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Dream
第4話




日も暮れ,誰もいない町外れの廃屋。
そこに智香は一人いた。今日はアーチャーとセイバーのマスターに会った。自分を見て驚いていた彼らを思い出し,おもわず口元がつり上がる。


「しろうは,くるかな」

屋上で衛宮士郎に自分のことを知りたければと,此処の地図を渡した。



じゃりっ。


土を踏む音が聞こえる。
人がこの廃屋に入りこんできた。



―――あぁ,彼が来た。


「こんばんは,しろう。今日は学校案内ありがと」


暗い,もう使われることもないと思われる木材やら鉄材の陰から士郎は姿を見せた。

「あれ…,しろう。もしかして一人?」

「あぁ。悪いか?」

「悪いよ,ボクはセイバーと一緒に此処に来てって言ったはずだけど―――――でも。まぁ,いっか。だけどさ,少し警戒心ってのをもとうよ。もし此処で襲われたら―――」


不敵な笑みを浮かべ,智香は素早く士郎を近くの壁に両手を抑え押し付けた。

「そんなことはしない,佑月だったらまた。あの夜みたいに正々堂々とくるだろ?」
こんな状況でもそんな根拠のないことをさらりと言ってのけた彼に毒気を抜かれたのか,智香は大人しく抑えつけていた両手を離した。

「何それ,……はぁ。しろう,キミってば超がつくほどお人好しのホント馬鹿でしょ。普通昨日今日会った奴によくそんなことが言えるね」

額に手をあて,まいったよと苦笑する智香。
士郎も,よく言われると笑いながら返してきた。






「―――なぁ,佑月。
おまえの目的教えてくれないか?」

「何故サーヴァントを狙うか,てこと?」


ふざけたように言ったが,彼は真剣な面持ちで和を見つめる。
和はそんな士郎に,軽い溜め息をついた。


「しろうはさ。それを聞いてどうするの?」

「え…」

「手伝ってくれる?無理だよね,だってボクの目的はサーヴァント。士郎はボクにセイバーを殺させてくれるの?」

「殺すって―――」

「ボクが欲しいのはこの聖杯戦争に参加している七騎のサーヴァントの血」


いつの間にかもう少しで鼻と鼻がくっ付いてしまうほどの至近距離にいた智香の顔。その瞳には無感情なまでの美しい碧眼が光る。
まるで金縛りにあったかのように士郎はその場から動かない。

「サーヴァントの…血?」

「うん,血。それでぼくはこの忌まわしい呪縛から解放される」


そっと士郎から離れる。
瞬間,何かが解けたかのように士郎はその場に崩れた。

「お前の願いは,聖杯じゃ叶わないのか…?」

「叶わない。試したことなんてないけど,わかるんだよね。あれはボクのこの身体を治せないって…」

間髪入れず否定する智香は近くの壁に力無く凭れ,怒りとも悲しみともとれない声色でそう言った。

「…そんなに知りたいならアーチャーのマスター,遠坂凛かセイバーにこう言って。

サー・ランスロット リベリア…。彼女たちなら何か知っているかも」




それでもまたぼくに会いたいっていうなら,此処に来て。
そう残して智香は士郎の前から姿を消した。









***

一人残された俺。
彼女が残していった言葉












サー・ランスロット




リベリア…
















佑月が去ってから数分経って俺はなんとか立ち上がり,その場を後にした。







「シロウ!大丈夫でしたか!」
廃屋からでれば,外で待機していたセイバーが血相を変えてこちらに走ってきた。

「大丈夫だよ,セイバー。それよりセイバーは此処で誰かに会わなかったか…?」

「いえ?特に会いませんでしたが」

「そっか」
不思議そうに首を傾げるセイバー。
ということは佑月,此処を通らなかったのか。

「―――セイバー。聞きたいことがあるんだけど,いいか?」

「はい,何でしょうか?」


「サーランスロット…リベリアって何のことかわかるか?」

先ほど佑月が言ってことが気になって早速セイバーに尋ねてみた。
瞬間,セイバーの顔は見る見るうちに青ざめていく。

「な,…何故その名前を」

「さっき佑月がそんなこと言ってさ。遠坂やセイバーに聞けばわかるって,―――何か知っているのかセイバー?」

「昨日の…,彼女がそう言ったんですか?」

「え,そうだけど…」


「…そうですか―――」

そうどこか悲しそうに呟いたセイバーは踵を返し,その話は帰ってからにしましょうとだけ言うと,彼女はその後家に着くまで一言も話すことはなかった。

***

「サーランスロットって言ったらあのアーサー王物語に出て来る円卓の騎士の一人じゃない」
家に着くなり俺は遠坂に先ほどの佑月のことを話し,さっきセイバーにした質問も再度した。
しかし遠坂は当たり前のようにさらりと答えてしまった。

「円卓の…騎士?」

「ええ,でも私なんかよりセイバーの方が詳しいんじゃないかしら」

確かに。遠坂のいうとおりセイバーの正体は,世界的に有名なイングランドの伝説的英雄、アーサー王なのだ。アルトリアという少女が性別を男と偽ってアーサーを名乗り、王となった。
俺と遠坂は未だ帰ってきて一言も話さないセイバーを見る。


「―――,わかりました。私が知っている限りのことを話しましょう」

意を決したのか,たっぷり間をおいてやっとセイバーは口を開いた。

真剣な顔で見つめてくるセイバーに俺達は何も言わずに頷いていた。





「先ほどリンも言いましたが,サー・ランスロットは確かに円卓の騎士の一人でした」

「悪いセイバー…早速話の腰を折るようで悪いんだけどさ。その円卓の騎士っていうのは何なんだ?」

「あのね士郎…。そんなことも知らないな。いい?円卓の騎士っていうのは,まぁ…簡単に言えばアーサー王を守護する騎士団ってとこかしらね」

俺の疑問に呆れながらも遠坂は答える。

「はい,リンの言うとおり彼女は優秀な騎士でした。槍・馬術・剣術どれも彼女の右に出るものはいなかった。騎士としての行動や振る舞いもまた素晴らしく,彼女こそ王に相応しいと囁かれるほどでした」

「―――まってセイバー。彼女って,もしかしてランスロットは女だったの?」

「はい,ランスロット。彼女は女性です」

セイバーの返答に遠坂は小さく溜め息をつき,テーブルに肘をついて不満げな顔する。

「現代に残る神話や伝承なんて案外当てにならないものね。―――でもランスロットっていったらアーサー王の妃と不倫していて,それがバレることを恐れ他の円卓の騎士達を何人か殺害したりって…ランスロットってあまりいい説は残っていないのよね。それ故にランスロットは裏切りの騎士,なんて呼ばれてたらしいわ」

「でも,まてよ遠坂。アーサー王の妃と不倫ってそこから無理な話だ」

「ええ,現にアーサー王とランスロットは女だった」

続き話てもらえないかしら,と遠坂はセイバーに促す。

「私も彼女には一目置いていました。彼女には何度助けられたことか…。何度か手合わせし,話したりもしましたが騎士としてだけでなく,彼女は人柄もとても良かった。私が王だった時まともに話したのは恥ずかしながら,ランスロットだけだったでしょう」

その頃を思いだしているのか,セイバーはとても穏やかな表情で目を細める。

「仲が良かったんだな」

「そう―――思っていたのは,私だけだったのかもしれません」
急にセイバーの顔に影が差す。テーブルの上で組んでいた手に力がはいるのがわかった。


「ある日をさかいに彼女は時折,何か思い詰めた表情をすることが多くなりました。私がどうかしたのかと尋ねても,大丈夫です,と悲しそうに微笑むだけでした。私はなんとか彼女にその胸の内を聞き出そうと試みました。しかし,彼女は一向に打ち明けはくれませんでした。そうして訪れた私の最期,いえ国の最期と呼ぶべきあの運命の日がやってきてしまった。
勿論その時も普段通りランスロットは私についてきてくれました。そして―――まさかあんな事が起きるなんて私には知る予知もなかった。私はその闘いのさなか







ランスロットに刺されました」


「な…,んでっ。なんでそういうことになるんだ。セイバーとランスロットは仲間なんだ―――」

「士郎」

遠坂の咎める声に俺は我に戻る。
そう…だよな。俺なんかよりセイバーのほうがその信じられない行為に己の目を疑ったか。

「悪いセイバー…」

「いいえ,シロウの言うとおりです。
しかしランスロットもそのあと己を刺し私の横に倒れてきました。そして,消え入るような声で





―――すいませんでした


とただ一言消え入るような声で。
そこで私の意識は途切れその後の彼女は分かりません。

勿論,私を刺した彼女の意図すら分からずに…」



「もう良いわ,セイバー」

苦しそうに,今にも泣き出してしまうのではないかと思うほどセイバーは痛々しかった。

「ありがとうセイバー,話てくれて」

「いいえ,私こそ取り乱してしまいすいませんでした」

セイバーは座り直し,ぎこちない笑みで俺達を見た。

「話は戻るけど,それじゃあリベリアってのはなんなんだ?」
「リベリアというのはランスロットの名前です。元々ランスロットというのは称号みたいなものですから」

「なら何でそんなことを佑月は知っているんだ」

「それは分かり兼ねませんがその少女とランスロットは少なからず何か関わりがあるのでしょう」

「あと佑月呪縛がどうとも言ってたな。それを解くため聖杯戦争に参加している七騎のサーヴァントの血が必要とか…」


「―――呪縛,リベリア…ランスロット,七騎のサーヴァントの血…どこかで」

俺とセイバーの傍ら,ぶつぶつと何やら一人で考えだす遠坂。すると急に立ち上がり出掛ける支度をする。

「急だけど,今日は家に帰るわ。少しそのランスロットについて調べてみるわね。何か分かるかもしれないし」


「わかった,頼む遠坂」

「何かわかったらすぐに報告するわ。それじゃおやすみなさい」

いくわよアーチャー,と霊体化している彼を呼びドアの閉まる音とともに遠坂は家を出ていった。

そのあと夕飯の片付けをすませ,俺達は日課の鍛錬するために道場へ移動した。






「あの,シロウ」

「ん?どうかしたかセイバー?」

鍛錬を終え,水を飲んで一息ついている俺にセイバーは控えめに向き直った。

「先ほどの話でもう一つ,気になったことが」



「佑月のことか?」



「はい―――。昨日彼女が使用していたあの剣,あれはアロンダイト。
―――ランスロットが愛用していた,剣だったんです」








***


「おまっ,おまえ…なんでっ…転校生のっっ!!?」

少年の下には真っ赤に染まったサーヴァントが一人無惨な姿でその場に倒れていた。


「やっと一騎…」

サーヴァントを殺ったと思われる相手の剣からは,その血が滴り落ち赤い血溜まりを作っていた。

「うわぁあああああぁあああああっっ?!!」

仕留めたサーヴァントのマスターは恐怖で叫び,その場から逃げ出す。


「逃がさない」

「―――っ?!」


一瞬で少年の前に立ちはだかる碧眼の瞳の持ち主は迷わず,その持っている剣を振り下ろした。

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あきゅろす。
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