Dream
第3話
昼休みが終わってあのあと急いで教室に戻ってみれば,佑月は相変わらず生徒から質問攻めにあっていた。
「おぉ,衛宮帰ってきたか。それにしても驚いたぞ。昼休みになった途端教室を飛び出して行くんだからな」
「悪い,一成。急ぎの用だったんだ」
「うむ。まぁ衛宮にも事情があるのだろう。…そういえば藤村先生からついさっき伝言を預かっていたんだ」
「藤ねぇから…?」
「放課後あの転校生に学校案内をしてやってくれとのことだ」
一成は席に着いている佑月に視線を向ける。
もう授業が始まるからだろう。さっきまで周りにいたクラスメート達は居なくなっていた。
「…分かった。でも,そのこと佑月は了承してるのか?」
「藤村先生はもう言っといてあると言っていたぞ」
「そっか…」
まったく藤ねぇめ,そういうことは初めに普通俺に言うべきだろ。心の中で静かに悪態をつく。
「どうした衛宮,気に掛かることでもあるのか?」
「え?…いや,そういうわけじゃないけど。なんでさ?」
「ならいいが,いつものお前ならこういうことは快く受け入れているはずだからな」
今日は少し変だ,とまで言われた。
う゛…,俺そんなに嫌な顔していたかな。多分無意識に強張っていたのだろう。
それはそうだ,昨日突然襲ってきた相手に今度は学校案内をしろというのだから。はい,そうですかで済む話じゃない。
今日はすぐ帰ってセイバーに佑月のことを相談したかったのに。
「伝言は伝えたからな」
そう言って一成は自分の席に戻っていった。
暫くして午後の授業が始まった。放課後が少し憂鬱になってしまったが,今は授業に集中すべく俺はノートを広げシャーペンを手に取り,教師の話に耳を傾けた。
***
「今日は宜しく,衛宮くん」
帰りの準備をしていれば,突然端麗な顔立ちが俺の顔を覗き込んできた。
「うわっ!?て…佑月か」
「あれ,藤村先生から聞いてない?」
「聞いてるよ。学校案内,だろ?」
そうそうと嬉しく相槌を打つ佑月は昨日の少女とはやはり思えなかった。
「で,あそこが保健室。向かいが生徒会室で…」
「ねぇ!あの建物は?」
佑月は窓から見える弓道場を興味津々に指差した。
「あぁ,あれは弓道場。弓道部の活動場所だ」
「はー,ボク。この何百年間生きてきたけど,弓道場なんて初めて見たよ。あっ,でも弓道ぐらいは知ってるから!」
感心したようにそう言って佑月は,弓をいる真似をする。
こんな感じ?とおどけて俺に言ってきた。
その姿に俺は不覚にも実際佑月が弓をいった姿を想像して鳥肌がたった。
余りにも美しくすぎるその光景に。
いや,弓道だけではない。佑月なら何をやっても様になるだろう。
いや…ちょっとまて俺。そんな事より佑月はさっきとんでもないことを口走ってなかったか?
「佑月…さっき何百年って」
「うん。ボク今回初めて学校に通ったから」
俺を見ているはずなのに,佑月はもっと先を見ている感じがした。
「今回って…。何言ってんだよ。佑月は生きてて精々俺と同い年なんだから16,7年だっ―――!!」
「しろう…その話は今は止めて」
静かな声で静止,佑月の綺麗な人差し指が俺の唇に当てられた。
それに…名前…。
妙に顔が熱いのはなんでだ。
「わ,…分かったよ。にしたって他に方法あるだろ…」
そっと佑月の手を口から離す。
「それに,名前…」
「…え?あぁ,ゴメン。嫌だった?」
「別に,嫌じゃないけど」
「それじゃ今度からしろうって呼ぶね」
そう言って佑月は何度も確かめるかのように俺の名前を口にして,嬉しそうに先をどんどん歩いていく。
それから俺はまた学校案内を再開した。そのあとの佑月も特に変わった様子もなく,本人も純粋に楽しんでいたんだと思う。
結局,俺は何も佑月から聞けずに彼女と別れ帰ってきてしまった。
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