続き物

※ゴウセルと再会









突然の轟音と落ちてくる瓦礫、そして影しか分からなかったが大きな人影、恐らく巨人族。
その近くを歩いていた町の人々は驚き、そして恐怖して逃げ惑った。
私の居る場所はそこからそう離れてはいないが、被害は一切被っていない。
代わりに何が起きたのか殆ど把握できなかった。
私の周りの人たちも同様に事態を把握していなかった。


立ち尽くす私達にドレファス聖騎士長の声が響いた。
七つの大罪が攻撃を仕掛けていて、国が窮地に陥っているというものだった。
それを聞いた国民は落ちてきたらしい巨人が町を破壊していると思い込み、瓦礫や木片を投げ付けていた。
私はすぐにその巨人がディアンヌだと気付いて、現場へ向かった。

その道中、小さな男の子がお姉ちゃん、と言いながら私と同じ方向へ走って行くのを見た。
その子はお姉ちゃんという単語の他に、ギーラお姉ちゃんとも言っていた。
もしかしたらあの子はギーラ様の弟のジール様かも知れない、とその子の後を必死で追いかけた。
けれどやっと追い着いた所で、そこはディアンヌのいる戦場と化した場所だった。
私がディアンヌを、ジール様が少し離れた場所にいたギーラ様を呼んだ瞬間、私たちの頭上の家から大きな瓦礫が落ちてきた。


遠くからギーラ様のジール様を呼ぶ悲鳴にも似た声が響いた。
私はすぐにジール様を抱き締めて庇い、懐から簪を出し握りしめた。
だが最低限私達を覆うバリアの様な膜に何かが触れた衝撃がなく、抱き締めた腕を緩めて顔を上げると何かが私達に覆い被さっていた。
それはよく見ると、所どころ怪我をして血を流しているディアンヌだった。
十年振りの再会に嬉しさが込み上げてくるが、今はそんな場合ではない。
ディアンヌも私に気が付いたらしく、ユウキ?本当に、ユウキなの?としきりに聞いてきた。
けれど血を流し過ぎたのか、焦点の定まらない目が虚ろに私を捉えているだけで、ディアンヌの身体は一向に動かない。
いや、動けないのだ。
怪我はもう巨人族が云々の話ではないほどに深く、重症だった。
恐らくあと一撃でも食らえば命すら危ういだろう。
ドレファス聖騎士長達が目前に迫ってきているのがディアンヌの腕の間から見えた。


そこへ、二人の聖騎士が私達とドレファス聖騎士長との間に立ちはだかった。
一人はギーラ様、もう一人はギルサンダー様とよくいる所を見掛けていた、ハウザー様だったはずだ。
ヘルブラム卿やジェリコ様等が説得するが、ギーラ様もハウザー様も腹を決めているようだった。
腕の外へ出て行こうとするジール様をディアンヌと二人で制止した。
ギーラ様とハウザー様の合わせ技が四人を攻撃するが、どうやらジェリコ様が被害を被っただけに終わったようだ。

ギルサンダー様は雷の如き速さで二人の攻撃を避けていて、背後からギーラ様を攻撃しようとしたが、その速さを知るハウザー様が寸での所でそれを受け止めた。
ヘルブラム卿は自らの魔力により聖騎士達から借りた魔力で難を逃れた。
あの凄まじい合わせ技による爆発を直に食らっても傷一つないドレファス聖騎士長に、ギーラ様は動揺を隠しきれていなかった。


ドレファス聖騎士長がその腕を振り上げようとした時、私はギーラ様に向かって走り出していた。
彼女を呼ぶ私の声を聞いて振り返ったギーラ様が細く切れ長の目をやや見開いて私を見た。
ジール様を追いかけている時に被っていた外套はとっくに落ちていた。
素顔の晒されている私に、その場にいた数人が驚いたような声を上げた。


「お前は何故あの時のままなんだ!」

「貴女は…ユウキ、なの?」

「ドレファス殿?ギーラたん?」

「何故昔と変わっていない…ユウキ?」

「ギル?あいつ、如何したんだ?いや、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ!」


驚いたような声を上げたのは私と普段会話をされていたギーラ様。
そして七つの大罪に仕えていた頃を知っていたドレファス聖騎士長とギルサンダー様。
彼等が恐らく一番私を見掛けていただろう時期と今の私の容姿は全く同じだ。
ドレファス聖騎士長は10年前のあの裏切りの日を思い出すのだろう、顔がやや青くなっていた。
そんな彼らにハウザー様は疑問に思うも、今はそんなことを言っていられる状況ではないことを思い出したのか、再びギルサンダー様と競っている武器に力を込めた。

困惑するギーラ様とギルサンダー様を置いて一人我に返ったドレファス聖騎士長が、ギーラ様とその隣に立つ私に向かって剣を振り下ろした。
羅貫、ドレファス聖騎士長の持つ魔力"砕貫"により巨人族であるディアンヌの体すら貫通させるほどの威力を持つ技である。
この技を食らえばどうなるか、少し考えれば簡単に導き出せる答えに私の足は震えていた。
それでも後ろにギーラ様と気絶しているディアンヌ、そしてその腕の中にジール様がいるのを思い出すと、自然と右耳のピアスを外していた。
王国に仕えてから十数年、一度も使っていない魔力の作る防壁は一体どれ程の強度があるのか私にも分からない。
しかしここで出さなければ皆死んでしまうのは目に見えている。

左隣にいるギーラ様を力の限り左へ突き飛ばし、汗でヌルつく右手でピアスを、左手に簪を握りしめた。
ドレファス聖騎士長の剣から閃光が放たれる瞬間、恐怖でギュッと強く目を瞑った。


目を瞑っているため真っ暗になっている視界の中、突然の浮遊感が私を襲った。
直後、右からボコォ!!っと地面が抉られるような音がした。
恐怖で未だ目を開けられない私の体を誰かが抱き上げているのだけは分かった。
どんどん体が上がっていくような感覚を覚えていると、下から誰だ!?と問うヘルブラム卿とハウザー様の声がした。


[誰でしょう]


すぐ近くから聞こえてくる感情的な抑揚に乏しい、何処か懐かしい声。
その話し方には聞き覚えがあった。
ゆっくりと閉じていた目を開くと、膝裏に回され右膝上に添えられた誰かの手腕が見えた。
その腕は細くて、とてもじゃないが先程の声から私が思い浮かべていた人物とは程遠かった。
徐々に左上に顔を持ち上げ、その過程で右胸にある羊の紋様が目に入る。
その紋様は声の主が私の考えていた人物であることを裏付けるものとなった。
しかし、その人物はかなりの大男でこんな細身の体格ではなかった。


[怪我はないか?ユウキ]

「ご…せる、様?」

[十年振りだな。あの約束はまだ有効か?]

「っ本当に…ゴウセル、なんだね」

[いくつか聞きたいことがあるが、今はそれどころではないらしい。
一度下で降ろすから離れていろ]

「うん…」


いつか呼び捨てで。
その約束を知っていた彼を疑う理由はもう、私にはなかった。
けれど再会の喜びも束の間。
屋根の上に退避した私とゴウセル様をこの場の全員が見上げていた。
彼が手配書とは似ても似つかぬ風貌をしていることもその一つだろう。
急な助っ人にギーラ様もハウザー様も困惑していた。
しかし私の記憶から状況を察したらしいゴウセル様が二人に労いの言葉を掛けたことで味方であると踏んだようだ。
屋根からストンと降りて私を解放したゴウセル様は、ドレファス聖騎士長と向き合った。


[ドレファス、お前を全力で倒す]

ゴウセル様の身を案じながらも怪我をしているディアンヌの元へ走った。









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