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Dream
殺人考察(前)W



あのあと黒桐さんと他愛のない話をして,私は二人と別れ学校をあとにした。
話している間式はずっとムスッとしていたが,そんなのきにもせず私と黒桐さんはにこやかに談笑していた。
ほんの,ほんの少しだけだったが,黒桐幹也という人間がわかったきがした。
この人なら式を任せられる。
「さてと,アーネンエルベにでも寄って帰るか」

早速私は最近お気に入りの喫茶店に寄るため,ついさっき信号が青に変わった交差点を軽い足取りで渡って行った。



***


今日は朝からずっと雨だった。私は一階の渡り廊下を歩いている。雨天のせいか,昼間だというのに渡り廊下はどこか薄暗かった。
授業が終わり,放課後の校舎には殆ど生徒の姿はない。
黒桐が話した殺人事件が報道されたため,学校側が部活動を禁止したのである。
今朝,秋隆や和が話していたのだから間違いないだろう。
犯人は今だ捕まっておらず,その動機さえ明らかになっていない。
被害者に共通点はなく,その全ては深夜に出歩いて殺害されたということだった。
これがまた遠く離れた所での事件なら傍観できるが,自分達の住んでいる街となると話は違ってくる。
夜も九時を過ぎたあたりで警官が巡回しているので,このところ夜の散歩も満足にできていない。


「…四人…」

呟く。
その四つの光景を,私は。

「両儀さん」

突然呼び止められた。
足を止め振り返ると,そこには見たことのない男がたっていた。



***



夜になりやっと雨は止んだ。
自分の部屋の窓に手をつき,ぼんやりと外を眺めていた。
だが,窓の外を見たって見えるのは竹林だけ。両儀家の屋敷一体は竹林で囲まれているのだ。

トントン。


襖を軽く叩く音がした。

「はーい,どうぞ」


少し間の抜けた返事を返せば,閉まっていた襖が静かに開いた。

「和少しいいかしら」


式だった。
散歩から帰ってきたのだろう,部屋に入ってきては,ベッドに腰掛けた。


「久しぶりだね,織」

彼女をそう呼べば,織…彼はニヤリと笑った。

「さすが和。よくオレが織だってわかったな」


織はけたけたと笑い,ぼすっとベッドにそのまま後ろに倒れこんだ。

「そりゃわかるって。だって織と式じゃ全然違うじゃん,まぁどこがって詳しいことは上手く言えないけど」


「そんなこと言えるのはお前だけだよ」
体をおこしベッドに座り直す織。その隣に私も座った。
「で,どうしたの?織が来てくれなんてホント珍しいね。何かあった?」

「別に。それとも何かなきゃ来ちゃいけないのかよ」

少しブスっとしながら,私の膝の上に頭を置いた。そんな織の綺麗な黒髪を優しく梳く。
少しの沈黙のあとに織は不意に口を開いた。


「次の週末にコクトーと会う」
「え…。コクトーてあの黒桐幹也?」

「はははっ,そうだよ。あのコクトー」

織は体をおこして,ベッドから立ち上がった。

「式じゃなくて織が会うの?」



「そういことになるかな」

「それってデート?」

真顔でそんなことをいえば織はぶっと盛大にふきだした。

「そんな可愛いもんじゃないよでも,そういことになるのかな」

どこか楽しそうな織。
織も黒桐幹也を気に入っているのだと一目できがついた。

「それって式はちゃんと了承してるの?」


「もちろん。式が会ってもいいって思ってなきゃそんなこと出来ないさ」

確かに。それに昔式が言っていた,式と織はほぼ同時に存在している,と。その時はよく分からなかったが今なら少しその意味が分かるような気がする。
織は突然わしゃわしゃと乱暴に私の頭を撫でた,というよりかき回されたと言った方が正しいだろう。

「それじゃ,オレそろそろ寝るな。遅い時間に悪かった」

頭に触れていた手が離れ,なにか急に寂しいような感覚に襲われた。私はいつの間にか織の袖を掴んでいた。
「あ…ごめん,分かった,またね。おやすみ織」


「あぁおやすみ。お前と話せて良かった」

織は私を見て笑い,部屋を出て行った。しばらく動けなかった。何だろう…,この感じ。






――――あぁ,そっか。
















――――小さい頃最後に父さんや母さんと話したあの時と,一緒なんだ。

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あきゅろす。
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