続き物
出て来た優男
※会話








「ぁ、あ、貴方こそ誰!?」

[俺は七つの大罪、色欲の罪ゴウセル]

「ごーと、?羊?名前は何処からなの?」

[名前はゴウセルだ]

「ゴウセルね、私はサギサカユウキよ」

[お前こそ名前はどれだ?]

「あ、ごめんなさい。ユウキよ」

[それでユウキ、此処はどこだ?]


何故か私は今、アパートの天井二階分を突き破って落ちてきた鎧と話をしている。
どうやら現在地を知りたい様なので、ここの住所を教えてやる。
すると鎧はそんな場所は知らないと言ってきた。
国名を言うがそれも知らないらしい。
逆に何処からやってきたのかと問うと、リオネス王国だと言ったが、私はそんな場所は知らない。
私が知らないだけということもあるので、一応スマホで調べてみるがやはりそんな国は存在しないようだ。
スマホを取り出すと、何だそれはと聞かれたので、便利な道具とだけ答えた。


「やっぱりそんな場所ないわ」

[見知らぬ土地、物…嗅いだことも無い煙臭い臭い…魔力の類いも一切感じない。
どうやら俺はこことは全く違う場所から来たようだ]

「つまりどういうこと?」

[何らかの絶対的作用による異空間への移動。
その可能性が高いと判断した]

「…よく分からないんだけど」


意味が分からなかったので再度説明を求めると、ゴウセルとやらはまたベラベラと話始めた。
イマイチまだよく分かってはいないが、要約すると国から追い出されて逃走中に気付いたら此処に居たらしい。
因みに追われているのは身に覚えのない罪を着せられたからだそうだ。
私にとってそんな事は問題ではない。
今はいかにこの状況(床に刺さった鎧)をどうするかだ。


「ねぇ、その鎧なんとかならないの?
家もめちゃくちゃだし、どうにかしないといけないんだけど」

[この鎧は魔力の暴走を抑制するために装着している。
だがこのまま身動きを取るとこの家が崩壊するな。
分かった、脱ごう]


くぐもっていて聞き取り辛いが多分声的に男だろう。
鎧の大きさからして中身も三メートル程あると思って良いのだろうか。
だとしたら鎧を脱いでもここから出られるか分からない。
そう考えて不安がよぎる。
そもそも半分埋まっている状態でどうやって脱ぐのか。

幾つかの疑問と不安を裏切るようにいきなり鎧がパーツ毎に剥がれ始めた。
しかも剥がれた鎧は宙に浮いている。
非現実的な光景に我が目を疑ったが、鎧が家の床下に刺さっている時点でかなり非現実的だ。
上半身のパーツが全て剥がれると、中から出てきたのは身長およそ170後半位の女の様な容姿の青年だった。

白い肌にくりっとした目、そしてピンクの唇と眼鏡にひょろりとした細身の体。
だがそれらをもってしても何より目立つのは(紫というべきかそれともマゼンタとでも言うのか)赤紫色の髪の毛だった。
地毛なのかは不明だがサラサラしていて染めているようには到底見えない。
着ている服にしても、現代っぽいようにも見えるが何処か民族性を感じるデザインだ。
長袖のトップスは胸元が広めに開いていて前衣に四つの丸い穴の空けてあり、袖にだけストライプが入っている。
更にトップスからチラ見えしているのは黒のタンクトップだろうか。
しかし穴からは上二つにしか黒地が見えないので、下二つの穴から見える肌色は自前と見た。
下半身は黒の(スキニーと言えば良いのか)ズボンにグレーのブーツだ。


鎧からまさかこんな美青年?が出て来るとは思わなかったのでつい凝視してしまった。
私の不躾な視線に全く動じる事なくゴウセルは無表情で喋りだした。


[鎧は何処に置けば良い?]

「…へ?あ!そ、そうね、この家は当分使えないし、隣の部屋にならっ、なに?」

[手っ取り早く情報を収集する。動くな]


話している途中でいきなり頭に両手を添えてきた。
尻餅をついた体勢のまま驚いて仰け反る私にゴウセルは理由を話して動くなと言った。
情報を収集する、とは一体どうするつもりなのか。
よく分からないまま過去の自分の記憶を巡る羽目になった。

そしてゴウセルの能力を知った私が記憶と心を読み取られたことを後悔しながらゴウセルに怒るのはそれから三十分後の事だった。
反論するゴウセルを黙らせる為に勢いで居候させる事を条件に能力を禁止した。
禁止させるまでは良いが、私は居候なんてさせる気は欠片もなかった。
まんまとゴウセルの策略に嵌まったと思ったが、自分がドジっただけのような気もする。
何はともあれこの赤紫色の美青年と住むことになってしまったのは変えようのない事実だった。

溜め息を吐きながら窓の戸締まりが出来るのを確認して、鍵を閉めた。
その時一瞬視界に入ったゴウセルの口端が上がっていたように見えたのはきっと気のせいだ。








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