続き物
たまの休み
※七つの大罪が王都に来る直前
ゴウセル様の死から数日が経った。
頑張ろう、と思ったはいいが心はまだ受け入れてくれそうにない。
それが顔にも出ているらしく、会う人にたびたび声を掛けられた。
その中には先日私を聖騎士見習いから助けてくださったギーラ様も含まれている。
ギーラ様は以前から七つの大罪は忌むべきものと仰っていた。
しかしつい昨日、ジェリコ様と手合せしている時にした話が気になっているという。
嬉しいことにギーラ様は城で一番相談事等の話をしやすいのは私だと言って下さった。
今日私はマーガレット様から外出の許可を頂いた。
国王様は最近体調を崩しておいでだ。
病だと言うが、きっと心労によるものではないかと思う。
部屋で療養されている国王様に代わり、マーガレット様が私に久しぶりの休みを言い渡した。
ここ数か月殆ど城から出られていない。
聖騎士やその見習いが幅を利かせ国民を強制的に徴兵し、無茶苦茶な剣術指導をしている。
そのせいで傷付いた人たちの手当てや世話で私の休日は無くなってしまっていた。
最近は特に怪我人が多く、家に帰れず消衰している者もいた。
外出許可を頂き、ついでに買出しもしようと思い廊下を歩いているとギーラ様に出くわした。
今の格好が使用人服に外套を顔半分を隠すまで被っているのでそれに安心して化粧をしていなかった。
そのため私よりも背の高いギーラ様に顔が見えないように外套に深く顔を埋めて俯きながら話をした。
「こんにちは、ユウキ」
「こんにちは、ギーラ様」
「もう、ギーラで良いのよ?どうしたの、具合が悪いの?」
「いいえ。まだ目元が腫れていてあまり顔を上げたくないんです」
「…そう。ユウキは七つの大罪に仕えていたそうね。
彼らはその、どんな人達だったの?」
「とても優しくて、お強い方達でした。その分個性も強くて…ザラトラス様もメリオダス様もまとめるのに苦労されていました」
「……ジェリコがね、アーマージャイアントの討伐に無断で着いて行ったそうなの。
その時に首を刎ねられたアーマージャイアントと七つの大罪が戦っていたのを見たそうよ」
「っえ?七つの大罪が、どうしてゴウセル様と…」
「その後ジェリコがアーマージャイアントの身に着けていたネックレスを持ち帰ってきたの。
これがそのネックレス」
「っ、それは…」
「私の父…デールの物よ」
「何故ギーラ様のお父様が…確か聖騎士様でしたよね?」
私の言葉にそうよ、と暗く返したギーラ様。
彼女自身もかなり戸惑っているようだ。
となると、ドーン・ロアーに首を刎ねられたのはデール様と言うことになる。
ならばどうしてゴウセル様の鎧など着ていたのか。
ゴウセル様は一体どうしているのか。
私もギーラ様も何も喋らず、無言が続いた。
暫く続いたそれを先に破ったのはギーラ様だった。
「私は、父の様な立派な聖騎士になってジールを守りたかった。
ただそのために力が欲しかっただけなのに…気が付けば戦いを、血を好むようになっていた。
私はもうあの子が愛してくれた優しい姉ではないの…」
「ギーラ様…まだ間に合いますよ。
私は叶いませんでしたが、大切なものはギーラ様の近くにあります。
失くしてしまう前に気付いたんですから、今からでも十分間に合いますよ」
「ユウキ…ありがとう。
貴女に言われると何故かしらね、落ち着くの。
最初はただの使用人だと思っていたのに…ヘルブラム卿の仰る通りだわ」
「え?ヘルブラム様が何を…」
「貴女の魔力は他の誰とも違う異質なものをしている。
けれど敵意や害は感じられない。どちらかと言うとそうね馴染むような、沁みるような感じがするの」
「それは、どういうことですか?」
「分からないわ。でも一時期ヘルブラム卿が貴女で実験したいと仰っていたことがあったの。
でもヘンドリクセン聖騎士長がそんな暇はないってお止めになっていたわ」
驚いた。まさかそんなことになっていたとは。
一度だけゴウセル様に魔力の事を指摘された時はヒヤッとしたものだが、今の比ではない。
何をされるか分からない。
その恐怖で顔も心も引き攣っているのが自分でも分かる。
私の心境を察したらしいギーラ様が苦笑いしながら、けれど強めの口調で言った。
「貴女にそんな事させないわ。
それにジェリコの話を聞いて、正直分からないの。
一体何が正しいのか、父はどうなったのか。
もしかすると父は…これはユウキにするべき話ではないわね」
「ギーラ様はどうなさるおつもりですか?」
「今まで通りあの方達に従うわ。
でもこの疑問と疑いは真実が分かるまで消えない。
きっとヘルブラム卿なら何か知っているはず。折を見て聞いてみるわ」
「そうですか…どうかお気を付けて」
「そういえば出掛けるのね。
ごめんなさい引き留めてしまって」
「久しぶりの休日と買い出しなんです。
お気になさらないでください。
また何かありましたら遠慮なく話し掛けてくださいね」
「えぇ、ありがとうユウキ」
複雑かつ衝撃的な話だった。
あの首だけになったアーマージャイアントがゴウセル様ではないかも知れない。
それは素直に嬉しいと思った。
しかしそれは同時に、代わりになった他の誰かの死を喜ぶことになるのではないだろうか。
私にはそう思えて、あまり手放しには喜べなかった。
そして思考はすぐにゴウセル様の行方に向かった。
もしかしたら聖騎士の追跡を逃れて今も何処かで元気に暮らしているのかも知れない。
もしそうなら会えなくてもそのまま過ごしていて欲しい、そう思った。
城下町は相変わらず賑やかではあったが、以前程活気を感じられなかった。
聖騎士達による強制的な徴兵で男手を奪われ、過度な税を払わされている村も多いと聞いた。
この町にも少なからずそんな噂や余波があるのだろう。
それでも人々の元気な声が行き交う往来は私の沈んだ気分を明るくしてくれた。
ドォォオオン!!!
賑やかな往来に鳴り響いた突然の轟音と崩れる建物が、これから始まるであろう戦いの幕開けになるとは、この時考えもしなかった。
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