続き物
変えられる男
※買物








長話で昼を過ぎてしまったが、外で食べる予定だったので冷蔵庫を開けても食べ物が無かった。
もう選択肢は外出しか残っていない。
結局ゴウセルの服は上だけ私の紫のトップスと白よりの灰色のパーカーを貸した。
私は黒のカーディガンに青のブラウスとグレーチェックのスカートだ。
冷蔵庫に興味津々なゴウセルを引き摺って車まで連れて行くが、乗せた後で髪色に気付いた。


「そう言えば見た目変えられるって言ったよね?髪色は?」

[可能だ。お前と同じ色にすれば良いか?]

「あー、それよりも黒の方が良いかな」

[分かった。黒にしよう]


ゴウセルがそう言った瞬間、髪の色が赤紫色から濃くなって黒へと変化していった。
私は茶髪だがゴウセルは黒の方が似合うだろうと思い、黒をオススメしておいた。
キーを挿してエンジンをかけると、ゴウセルは表情にこそ変化は無いものの行動には興味を示している様子が現れていた。
後部座席でシートを触ってみたりベルトを引っ張ってみたり、寝転がったりと好き勝手している。
このまま発車するわけにはいかず、ちゃんと座席に座るように言うとゴウセルは素直に従った。
車酔いするかも知れないので少しだけ窓を開けて、一言断った。


「もし気持ち悪くなったら言ってね」

[それはどういう意味だ?]

「酔って気持ち悪くなっちゃう人がいるの」

[俺は気持ち悪さというものを感じた事がないからどんなものか分からない]

「そうなの?じゃあ大丈夫そうね」


私は周囲を確認してアクセルを踏んだ。
気を使っているのか、発車してから一言も発しないゴウセルを気にして信号でバックミラーを見た。
するとゴウセルはシートに寄り掛かりながら窓の外を見ているようだった。
その姿に何も言えず、私はただ車を走らせることに集中した。

家を出てから車で二十分ほどの所にあるショッピングモールへ着き、駐車場の空きを探して何とか出入り口近くを取ることが出来た。
まずは遅い昼食をレストランで摂る。
ゴウセルの国の食文化がイマイチよく分からなかったので、パスタやピザをメインとした洋食店に入ることにした。
様々な国や文化の食事が乱立するレストラン街をきょろきょろと見回していたゴウセルだったが、パスタは馴染みがあるようだった。


[…これはメニューか?精巧な絵が貼ってあるが]

「そうよ。これは写真。空間を写し取れるの」

["しゃしん"か…便利だな。この文字はどうやら俺の知る文字では無いらしい]

「え?でも看板は読めてたよね?あぁ、英語だからか」

["えいご"とはなんだ?]

「ゴウセルが読めた文字はね、私の国では英語って言ってるの」

[そうか。俺はメニューを読めないからユウキが選べ]

「嫌いなものある?一応読むね」

[特にない。……それは知っている]


文字は読めないのに言語は通じるらしい。不思議だ。
一通りメニューを読むとゴウセルはミートソーススパゲティを選んだ。
何となく可愛いと思ったのは秘密だ。
因みに私はサーモンのクリームソーススパゲティを頼んだ。
運ばれてきた料理を黙々と行儀良く食べるゴウセル。
気になったので味を聞いてみた。
ゴウセルは味の嗜好が無いので美味しいのかは分からないが、匂いや食感は良いと言った。
追加で頼んだパンに至ってはやや粘るが柔らかいと言いながらもふもふと食べていた。
遅い昼食を食べた後、メンズ服の階へ向かった。
動き易ければ何でも良いと言っていたので、とりあえず装飾の多い服は避ける。
シンプルな長袖を六着、シャツを二着、ジャケット一着、パーカー二着にカーディガン二着、ジーンズを三本、チノパンを二本、スウェット上下を三着、下着を六着靴下六足と靴三足を買った。
流石に全て買うだけの現金は持ち合わせていないので、あまり使わないカードで支払った。
ボトムは全てゴウセルの希望でスッキリした細身のものだ。
現在の季節が十月の後半のせいか、半袖はあまり良い物が無かったのでまた機会があればにする。
大量に買ったそれを見て、ゴウセルは謝罪した。


[こんなに大量に買わせてしまってすまない]

「良いよ、これから必要でしょ?どれくらいコッチに居るか分からないし、無いと不便だろうから」

[ありがとう]


購入した大量の衣類は全てゴウセルが抱えている。
持っている大量の荷物と無表情が全く噛み合っていないが、一応大丈夫か聞いたところ問題ないとのことだ。
一体細身のその体の何処にそんな力があるのか。
通り掛かる他の客からの視線が痛い。

ゴウセルの容姿は髪を黒くしたは良いが顔立ちは目や唇が女の様で彫りが深く外人寄りだ。
だが身長は日本人男性の平均のそれよりも高いしスタイルも細身で大量の荷物を軽々と持っている、所謂今流行りの細マッチョだった。
地味目な眼鏡で長めの黒髪にも関わらず、以上のポイントからちょくちょく女性の視線を集めていた。
視線を感じる度に私は荷物は持たせているし何だか居たたまれない気持ちになるのだが、当の本人は何処吹く風状態で荷物を運んでいる。


一度車へ戻り荷物を後部座席へ詰め込む。
するとゴウセルが本を見たいと言うので、英語表記のフィクション本を八冊程購入した。
再び車へ戻ると、衣類と本だけで見事にゴウセルが行きに座っていた場所はスペースが無くなった。
続いて今夜からの食糧を調達するために一階の食品売り場へ向かった。

カートに籠を二つ置き、ゴウセルに逸れないよう注意してから店内を回った。
時折見たことはあるか、食べたことはあるかと聞きながら籠に商品を入れていく。
どうやらヨーロッパの料理は比較的知っているものが多いようだ。
一人だと何かと面倒であまり手の込んだ料理を作る事はないが、今日は流石にそんなわけにはいかないだろう。
籠二つ分の食糧と日用品を又もやゴウセルに持たせてしまった。
衣類に続きこちらまで持たせてしまうのは悪い気がしてすぐに断ったのだが、結局私の方が押しに負けた。


トランクと後部座席は買った荷物で一杯だったので、ゴウセルには助手席に座ってもらった。
行き程の元気がなくなった私は、逆に行きよりも元気になっているゴウセルのマシンガントークを聞きながら車を走らせた。
何度か無視してしまったがゴウセルは一人で喋り続けていた。
内容は今日見た物全般の考察と感想だ。
無駄な装飾が多いがその割に物が整頓されていて素晴らしい、などなどなどなど。
アパートに到着するまでにゴウセルに生気を全て吸い取られたんじゃないかとさえ思った。

車の荷物は全てゴウセルが運んでくれたので、仕分けや説明を加えながら少しずつ片付けていく。
夕飯前には食品以外のすべての物をゴウセルの部屋に収めることが出来たので、取り敢えず良しとする。
入浴後に何故かゴウセルと鉢合わせたりなどの少女漫画的な展開もあったのだが、私に昼間ほどの元気がなかった為、ゴウセルを無視して下着のまま敷布団に飛び込んだ。
すると何故かゴウセルまで一緒に寝転がってきたので、私はゴウセルの部屋はあっち〜と間の抜けた声を出した。
しかしゴウセルは動く気配がなく、そのまま抱き込まれてしまった。
一瞬驚いて目が覚めたが、その時はあまりに非現実的なことが続いて疲れていたのでそのまま眠ってしまった。


次の日、目覚ましで起きた私は自分の下着姿の格好と何故か同じ布団で寝ているゴウセルに声にならない悲鳴を上げた。
慌ててスーツを着込んでゴウセルを起こし、朝食を準備してお弁当を作る。
支度をしながら大まかな予定や注意事項、お昼の話をゴウセルに一方的に話し、私は仕事に向かった。
その時窓からひらひらと手を振っていたゴウセルを見て、ほんの少し胸が高鳴った気がした。








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