続き物
災難→僥倖※長文注意
※七つの大罪の使用人になってから数週間後で時間軸はバラバラ
―騒がしい彼らの世話に明け暮れる毎日。
チュンチュンという鳥のさえずりで目が覚めた。
私の寝起きしている部屋は複数の使用人と相部屋になっている。
二段ベッドが2つ、はまりが悪いクローゼットが1つ、テーブルが1つにイスが2つあり、全て木製だ。
ドアを開けてすぐに立て付けの良くない窓がある。そして窓の右に鏡が掛けてある。
使用人達の荷物は、それぞれのベッド又はバッグに纏めて部屋の隅に積んでいる。
無論私の荷物も同様にして置いている。
私の能力に関係する装飾品や道具も荷物と共に置いているが、同室の使用人は皆人間で一般人なので(能力の露見を心配しなくて良いので)王様には感謝している。
今日は七つの大罪の皆様の鎧を磨いてついでに破損箇所をチェックしようと思っていたので、思い通りに起きられた事と、目覚めが良かったことで私は上機嫌だった。
使用人用の簡素な二段ベッドの下にいる私は、周りに気を使うことなく支度をして部屋を出ることが出来た。
まだ寝ている他の使用人を起こさないよう、物音を立てないように上手く起床し、予め用意しておいた制服に着替えて部屋を出た。
部屋には洗面所もトイレも備え付けられてはいないので、その都度各使用人部屋を繋ぐ廊下の先まで行かなければならない。洗面所も食堂もトイレも共同で一カ所に纏められている。
現代人として辛いのは、この世界には風呂の習慣がないことだ。
国王様や位の高い騎士様なら湯を沸かして体をお清めになるだろうが、入浴はしない。あくまで体を拭いたり洗ったりする程度だ。
そもそも湯船に入浴という習慣は日本独自のもので、その入浴が一般市民にも浸透したのはここ数百年になってから。
水で体を清めたり蒸気で温める歴史も勿論あるだろうが、少なくともこの世界でましてや使用人如きが水も火も使う贅沢な湯船に入れるわけもない。
そう分かってはいるがやはり温泉が恋しくなるのは日本人の性か…ついでに言うと和食も恋しかったりする。
若干、というかかなり現代でいう中世の英国に酷似した風貌・文化をしているせいか、食生活がガラリと変わってしまった。
まず主食が米からパンへ、そして元から欧米化していた主菜がさらに肉やチーズなどの濃いぃ物へ、飲み物は勿論お茶なんてあるわけがないので水や酒へと変化していった。
最初は言わずもがなお腹も体調も崩しまくっていたが、今ではなんとか適応している。
と、まぁこの話はこれ位にして、部屋を出て洗面所で顔を洗い、食堂で一人用意された朝食を食べる(調理は当番制)
自分の食事は手早く済ませ、主人達の食事を厨房に取りに行かねばならない。
七つの大罪は大罪人といえど王直属の騎士団。
よって地位もそれなりに高いので、食事は王族などとはまた別に厨房で作られる。
朝はまずその食事を運ぶことと、汚れ物の回収をする。
そのあとは洗濯と掃除、合間を見て食器の回収と休憩に入る。
休憩中は同室の友人、もしくはゴウセル様と過ごすことが比較的多い。ゴウセル様は何故か私のタイムスケジュールを把握しているらしく、丁度良いタイミングで現れるのだ。
日によってディアンヌ様やキング様、メリオダス様とお話することもある。そこにバン様が加わると城の破壊活動が高確率で行われるので、休憩どころではなくなってしまうからあまり私から進んでお話することはない。
七つの大罪は皆が城に住んでいるわけではないので、各館へは別の使用人が奉公している。
なので普段から館に篭りっきりのマーリン様とは特に接触する機会は少ない。
厨房に到着すると、コックと軽く挨拶や会話をしてすぐ蓋をしてある料理を荷台に乗せる。この時きちんと中を確認する。
ディアンヌ様への食事は量が多いので、個別に大きな皿と荷台を用意している。
まずは団長のメリオダス様に運ぶ。
その次は部屋が近い順にまわっていく。
メリオダス様とバン様は昨晩飲酒していたので(毎晩のことではあるが)まだ寝ているはず。そのときは私が起こすことになる。
メリオダス様はわざとか寝起き故かセクハラをされ、バン様は寝惚けているらしく私を誰かと勘違いされて抱き締めたりしてくるのは日常茶飯事だ。
そうこうしている内に最後のゴウセル様の部屋の前に来た。
ゴウセル様は本がお好きらしく、部屋にはまるで書庫のように大量の本が積んである。
彼は眠らないのか眠れないのか睡眠時間が短いのかは定かでは無いが、夜はずっと灯りが点いていて、早朝部屋へ伺っても必ず起きている。
―コンコン…ガチャ
「失礼します。使用人のユウキです。朝食をお持ちしました」
[ああ、ありがとう]
ガラガラガラララ…
「今日は野菜のスープとパンとハム、それから…」
蓋を開けて料理を説明していく。
そして各部屋で言ってきたことをゴウセル様にも言っておく。
「本日は鎧のメンテナンスをせよとの仰せです。いかがいたしましょう?」
[俺には必要ない]
この返答は分かりきっていたが、一応聞いておかなければならなかった。
ゴウセル様は他の七つの大罪にも素顔を見せたことがない。そもそも鎧を脱いだことがないのだ。
だがここで引き下がるわけにはいかない。
「鎧は着たままで結構です。せめて磨かせてはもらえませんか?」
[…分かった。後でそちらに行く]
「かしこまりました」
こうして一通り終わったところで、部屋の前に置かれた汚れ物を回収し、そのまま物置へ向かい洗濯桶に纏める。
先ほどはゴウセル様に断られてしまったが、他の方々には了承していただけたので、鎧磨きの道具と布を数枚持って再度各部屋をまわり鎧を拝借した。
そうこうしているうちに昼時になり、鎧磨きも終盤に差し掛かった。
最後にゴウセル様(本人入り)の鎧を磨き終え、他の方の鎧は各パーツを揃えてお部屋へ運んだ。
昼食にしようと思ったが、よくよく見れば服が洗剤や油で泥まみれなので、一旦着替えるために自室へ向かおうとした。
が、目の前で片づけをしている姿をじっと観察していたゴウセル様が話しかけてきた。
[ユウキはこれから昼か?]
「はい。でも服が汚れてしまっているので着替えてからにしようかと」
[そうか。じゃあ行こう]
この方の中では私と昼食を共にすることは決定事項らしい。まぁ良いけど。
何故か着いて来てくれるらしく、そのまま一緒に使用人部屋の近くまで行った。
流石に他の使用人も休憩している時間に七つの大罪のお一人であるゴウセル様が居たら皆を驚かせてしまうので、別の場所で本を読んで待ってもらっている。
あまり長く待たせたくはないので、急いで部屋に戻ると、部屋に私物が散乱していた。
まさかと思い確かめると、それは私の私物だった。
貴重品は身に着ける性質なので大事にはならなかったが、一番上に置いていた籠に入れていた服は全て裂かれていた。
刃物でズタズタである。
少なくともこの部屋の人たちは七つの大罪の使用人になる時心配してくれたり、普段から皆で相談しあったりしているので、疑いたくはない。
むしろ今は犯人捜しよりも着替える服を探すことが先だ。
使用人服は全滅。これでは仕事が出来ない。
奇跡的に私服は無事だったので(普段着ないのでしまい込んでた)仕方なくそれに着替えた。
休憩中に新しい使用人服を用意しなければ、と考えつつ、ゴウセル様の待つ場所へ行く。
「お待たせしました」
本を読んでいたらしく、頭を上げたゴウセル様は、私の顔を見てこう言った。
[何かあったのか?]
その言葉に私は思い当たる節があった。部屋のことだ。
でもそれを言ったからと言ってどうなるわけでも無し、ここはシラを切ることにした。
「いいえ、何もありませんが?」
[嘘だな。脈が僅かに早くなっている]
そういうと指をこちらに伸ばしてきた。すると首にチクリとした感覚が走った。まさか、と思ったが的中したようだ。
[部屋を荒らされたのか。誰か心当たりがあるのか?]
おいおい、心は読まないで下さいと最初にお願いしたのに…と白い目で見る私に首を傾げていたが、やがて理由が分かったのか弁解してきた。
[ユウキの生い立ちや過去は見ていない。さっき何があったのか知りたかった]
「そういうことは先に一言言ってください」
[善処しよう]
きっとまたやるな。というか脈なんて触れずにどうやって測ってるんだろうか。
まぁそんなことは今は良い。お昼を食べている時にでも聞いてみよう。
[そういえば服が裂かれて無いようだな。手配しておこう]
「え、ゴウセル様がですか?」
[ああ。何か問題があるのか?]
「い、いえ…ありがとうございます」
どうやって用意するのだろうか。
[今日は町へ行く]
ゴウセル様の一言で町へ行くことになった。
私のペースで歩いたら日が暮れてしまうと言われ、何故か今ゴウセル様に抱えられている。所謂お姫様抱っこだ。
だが思っていたよりもムードの欠片もない。当たり前だ。
なにせ抱えているのが鎧でしかも移動スピードが速くて乗り物酔いしかけている。
[着いたぞ。ん?どうした?具合が悪いのか?]
「大丈夫です…少し休めば…」
ここは城下町でも端にあり外から来る人も多いので、鎧姿のゴウセル様があまり目立たない。
本来この場所は城から数時間掛るところを、驚異のスピードでものの数分で移動してきたのだ。ジェットコースター系が苦手な私には辛いものがあった。
ゴウセル様は自分が戻ってくるまで動くなと言い、気分が悪いなら休むと良いと、私を脇道の石垣に座らせてくれた。
どこへ行くのか気にはなったが、今はこの気持ち悪さと闘うことが最優先だった。
30分ほど経ち、かなり気分が良くなった。
それから数分後、何処かへ行っていたゴウセル様が帰ってきた。
合流してそのまま近くの食堂へ入り昼食を済ませ、暫くしてまた抱えられて城へ戻った。
行きよりは大分マシだったが、それでも少しきつかった。
その後の仕事は私服での許可をいただけたのでいつも通りこなし、時々通り掛かる人と雑談したりと、かなりいつも通りだったので、夕方には昼の出来事を忘れかけていた。
夕食の片付けも終わったので、明日の準備をするために一旦部屋へ戻ることにした。
−ガチャ、ギィ…バタン
「あ、帰ってきた!ユウキ!!どうしたのこの服!?」
「私たちが帰ってきたらこんなことに…何があったの?」
「これはどういうこと?」
上から同室のシェルナ、メリザ、アーネ。
シェルナはテンション高めな面食い女子高生、メリザは流行に敏感なふわふわ女子、アーネはちょっとクールめなお姉さんというイメージだ。
同室ということもあってか、三人と行動することが多い。
っと、話が逸れたが、この三人が驚いているのは私のズタズタにされた服のことだろう。
そう思って説明しようと口を開いた。
「言う機会がなかったんだけど、今日昼休憩に帰ってきたら…え?」
ナニコレ。
「なになに?早く言ってよお!!凄い気になるじゃん!!」
私が想像していたのはもっとこう、ズタズタにされた服が散乱しててそれに皆が驚いているものだった。
しかし、今目の前にあるのは服の山、山、山。
私が普段着用する使用人服が大半だが、ちらほらと私服も入っている。
三人が数を数えたところ30着ほどあるという。
私たちの使用人服は町の仕立て屋から城が買い付け、送られてきて初めてしかも定期的に支給されるものなので、滅多なことがなければ服を替えたり無駄にはしない。
その使用人服が何故こんなにあるのか、何となく心当たりはあった。
とりあえず私の言葉を待っている三人には事情を話しておこうと思う。
「なにそれー!!?誰よそんなことしたやつ!!許さない!!」
「ほんとね、ただじゃおかないわ!」
「この部屋に入ってこれる人ということは結構限られているわね」
シェルナとメリザはともかく流石アーネ、冷静な推理だわ。
「え、なにそれ!?アーネ、どういうこと!?」
「私たちの部屋で荷物が荒らされていたのはユウキだけ。つまりユウキを狙った犯行ということ。さらにここは私たち以外にも沢山の使用人とその部屋があるわ」
「つまり、私がこの部屋を使っていて、かつどこのベッドを使っているか分かっている人物、ということね」
「そういうこと。でもユウキの話が本当なら、この服の山はあの七つの大罪のゴウセル様がくださったってことになるわ」
「ユウキってばいつの間にゴウセル様とそんな仲に!!?良いなぁ私も彼氏欲しいよおー!」
「シェルナってば…あの七つの大罪よ?普通の彼氏とはわけが違うわ。私なら聖騎士長様みたいなダンディーな方が良いわ!」
因みにメリザはオジサン好きである。既婚者なら尚良し(本人談)
「いやいや、それこそ今関係無いから。ってか私とゴウセル様はそんな関係じゃないから!」
「え〜つまんなーい。せっかくユウキにも春が来たと思ったのに〜」
「私はイケメンが良いな!例えばバン様とか髭なかったら絶対イケメンだと思う!!」
「確かにい〜!でも私は髭ある方が良いと思うな!」
段々話が逸れて収拾がつかなくなってきた…
「シェルナ、メリザ、いい加減にしなさい。ユウキを困らせないの。今はこれをどうにかするのが先でしょう」
「「はぁーい」」
流石お姉さま!ホントこういう時は頼りになる。
犯人は少なくともこの城の関係者で、使用人の誰かが手引き又は実行しているのは確かだと思う。
そこまで考えたが、一日の疲れとまだやることがあったのを思い出して一時中断することにした。
皆が心配してくれて嬉しかったのと、ゴウセル様が(多過ぎではあるが)服を下さったので、あまり心にダメージはない。
残った仕事を片付けるからと、三人に伝えて私は部屋を出た。
――部屋に居る三人
「本当に気付いてないのかしら」
「気付いてなさそうね〜」
「私ですら分かるのに!」
「あの七つの大罪がわざわざ使用人の為に仕事手伝ったりご飯一緒したり」
「服大量に送ってきたりするわけないよね〜」
「逆にそれがユウキの良いところだよ!!」
――次の日
[お前の部屋に押し入った奴を突き止めた]
「え、本当ですか?」
[ああ、こちらで処理したからもう気にするな]
「分かりました。あの、服までいただいてしまって、ありがとうございます」
[気にするな。…そういえば昨日の私服だが、似合っていた]
「!?、あ、は、はい!ありがとうございます(ドキドキ)」
なんでだろう?凄い動悸がした…
この時私は昨日の部屋での会話を思い出した。
が、それもすぐに消えて、仕事に向かうべくゴウセル様と別れた。
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