続き物
落ちてきた鎧
※遭遇








広い庭、瓦屋根の大きな一軒家、鯉の泳ぐ池、そんな純和風な豪邸、の隣にある築40年の二階建てボロアパートに私は住んでいる。
このアパートは横三部屋縱二部屋の計六部屋の居住スペースとそれぞれの部屋用に六ヶ所の駐車場がついている。
室内は1LDKで風呂とトイレ別で、風呂はシャワーと浴槽が別。
六畳の畳部屋と八.五畳のダイニングキッチンがある。
畳部屋に敷かれている畳は当初の緑の面影を残しておらず、ただただ日に焼け黄色くささくれ立っていた。
ダイニングキッチンの板の間は縦線が入って軋んでいる。

そんなアパートには今住人は私一人しか居ない。
少し前までは四人程住んでいたのだが、皆様々な理由で出て行ってしまった。
今私が住んでいるのは正面右端の一階だ。


決して私は貧乏な訳でも裕福な訳でもない一般的な収入だ。
ちゃんと就職しているし、自炊も貯金もしている。

このアパートの所有者は私の祖父だったが数年前に他界した。
両親のいない私を引き取ってくれた祖父の遺産なのでなかなか土地の売却に踏み切れなかった。
しかし隣の豪邸然り、近辺にはお高い一軒家が増えてきたせいでアパートは見た目上浮いているし、土地を売れとしょっちゅう不動産屋が錆びたポストにチラシをこれでもかと詰め込んでくる。


住人は皆去ってしまったし、新たな入居者も見込めそうにない。
このタイミングで取り壊してしまうべきか…。
しかしそう考えると優しくしてくれた祖父への裏切りになってしまうのではないかという気持ちがあり、やはりまだ売れそうにはなかった。
少し憂鬱になりながらも日曜の休みを満喫しなければと思い、たまには出掛けようとスウェットから着替えようとした。



ドガァァアアアン!!!

ガッシャーン!!ガラガララ、ララララ


何かが落ちてくるような音に加えて物凄い地震が起きた。
慌ててスウェットのままサンダルを履いてアパートを飛び出した。
周囲は何の変化もなく、騒ぎも起きていない。
まるで何も無かったかのようだ。

しかしよくよく見てみると正面左端、つまり今私が住んでいる部屋の反対側の部屋の上下共が半壊していた。
何が起きたのか調べるべく、恐る恐る一階のドアを開けた。

ドアは半分程しか開かなかったが、入る事は出来た。
中は塵や埃が舞っていてよく見えない。
塵や埃を吸わないようにスウェットの袖で口元を抑えながら、進んでいく。
アパートは六軒全て同じ間取りなので、まず玄関を越えたら真っ直ぐ進んで六畳の畳部屋へ行く。
天井から落ちてきた畳やら瓦礫やらで足元や通路が塞き止められているが、間を縫って何が起きたのか確かめる。
ついにナニかが落ちたらしき場所に辿り着いた。
大分塵や埃が落ち着いてきたので、やっとそれが何か視認することが出来た。


それは言葉にならない驚きだった。
なんと落ちてきたのは三メートルはあろうかと言う程の大きな鎧だった。
体の半分?は床と床下もぶち抜いているのだろう、完全に埋まっている。
半分程埋まっているはずなのに頭は天井に付きそうだ。
果たしてこの中には誰か入っているのか。
間近で鎧なんて見たことがないので、好奇心でつい鎧の周りを歩きながら観察していた。

すると、いきなり鎧が床下から抜けようと動き出した。
それに驚いた私は尻餅をついて鎧を凝視した。
動いたことで埃が舞い、天井から木材などがパラパラ落ちてくる。
少しモゾモゾと動いた鎧は床の穴から出ようと体を伸ばしたが、出られないようだ。
その過程のお陰で天井にまた新たな穴を空けている。
その様子をポカーンとした顔で見る私と鎧の目線?がついに交わった。


[此処はどこだ?]

「っ!?しゃ、喋った!!」

[それとお前は誰だ?]


まさか鎧が喋るとは思わず、尻餅をついたまま後退る。


この出逢いが私と彼のおかしくて不思議な共同生活の始まりだった。








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あきゅろす。
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