[携帯モード] [URL送信]

Dream
第2夜



《茅夏…茅夏…》
嗄れた声がオレを呼ぶ。

「うっ…ん…?誰…」
瞼を開けばオレは暗い闇の中にポツリと立っていた。

《儂だ…》


《キサラ?》


《あぁ。茅夏…,きおつけろ…吸血鬼には…そして…遠野,志貴…》


そこで強制的に視界はシャットアウトした。






ぴぴっぴぴ…。
目覚まし時計の音で目が覚める。
久しぶりに夢にキサラが出てきた。
キサラと言うのはオレの中にいる九本の尾をもつ獣,九尾の狐だ。代々退魔師の家系である佑月の当主の中に宿る物の怪。
何故,詳しい理由はオレもよく知らない,聞く前に家族は死んでしまったしオレには関係ないことだと今じゃ割り切っている。

にしても…きおつけろ,か。
吸血鬼,そして…何故遠野が…?
《なぁ,キサラ》

呼びかけても返事は返ってこない。

―――寝てんのか?
まぁいいか。今は学校に行く支度をしなきゃ。

オレは欠伸を噛み殺しながら洗面所へと向かった。



******



「あ…」
昼の時間になり鞄をあさればオレはやっと弁当を忘れてきたことに気付いた。

「どうしたの?」

「ごめん,弁当忘れたみたいだ。今日は食堂で食うよ」


それじゃ,といつも昼食をともにする友達に一言ことわり,オレは食堂へと足を進めた。







ガヤガヤと食堂は騒がしい。
想像していた通り,食堂は混んでいた。


「あれ?遠野達じゃん」

ウロウロと席を探していれば見知った奴らがいた。

「あ,佑月さん」

遠野は心なしか顔が青い。
昨日逃げるように帰ってったが…,何かあったのか?

「茅夏ちゃん!」

「佑月じゃねーか。今日は学食か?」

遠野と弓塚に軽く挨拶し,乾の質問にあぁと軽く応えた。

「お前らはいつも学食だよなーーー?」

不意に遠野の隣にすわる眼鏡をかけた女子生徒に視線がいった。

「こんにちは」

視線に気付いたのか眼鏡をかけた顔立ちの端麗な女子生徒はにこやかに挨拶をしてきた。

「どうも,こんにちは」


「遠野くん達のお友達ですか?」

「あ,はい!こいつはクラスメートの佑月。こんなんでもいちお女なんすよ」

「おい,いちおってどういう意味だ」

眼鏡の女子生徒に乾は簡単にオレを紹介する。乾の口調から察してどうやらこの女子生徒は先輩のようだ。

「初めまして佑月さん。私はシエルっていいます」

宜しくお願いしますと,にこやかに笑いかけてくる。
彼女はシエルと言うらしい,シエル…カタカナだよな,外国人か?

「あ,いえ。こちらこそ初めまして,佑月茅夏です」


《こやつ…》


「えっ?」


「どうかしましたか?」

「い,いえ!!なんでも」

突然キサラが話しだすから驚いて声をあげてしまった。
遠野達も不思議そうにオレを見ている。
そこに弓塚があっと声を漏らした。

「どうした弓塚?」

「さっきね,来週の休日にみんなで遊園地に行こうって話してたの。良かったら茅夏ちゃんも行かない?」

「それは良い考えですね!どうですか佑月さん」

「人数多い方がいいしな。来いよ佑月」

突然の誘いに驚きつつ,シエル先輩の隣に座っている遠野に視線をむければ,彼は食堂にあるテレビを真っ青な顔して見つめていた。テレビではここんとこ起きている連続殺人事件のことを報道していた。

そんな遠野に気が付いたのか弓塚達も心配そうにどうしたのかと尋ねだす。
結局何でもないと言って遠野は先に教室に行ってしまった。


***


放課後,掃除も終わり教室に戻れば遠野と弓塚が残っていた。

「よっ。遠野に弓塚,まだ残ってたんだ」

「茅夏ちゃん!」

「佑月さん」

声をかければ同時に振り向く二人。弓塚は何か妙に焦っていて,遠野はやっぱり浮かない顔していた。

「今帰るとこなんだ。茅夏ちゃんも一緒に帰ろうよ」


「いや,…オレはいいや。まだ少しやることあるし。二人で帰れよ」

意味あり気に弓塚に視線を送れば,顔を真っ赤にし慌てだす。きっと遠野に帰ろうと誘ったのだろう。

「そうなんだ。あ…何か俺で手伝えることとか―――」

「いいって!先に帰って平気だから,な?」

「そっか…。それじゃ,弓塚さん。帰ろうか」

弓塚達はドアへと向かう。
通りすぎる弓塚に小さく,頑張れよ,と耳打ちしてやると弓塚は嬉しそうに頷いて行った。


「それじゃあ,茅夏ちゃんバイバイ」

「佑月さんも帰りはきおつけて」

二人はまたドアの前でオレの方に振り返る。

「あぁ。二人もきおつけて」





二人が教室を出て行ったあと,オレも図書室で適当に時間をつぶし,学校を後にした。





帰り道には絶対通る公園。
そこを通ろうと足を進めた時,公園のベンチの前につい数分前に別れた遠野がいた。

「とお―――?」

声を掛けようとすると,遠野の後ろから金髪美人さんがやってきて何やら話したあと二人は公園を出っていった。

――うわぁ,誰だよ。もしかして遠野の彼女?…にしても妙な雰囲気だったな。


「ま,オレには関係な―――っ??!!」

突然身体は焼けるような熱さに包まれた。その熱に耐えきれず,オレは膝をついてしまった。


この感覚は…


《クククククク。見つけた,ようやく見つけたぞっ……真祖!!》



そのキサラの雄叫びを最後に,オレは身体の主導権を失い気絶してしまった。







[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!