続き物
女顔の居候
※生活









結局撤回するタイミングを掴めず、ゴウセルとその鎧を我が家に置いておくことになってしまった。
勝手に落ちてきたわけだが、せめてこの家では無く隣の純和風の豪邸に落ちていれば良い暮らしが出来たかもしれないのに。
少しだけ同情する。
しかし必ずしも私のように話を聞く人だけではないので、普通なら不審者扱いされるのがオチだ。
かく言う私もこんな不審な人物と普通に会話しているのが知れたら警察に注意されてしまうだろう。
だが家に鎧が落ちてきてさらに質量保存の法則と重力を完璧無視した登場の仕方を見てしまったら、誰でも思うだろう。

こいつ…宇宙人か?

宇宙人に会うことが小さい時の私の夢だったのだが、今それがついに叶ったのかと期待した。
が、先程私の心を読んだゴウセルにこう言われた。


[違う。俺は人間ではないが、"うちゅうじん"とやらではない]

「なん…だと?私の小さい時の夢…」

[残念だが他を当たれ。ところで俺は何処に居ればいい?]

「あ、そうだね。案内するからこっち来て!」


ゴウセルは宇宙人ではないらしい。
残念だ。とても。
ゴウセルに問われてから何の説明も案内もしていなかったのを思い出した。
きっと彼は分かっているはずだが、それでも知識だけなのでやはり不思議なのだろう。
私が鍵を開けて中に入り、靴を脱いで玄関に上がる様を無表情だが、ジッと見ている。
まだ会って一時間ほどだが、何となく彼の性格というか特徴が掴めてきた。

中に入ってまずは六畳間の押入れを開けて、そこに鎧を仕舞うように言った。
恐らく四肢のパーツは入るだろう。
胴体のパーツは大きくてとてもじゃないが入らないので、畳に直接置くことにした。
これで六畳間は殆どスペースが無くなったので、ゴウセルが実際に使えるのは八.五畳ほどの板の間だ。
洗濯機や冷蔵庫などの機械類は一切ない。
その分部屋は広く使える。


「ご飯と洗濯はもう一つ隣の私の部屋に来てね。
あと、勝手に外に出ない事!出掛ける時は私を呼んでからね」

[分かった]


さっきの話だとこちらの常識が通用しなそうだったので、不用意に外に出たら何をしでかすか分からない。
そう思って一応ゴウセルの為、そして私のささやかなご近所付き合いを悪くしない為にも一人での外出はしないよう言った。

ゴウセルを一階真ん中の部屋に置いて、私は自分の部屋に帰ってきた。
そう言えば今日は日曜で休みだし着替えて出掛けようと思っていたんだった。
そして更にスウェットを脱ぎながらあ、ゴウセルの着替えない、と思った。
あの服で外に出るのは若干目立つ。何よりあの髪の色は目立ってしょうがない。
どうしようか…と私は悩んだ。


ドゴオォン


「え、今度はなに!?」


驚いて着替え途中にも関わらず音源の所に向かった。
場所は私の部屋の八.五畳の板の間で隣の部屋と繋がっている壁。
見ると綺麗に人一人分が通れる位の穴が空けられていた。
隣の部屋はさっきゴウセルに貸した。
ということは犯人はお前かー!!
私がそう叫ぶ前に穴からゴウセルが出てきた。


[ここを壊した方が効率が良かった。おっと、すまない。着替え中だったか?]

「アンタねぇー!!勝手に人ん家の壁壊してんじゃないわよ!!しかも着替え中って、見りゃ分かるでしょ!!あっち向いてて!」

[了解した。ところで俺は着替えを持っていないが、如何すれば良い?この服では浮くのだろう?]

「そうね、今日時間あるから買いに行きましょう。…ってまだこっち見るな!!」


鎧で天井と床下に大穴を空けるだけでは厭き足らず、私の部屋にまで穴を空けるとは。
一番許せないのは着替え途中だったせいで下着姿を、しかも今日会ったばかりの男に見られたことだ。
見た本人は無表情のまま謝ったが、如何せん反省している気配はない。
気まずそうにされても困るが、ここまで堂々とされると女として自信を喪失しそうだ。
もとから大した自信なんて持ち合わせてはいないが。


「終わったからもう良いよ。買い物に行くにしても、まずその服をどうにかしないとね。
下はそのままでも良いとして、問題は上だね。あと見た目」

[俺も行くのか?身に纏う物に拘りはない。動き易ければ何でも良いが]

「私が困るわ。サイズがよく分からないし下着まで買いたくない」

[そうか。見た目はある程度なら変えられるから問題ない]

「え、なにそれ!?やっぱりゴウセルって["うちゅうじん"ではない]そっかぁ…」

[何故そこまで"うちゅうじん"とやらに拘る?]

「宇宙人は人類の夢だよ」

["うちゅうじん"とは他の"わくせい"から来る侵略者だろう?お前の記憶の"えいが"と言うものが言っていたぞ]

「それを言ったらゴウセルだって他の場所から来たんでしょ」

[俺は自らの意思で来たのではない。侵略をする必要性も命令も受けていない]

「命令?ゴウセルって何してる人?」

[人ではない。俺はリオネス国王から七つの大罪として指名され、騎士として闘っていた]

「騎士?あぁ、だから鎧なのか」


結局ゴウセルの身の上話に興味津々の私のせいで買い物に家を出ることが出来たのは昼を過ぎてから。
初めて聞くファンタジーだけどリアルな話にそんな場所があるのかと感心した。
七つの大罪と言えば有名な憤怒、傲慢、強欲、怠惰、暴食、嫉妬、色欲だが、ゴウセルはその色欲に当たる罪を犯した者らしい。
一体どんな罪か気になるが、初対面でそこまで聞くのは失礼だろう。
私の質問攻めに対して不機嫌になるでもなく嬉しそうにするでもなく、ただただ無表情でゴウセルは喋り続けた。








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あきゅろす。
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