続き物
特別な感情※長文注意
※夢主との会話なし、親しさの証明の少し前






ゴウセルは城の離れにある一階の書庫の窓辺で本を読んでいた。
たまたまその場所で読んでいただけで、彼に他意はない。
だが鎧巨人が狭い書庫に縮こまって本を読み耽る様は、彼を知らない者から見れば奇怪だった。
現に本を読んでいる彼に話し掛ける者はいない。
彼を知る者も、読書中に何を言っても反応しないので話し掛けない。
しかも彼は読書中や読書後に独り言や一人芝居をするので、更に話し掛け辛さに拍車を掛けてしまっている。

この日もぶつぶつと本を音読しながら過ごしていた。
三時間程そうしていたが、捲っていたページが段々と少なくなっていき、ついには無くなると彼は読み終わった本を閉じた。

本を棚に戻し真っ直ぐ出口へ向かう。
ここ数週間の間に専属の使用人となり、いつの間にか七つの大罪のあの濃いメンバーにも適応してきているユウキは、いつもなら今頃洗濯物を干している頃だ。
またいつかのようにディアンヌの服を干すのに苦戦しているかもしれない、と考えたゴウセルは裏庭へ向かった。
しばらく歩くと、明るいトーンで会話している声が聞こえた。



「ディアンヌ、ありがとうね。洗濯物干してくれて」

「ううん!これ位お安い御用だよ!これはボクの服なんだし、遠慮しなくていいからね」


どうやら今日はディアンヌが干すのを手伝っているようだ。
さらに言えば、いつの間にかユウキはディアンヌを呼び捨てにしていて、話し方も敬語ではなくなっていた。
ディアンヌが居るなら自分は必要ないだろう、とゴウセルは昼食を調達しに行くために厨房へ向おうとした。
しかし、二人のやり取りを聞いていたゴウセルは、何だか気分の晴れないような今まで感じたことのない不快感が胸に広がるのを感じた。
だが、ゴウセルにはこれが何なのかが分からなかった。
本に出てくる登場人物たちの感情は文章から容易に読み取ることが出来ても、自分の感情はとても難しく、そして理解が出来なかった。

ゴウセルがその場で一人考えていると、後方から団長の気配が近付いてきた。
団長は真っ直ぐこちらに来ているので、自分に何か用事があるのかと思い振り返った。


「よ!どうした?ゴウセル、何か考え事か?」

片手を上げながら話し掛けてきたメリオダスに、ゴウセルは用事は特に無いようだと悟った。
こちらに来たメリオダスは、ゴウセルが見つめていた先を見てニヤリと口端を持ち上げた。


「なんだ、お前ユウキを見てたのか?」

[それは間違いだ。正しくは洗濯をしているユウキとそれを手伝うディアンヌを見ていた]

「あんま変わんねぇと思うけどな」

[だがディアンヌよりはユウキを見ていたのは事実だ]

「そっかぁ」

ゴウセルの返答にニッと笑ったメリオダスは、彼を昼に誘った。
ゴウセルは断る理由も無いとそれを了承し、二人は城下町へ出掛けた。



メリオダスは時間があれば城下町の酒場へ出掛ける。
それは酒を飲むためなのと色んな人と話が出来ること、そして賑やかであることが理由だ。
だが今日の目的はそれではない。
それでもやはり賑やかであまり人目を気にせず話せるのも酒場だった。

いつも行く酒場とは少し違う、大通りから小道に入り更に奥まった所にある酒場をメリオダスは選んだ。
常連客と鉢合わせしないように、そしてゴウセルとこれから話す内容を気遣っての選択だ。
奥まった場所というだけあり、3m程もある鎧巨人のゴウセルは窮屈そうに酒場の椅子に座った。
既に着席し適当な酒と食事を注文していたメリオダスは、早速今日の本題を投げ掛けた。


「なぁゴウセル。単刀直入に聞くけど、お前ユウキのことどう思ってんだ?」

[彼女はなかなか優秀な使用人だ。最近は仕事にも慣れたようで作業時間が短縮されている。]

「いやそういうんじゃなくて、恋愛感情を持ってるのかってことだよ」

[…?恋愛感情?それはどういうものだ?]

「あー、例えば傍にいないのに考えちまうとか、あとは他の奴が近付くと嫌だったりとか。つまり恋だな!」

[それを感じることが恋愛感情を抱くことなのか?]

「イコールじゃねぇよ。でも似てるかもな」

[恋愛感情を抱くと恋をするのか?]

「ちょっと違ぇな。恋をするから恋愛感情を抱くもんだと俺は思う」


メリオダスの質問に質問で返すゴウセルを、メリオダスは咎めない。
彼は本当に分からないのだ。
感情という目に見えない、そして精神に強く影響を及ぼすモノが自分にもあることを理解出来ない。
仮に自分がある感情を抱いていたとしても、気付くことが出来ない。
だからこそメリオダスは、ハッキリとそれを告げたのだ。
これがキングなら話は別だが、ゴウセルには直球でいかなければこのままユウキとの進展は望めないだろう。


[団長の言う恋とは、心拍数の増加や顔面の紅潮、他の者との態度の差で判るものだ]

「それは第三者から見た状況だろ。全員に該当するわけじゃねーよ。出ないやつだっている」

[では俺はユウキに恋をしているのか?]

「さぁな。でもお前わざわざ仕事手伝ったりしてんじゃん。」

充分分かりやすいと思うぞ?


その言葉以降、ゴウセルは黙り込んだ。
自分の言葉を理解しようとしている事を分かっているメリオダスは、それ以上何も言わなかった。
互いに沈黙が続いたが、それを破ったのはゴウセルだった。


[団長。恋をしているとして、俺は何をすれば良い?]

「ユウキが嫌がらない範囲でお前のしたいようにすりゃあ良い。

お前さ、さっきディアンヌとユウキの会話どう思った?」

[?]

「あのユウキが敬語無しで呼び捨てだぞ?」

[女同士の方が打ち解けるのが早い…と本に書いてあった]

「何にも感じなかったか?」

[やや胃のむかつきの様な不快感が胸にあった]

「それは嫉妬だと思うぞ」

[嫉妬とは己の愛する者の意識や感情が他の者に向けられて起こる憎しみ、ではないのか?俺はディアンヌを憎んではいない]

「お前のはそこまでハッキリしたモンじゃないからな。少なくとも好意を持ってるのは自覚しろよ」

じゃないとこっちにまでとばっちりが来るかんなぁ…

ただの喧嘩ならまだ良いがゴウセルの能力は精神攻撃、つまり相手を精神的に再起不能にしかねない。
ここで分からせた方がそんなことになる可能性が低くなるし関係も進展する。
何よりこちらがヤキモキしなくて済む(ここが本音)とメリオダスは考えた。
彼から見てユウキがゴウセルに好意があるのは分かっていた。
だがユウキは使用人だし、本人はそれをかなり気にしている。
だからこそディアンヌへの対応はメリオダスとて驚いたのだ。

その最初の相手が自分だったら…と少し思ったが、それ以上は考えなかった。
最初に彼女に目を付けたのはメリオダスだった。
その理由はここでは語りはしないが、確かに彼がユウキを推薦した。このことを彼女は知らない。
いつの間にか彼女の隣には鎧を着たゴウセルがいた。
今まで見てきた彼とは何かが違った。この時、メリオダスの中で彼女はゴウセルの隣にいるべきだと感じたのだ。


[分かった。
俺はディアンヌだけがユウキに認められたようで不快だった。
それはユウキに恋をしていたからであり、俺はユウキと敬語も敬称も無しで会話をしたいと思っている、ということで良いのか?]

「大体良いんじゃねーか?」

[ありがとう団長。ユウキのところに行ってくる]

「おう、程々にな!」


ゴウセルは狭い室内から立ち上がり、その体に見合わない速さで城に向かった。
店に一人残されたメリオダスは、ゴウセルと話していてあまり手を付けていなかった食事を口に運び、すっかり冷めちまったなぁと愚痴を零した。

これでゴウセルは上手くやるだろう。
ゴウセルがディアンヌに感じていた不快感を自分も感じていることに、メリオダスは気づかぬフリをした。





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あきゅろす。
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