続き物
大犯罪者達の子育て日記7
※七つの大罪版一人で出来るもん
朝、ゴウセルはいつものように起床しいつものようにユウキを起こした。
しかしここで普段と違う出来事が起きた。
なんといつもはゴウセルの為すがまま着替えて食事を摂るユウキが一人でやると言い出したのだ。
その時漫画であればゴウセルの背後に雷がピッシャーン!と落ちる様が見えただろう。
ユウキは一人で着替え始めた。
しかしワンピースのボタンがなかなか留まらない。
いつもならここで愚図り出すのだが今日は違った。
やや涙目になりながらも頑張って全てのボタンを留め終える事が出来た。
嬉しそうにするユウキを見てゴウセルは胸の辺りに理由の分からない空虚感を感じるのだった。
「それって良いことなんじゃねぇのか?」
「私もそう思うが…」
「ユウキが成長した証拠じゃない?」
[いや、まだユウキには早い。俺がやることだ]
ゴウセルはメリオダス、マーリン、キングを呼び止めて事の次第を話した。
そして上記の反応が返ってきたのだ。
三人はゴウセルの意味の分からない回答に呆れ顔である。
マーリンはこのくだらない話を終わらせて早く自身の館へ戻り、研究に没頭したいのだがゴウセルがそれを許さない。
先日マーリンがユウキに薬を飲ませ、実験したことをゴウセルは許容していない。
決して怒っているというわけでもない。
そもそもゴウセルはそんな風に感じる事自体を持ち合わせてはいない。
が、感情がないはずのゴウセルが成長したユウキを襲ったことにマーリンは関心を持ちさらなる研究をしようとした。
流石に何かしらの牽制をしないとエスカレートする一方であることを悟ったゴウセルは、マーリンを忠告がてら呼び出したのだった。
丁度暇を持て余していたマーリンはそれに応じた。
しかしそれは早まったと後悔することになった。
そして今まさにその後悔をしている最中である。
思い返せばまだ研究途中の魔術道具があった気がする。
余り興味が湧かなくて途中で止めたやつだった気もするが、この際関係ない。
今すぐこの場から瞬間移動術で立ち去ってしまおうか。
マーリンはそんなことを考えていた。
[マーリン、話を聞いているのか?]
「下らないな。私には関係の無い事だ。帰らせてもらう」
[良いのか?ユウキが何でも一人でやるようになってしまえば、マーリンがいつもやっていたユウキの服を選ぶことも出来なくなるぞ]
「…私を脅す気か?ゴウセル」
[そしてキング、ユウキの髪を纏めることが出来なくなるぞ]
「え!?そんなぁ…」
[団長に至ってはもう一緒に遊んでもらえないかも知れないな]
「それは困る!」
ハッキリ言ってくだらないのは事実である。
いつもの彼等であれば少し考えれば、いや考えなくとも分かる筈だ。
しかし現在の一人で何でもしたい状態のユウキがいかに何もさせてくれないかをゴウセルはいつもの抑揚の無い声で真剣に語っていた。
それに引き摺られて皆自分のやっていた事も拒否されるんじゃないかと思い至ったのだ。
つまり全員親バカである。
この場にバンが居ればまだ突っ込み役として成立したものを、残念ながら今は絶賛昼寝中だ。当分は起きて来ない。
「どうしたもんかなぁ」
「仕方ない。私に任せろ」
「え、マーリン何する気?」
[ユウキに危害は加えるなよ]
「これからユウキと二人で会う。誰も邪魔をしてくれるな」
そう言ってマーリンはカツカツとヒールを鳴らしてゴウセルの部屋に向かった。
マーリンが部屋に入ると、本が散乱したゴウセルのベッドで眠っているユウキを優しく起こす。
「ユウキ、起きてくれ」
「んぅ〜まーりん?どうしたのぉ?」
「今日ユウキは一人で着替えをしたんだろう?」
「そうなの!ぜんぶひとりでできるユウキえらい?」
「そうだな、でもそうしたらもうゴウセルは要らないな」
「え、なんで!?」
「もうユウキは全部一人で出来るのだろう?
ならゴウセルが居なくなっても平気と言うことになる」
「ぅ、ごーせぅ…やだ。いなきゃやだあぁ」
「ゴウセルも寂しがっていたぞ。ユウキが一人で全部やってしまったらゴウセルが何もすることが無くなってしまうだろ?」
「うん…わかった。ごーせぅとやるの…そしたらごーせぅいなくなんない?」
「あぁ。きっとゴウセルが離れないよ」
「まーりん!ユウキごーせぅのとこいくの!」
「では転ばない様に手を繋ごう」
「うん!」
こうして巧みな話術でユウキを丸め込んだマーリンは、ちゃっかり手を繋いで三人のいる部屋へ向かった。
部屋に取り残されたメリオダスとキングはゴウセルを横目に見た。
マーリンが部屋を出て行った瞬間、鎧を着たまま貧乏揺すりを始めたゴウセル。
本人は無意識なのかもしれないが、如何せん鎧を着ているため音が結構、いやかなり煩い。
しかしメリオダスが呼びかけてもキングがうるさいよ!と叫んでもゴウセルは反応を示さず、ただ貧乏揺すりを続けた。
静かだった部屋にガシャガシャガシャと鎧を動かす音が響く。
マーリン早く帰って来てくれ!この時二人の気持ちは一つになった。
それから十分程して部屋の戸が叩かれた。
扉の外からマーリンの魔力を感じるので、きっとユウキを丸め込めたんだとキングは期待した。
ゴウセルもそれを感じ取ったようで、扉を開けようとしたメリオダスよりも先にそれを行った。
「おや?珍しいな。そんなにユウキが恋しかったのか?」
「ごーせぅ!ユウキもうひとりでやっちゃわないからいなくなんないでぇ〜!!」
[マーリン、どういうことだ?]
「視れば分かるだろう?これで先日のはチャラだ。では私は失礼する」
「何があったのか分かんないけど、良かったねゴウセル」
「マーリンはユウキに何を吹き込んだんだ?」
ゴウセルを見た瞬間ユウキが飛びつき、それを見届けたマーリンはさっさと館へ瞬間移動した。
訳の分からないキングとメリオダスを無視して、ゴウセルは先ほどのマーリンとユウキのやり取りをサーチライトで読み取った。
その記憶を視てすぐに行動の意味を理解したゴウセルは、二人を完全無視してユウキを抱き上げ部屋に帰ろうとした。
それを慌てて止めるキング。
「ちょ、ちょっとゴウセル!どこ行くんだよ!?せめて理由位説明していってよ!!」
「そうだぞ、ゴウセル。俺たちは一応お前の相談にも乗ってやったんだ。ちゃんとオチまで話すのが礼儀ってもんだろ?」
[あぁ、団長すまなかった。マーリンがユウキに一人で何でも全部やったら俺は要らないな、と言って説得したようだ]
「…何それ?」
[理由は話した。部屋に戻る]
「だんちょ!きんぐ!ばいばーい」
「おうユウキ、またな」
「じゃあねユウキ。…で、どういうこと?」
「さっぱりだな!!要はマーリンが説得したってことだろ」
「その方法が知りたいんだけどね」
「まぁゴウセルの機嫌も治ったことだし良いじゃねぇか!」
何はともあれ自分たちに実害が無くて良かったとメリオダスは言った。
それにはキングも同意し、これ以上掘り下げても沼だと悟って何も言わなかった。
さっきまでゴウセルにしがみ付いてめそめそしていたユウキは機嫌を直してゴウセルの隣をてとてと歩いている。
ゴウセルは自分がマーリンを待つ間かなりおかしい行動を取っていたことに気が付いていない。
自ら感情がないと語るゴウセルがまるでイラついているかのように貧乏揺すりをしていたのだ。
もしそれをマーリンが見ていたら興味を示すだろう。
ユウキに関連することにおいてはたまに上記のような行動を起こすことがある。
第三者から見ればそれには十分感情が込められているようにも見えなくはないが、本人には自覚できていないので意味を成さない。
「ごーせぅ、ユウキおなかすいた…」
[厨房へ寄れば何かあるだろう]
「ぅん、ごーせぅだっこ!!」
[分かった。今日はやけに甘えるな。如何した?]
「まーりんが甘えたほうがごーせぅ嬉しいって。ユウキもごーせぅにくっつけるの嬉しい!」
[俺は嬉しいのか…?ユウキが嬉しいなら俺も嬉しいのだろう]
嬉しい、という感覚がどんなものなのかが分からず、ユウキの言葉に曖昧に返すゴウセル。
そんなゴウセルの考えなど微塵も分かっていないユウキは笑いながら話し続けるのだった。
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