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Dream
俯瞰風景Y


「きり…え,き…りえ」

静かに目を開けば,知らないうちに頬には涙が伝っていた。
先ほどの霧絵に首を絞められた時にでたモノとはまた,違う。

まだ少し痛む首を抑えながらもなんとか起き上がる。

霧絵は…霧絵はどこ…?


****



両足に二つ,背中に一つ。
中心よりやや胸部に一点。

―――死という名の切断面が確かに見える。
狙うのならとりわけ胸のあたりがいい。
アレならば即死。

この女が幻像であろうと何であろうと。
生きている相手ならばたとえ神でも殺してみせる。

私はナイフを掲げた。
柄を逆手に持ち,上空の相手へ。

もう一度衝動が巻き起こった。だが……私には効かない。

「あいつまで連れていかれては困る。拠り所にしたのはこっちがさきだから,返してもらうぞ」
何も握っていない左手てで中空を握る。
そのまま左手を後ろへと引きぐい,と私は女を引き寄せた。

「―――!!」


女の形相が変わる。

「おまえが墜ちろ」

急速に落下してきた女の胸に,ナイフを突き刺した。
果物を刺すように呆気なく,刺された物が恍惚するほどの速さで。

出血はない。

女は胸から背中へ通り抜けた刃物のショックで動けず,びくん,と一度だけ痙攣した。


「霧絵っ!!?」

その刹那,和の悲痛な叫びが屋上に木霊した。


****

私が霧絵を見つけ出した時には,ちょうど式に胸をひとつきされたところだった。



私は無我夢中で霧絵に走り寄った。


「霧絵!霧絵っ!」

今にも消えてしまいそうな霧絵を,思いっきり抱きしめた。

「ごめん…ごめんなさいっっ。あたし…霧絵の,約束っ…。会いに行けなくて…」

上手く言葉にできなかった。
言いたいこと,謝らなければいけないことが沢山あるのに。
涙が止まらなかった。


「でも…,来てくれたじゃない。こうやって。わたしはどんなカタチでも,また貴方に,和に会えて,嬉しかった…」



霧絵は静かに私から少し離れ,手をそっと私の頬にそえ,そして優しく少し赤くなっている首を撫でた。


「痛かったでしょ。ごめんなさい,そして…」




ありがとう


最後の言葉は,もはや声にならなかったが,私には確かに聞こえた。



彼女が最期に見せた笑顔,あの時,病室でみた笑顔そのままだった
****
もうそこにはいない霧絵。
私はただ闇に包まれた夜空を見上げることしかできなかった。


「式…。帰ろっか」

震える声で。
今はそれしか言えなかった。

「そうだな」





そうして私は一度も振り返ることなく,式と巫条ビルをあとにした。

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