Dream
第5話
「で,改めてこっちのちっこいのが「我はアベル」
さっきまで静かにしていたアベルが俺の言葉を遮る。
『アベル?』
突如,遠坂とセイバーの声が重なった。
「アベル…。そんなクラスあったかしら?」
「いえ。凛の言う通り,アベルというクラスはありません」
そう言うなり二人はなにか考えこんでしまった。
「なぁ,俺達にもわかるように説明してくんねーか?」
俺がそう言うと横にいた衛宮も頼むと一言言った。
「説明するって約束だったし,わかったわ。一度しかいわないからよく聞くいて」
先ほどとは打って変わって遠坂は,深刻な顔つきで俺達に説明しだした。
******
「簡単に言うとだ,その聖杯戦争ってのはなんでも願いが叶う聖杯っていうのを7人の魔術師は7騎のサーヴァントと契約してそれを奪い合うってことか」
俺は遠坂からの説明を簡単に要約した。
「まぁ,そういうことになるかしら」
「でもそれってその聖杯を巡って互いに殺しあうってことだろ!」
今まで黙っていた衛宮は突然立ち上がり,抗議の声をあげた。
しかしそんな衛宮を遠坂は落ち着いた様子で説き伏せる。
「そうよ,でも仕方ないわ。貴方はセイバーを召喚した。それは何事にも変えられない真実なのよ」
「だけどっ…」
遠坂から事実を突き付けられ衛宮は,まだどこか納得できていないようで,そのまま悔しそうに黙ってしまった。そりゃそうだろ,いきなりこれから聖杯を奪い合うために殺しあえだなんて。
「佑月…君だったわよね。貴方,さっきから衛宮くんの事人事みたいに聞いてるけど,貴方だってこの聖杯戦争には参加するのよ」
いきなり話をふられたかと思えばとんでもないことを遠坂に言われた。
「……は?」
一瞬遠坂の言っていることが理解できなかった。なんだって…?。俺もこのわけのわからない戦争をしろと?
「だって佑月君,その子は貴方が召喚したサーヴァントなんでしょう?」
先ほどからテーブルの上に置いてあるせんべいを一生懸命食べているアベルを指差した。
「召喚したっていうか,俺が強制的に連れて来られたっていうか…。」
「強制的?」
俺の言葉に遠坂はわけがわからないという顔をしている。
「あぁ。それに,アベルが言うには此処冬木市は俺といた所とは違うらしい。俺も最初は信じられなかったけど…,遠坂達の話,聖杯戦争やら魔術師,サーヴァント…俺のいた日本には魔術師とかなんておとぎ話の中だけだ。そんな話し聞かされたら…信じるしかないだろって思ってさ」
「佑月…」
今まで俯いていた衛宮は顔を上げ俺を見た。
「それじゃ,佑月くんは異世界人…てことになるのね」
「ま,簡単に言えばそうなるかな」
「…異世界人に,謎のサーヴァント…」
先ほどから衛宮の隣に座っていたセイバーは何か静かに呟いた。
「どうしたの?」
凛は不思議そうに尋ねた。
衛宮と俺もセイバーに視線を向ける。
「いえ…,先ほどの智香の話を聞いて引っかかった事が」
「良かったら聞かせてくれないか?」
俺の頼みをセイバーは静かに頷いた。
「智香のサーヴァント,アベルはもしかしたら異端の王,と呼ばれるサーヴァントかもしれません」
セイバーの言葉にアベルはせんべいを食べる手を止めた。
『異端の王?』
俺と遠坂,衛宮の声が重なる。
「はい。謎のサーヴァント,通称異端の王は,どこのクラスにも属さず,異世界からマスターを連れてきては突如聖杯戦争に参加してくるという,正体不明のサーヴァントです」
「異世界人にどこのクラスにも属さないサーヴァント…。佑月くんとアベルに物凄く酷似しているわね」
俺とアベルを交互に見て遠坂は納得したように顎に手をあてた。
「あ,あのさ」
「どうした衛宮?」
衛宮は遠慮がちに切り出してきた。
「その話が本当ならさ。アベルに直接聞いてみるってのはどうなんだ?」
そうか。一番簡単な方法を忘れていた。
アベルに真相を確かめればすむことじゃないか。
みんなもそう思ったのか,無言でアベルに視線を向けた。
「…」
しかしアベルはいつのまにか,窓際に移動していて,ただ黙って星が煌めく夜空を仰いでいた。
「ハァ…,どうやらこの子,話す気はないらしいわね。いいわ。衛宮くん,佑月くん。着いて来て欲しい所があるんだけど,いいかしら」
遠坂は立ち上がり,有無を言わせない真剣な顔つきで俺達を見据えた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!