイを取り出し、青いイルカのストラップをゴウセルに見せる。


きっとまた会える。
あの時の言葉を思い出しながら、反射したレンズ越しの瞳を見つめた。





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