続き物
morphine1
※シリアス、病み表現有








昔から変なものが見えた。
それは人の考えている事だったり抱いている感情だったり過去だったり。
時にはそれが流れ込んで来て、頭がおかしくなりそうだった。
私の生まれた村では、そういうチカラを持つ眼を悪魔の眼と呼んでいた。
毎日村人から眼に見える悪意と罵倒に一方的に曝された。
それが嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で堪らなくて11歳の時村を出た。

それからは身を守る為に一番手っ取り早かった体を売る仕事をした。
貞操観念や善悪を教えてくれるような親も友達もいなかった。
そして遊女、娼婦、売女、色々な呼び方をされる職業に私はなった。

毎日違う男の相手をしていた。
その度に能力を使って相手が望んでいることを引き出して実行した。
甘やかされたい者、激しく抱きたい者、下品なことを言わせたい者、薬を飲ませて来る者、色々いた。
仕事を始めた当時は初潮が来るか来ないか位だった。
未発達な避妊薬により明らかに同年代よりも体の発達が遅れていたのは分かっていたが、これを辞めたら面倒なことになると姉様方に教えてもらった。


14歳の時だった。
下宿していた娼館が潰れ、少ない荷物を抱いて路頭に迷うことになった。
幸い貯め込んでいたお陰で当分の生活費には困らなかったが、これからどうなるか分からない。
仕方無く町を出て宛もなくさ迷い、知らない森に入った。


ちゃんとした装備もせず、出て行った時の荷物しかないし地図もない。
そんな状態で知らない森に入るのは自殺行為だった。
でも、それでも良かった。

思えばくだらない人生だった。
物心付いた時から疎まれていた。
きっとまだ幼かった私は色々と墓穴を掘ったんだろう。
娼館が潰れて、ある意味良かったのかもしれない。
やっと幕引きが出来るから。
何日も飲まず食わずでただ歩き続けていた体は悲鳴を上げていた。


森へ入って数時間した頃とうとう体力が底をついたようで膝から地面に倒れこんだ。
うつ伏せは苦しかったので、なけなしの体力で近くの樹木に寄り掛かってあとは死ぬのを待つだけだった。
呼吸がどんどん浅く、そしてゆっくりになるのを感じながら私は目を閉じた。


「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」


まるで見計らったかのようなタイミングで若い男の声を聞いた。
ただただ耳障りだった。頼むからもう放っといて欲しい。
男の声は近くなりそのうち横から聞こえてきた。
ついでに肩を揺すられる。
仕方なく目を開けて男を見た瞬間、頭を抱えたくなるような頭痛とナニカが流れ込んできた。
この感覚を良く知っている私は痛む頭に手を当てる体力もなく、それを享受するしかなかった。

それは早送りで映像を再生しているような感覚だった。
金髪の子供と白髪の男、茶髪の女巨人など様々な登場人物たちが現れては消えて行った。
どんどん流れて行って、最後に真っ暗になるのがいつもの終わり方だった。
今回もその例に漏れずだんだん暗くなっていくそれが最後に映したのは金髪の子供だった。
彼はこちらを見てこう言った。

「〈ゴウセル〉…」

まるで寝言のように金髪の子供と同じことを呟き、私の意識は無くなった。


若い男はその消え入りそうな呟きを人並み外れた聴力で聞き取り目を見開いた。
そして意識の無くなったボロ雑巾のような身なりの女を抱え、森の奥へと消えて行った。




夢を見ているようだった。
今までの人生の回想を映像として再生いるような夢だ。
一瞬走馬灯かとも思ったが、それにしては長いように思う。
それを私と、そして知らない誰かが見ているのが分かった。
自分の人生を見せられているのも知らない他人が自分の人生を見ているのも不快な気分だった。
いつも自分が見ている側だけに嫌悪感は割り増しだった。
嫌悪が頂点に達した時、回想の途中でいきなりブツッと映像が途切れた。


目を覚ますと目の前が暗かった。
よく見るとここは洞窟のようで、奥まっている所に寝ているせいか薄暗かったようだ。
身体が怠いし痛いしで動かない。
ここが何処かも分からない。
なんとか首を動かして見るが、近くには誰もいないようだが確かに誰かがいたようだ。
火を焚いた後がある。
私は、助けられたのか。


[起きたか]

洞窟の入り口に影が射したと同時に、男の声がした。
最後に聞いた若い男の声に似ているような気がしたが、如何せん気を失う直前の事であるし、何より話し方が全く正反対のせいでよく分からない。
確かあの若い男は随分と煩い喋り方だった。


「ぁなたが、ゎたし、を?」

声が掠れて上手く発声出来なかったが、伝わりはしただろう。

[お前は3日眠っていた。栄養失調と疲労によるものだ]

「…そぅ」

じゃああのままにしておけば私は死んでたんじゃないか。
どうして放っといてくれなかったんだ。
そんな私の思考を読み取ったかのように男は話始めた。


[お前は意識を失う前、俺の正体を言い当てた。今俺は正体を隠して潜伏している。よってその方法とお前の正体を知る必要があったので色々と見せてもらった。

だが途中で何かに阻まれた]


あぁ。あの夢はこいつのせいだったのか。
きっと私と似たようなチカラを持っているんだろう。
疑問なんて特に抱かなかった。

「それで…わたしを、いかして、はかせよう、と?」

[そうなるな。しかしその状態では満足に話せないだろう]

「はなすと、おもうの?」

[話させる。だが今は体を休めろ]

話し方が機械的だ。まるで人では無いかのよう。
だからか、人に疲れた私には丁度良かったのかも知れない。
起き上がろうにも体が怠過ぎて動かず、掛けられた布に体が擦れるだけだった。
男はスタスタと歩いてきて焚き火跡に木を入れ、火を点けた。
そして火の近くにある小さい岩に腰掛け、持っていた籠を置いて何かをしていた。
こちらからはよく見えないが今更何をしていても驚かない。
よく見ると眼鏡を掛けているようだ。
顔の細部はレンズに反射して何も分からなかった。

疲れがまだあるせいか段々と眠気が襲ってきた。
そのまま寝てしまったらしく、後ことは覚えていないが唇に何か冷たいものが触れたのは分かった。


次に目が覚めた時、まだ私は洞窟に寝かされていた。
あの男はいない。
大分体は良くなったようで起き上がることが出来た。
服も荷物も倒れた時のままだった。
辛うじて体の垢が少ないのは拭いてくれていたからだろう。
だが今は何よりも体を清めたかった。
まだふらつく体を動かして洞窟の外へ出た。

まだ外は日が高く、高さと匂いの感じから恐らく昼頃と推測した。
見たところ近辺に川は見当たらないし、ここは大人しく男を待つべきか。
そういえばあの男の記憶を見たとき、見た目が随分と違った。そのせいで最初は判別できなかったのだが。
果たしてあの記憶の男と私の世話をした男は同一人物ということで良いのだろうか。

そもそもあの男が信用出来るかすら分からない。
ただ命の恩人ではあるからあまり酷くは言えないが。
確か男は気を失う前に私が何者か聞き出すと言っていたはず。
ならばまたこの場所に戻って来るだろう。
自分の能力が通用しないから奴は態々私を生かしたのだ。
代わりに水浴び位させてもらわなければ困る。


いろいろ考えた末、再び洞窟に足を踏み入れようとした。
その時遠くでなにかの叫び声のようなものが聞こえたが、それについては深く考えなかった。








morphine(モルヒネ):アヘンに含まれるベンジルイソキノリン型アルカロイドでアヘンの約10%を占める。オピオイド系鎮痛薬。
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あきゅろす。
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