Dream
第7夜
「何故ずっと黙っているんですか?昨日と一昨日はどこにいらしていたかをお聞きしているんです」
志貴の部屋に着くなりオレたちは用意された椅子に座らせられ,思っていた通り秋葉の容赦ない質問攻めにあっていた。
オレがいることに最初は驚いていた志貴だったが,簡単にわけを話すと一瞬考えこみ小さく,"あの子は茅夏だったのか…゛とよくわからないことを呟いた。
「二日も帰ってこなかった理由が説明できないのですか?でしたらせめて電話をする事はできなかったんですか」
「…つい忘れて…」
「つい?つい…学校もお休みになったのですか?」
「……」
それっきり志貴は黙り込んでしまった。
言えるわけがない,あんなこと…吸血鬼退治してましただなんて,話せないし話したところで信じてもらえるなんて思っていない。
オレは一度深呼吸し,椅子から立ち上がって膝をつき頭を下げた。
「茅夏!?おい,何して…頭を上げてくれ!」
「悪い秋葉。全部オレのせいなんだ。だから志貴を責めないでやってくれ」
「茅夏!」
「そうなんですか兄さん?」
「違う!茅夏は…オレが,勝手に巻き込んだだけだ。彼女こそ何にも,悪くない」
今にも消え入りそうな声で,志貴はそれ以上何も言わずまた黙ってしまった。
「……兄さんや茅夏,二人にも事情があると思いますし,私がそれに深く干渉する事はできないのでしょうけど」
そこで秋葉は話すのをやめ,椅子から立ち上がってまだ土下座をしているオレと目線を合わせるようにしゃがみ込み,オレの頬へ触れた。
「顔を上げて下さい茅夏」
「秋葉…ごめん…」
「もういいですから」
先ほどの剣幕とは打って変わってまた,彼女は優しい笑みを浮かべオレを立つよう促した。
「…最後に茅夏。ひとつ聞いてもいいですか」
「ぇ,あ…あぁ。答えられる範囲だったら…」
オレは椅子に座り,再び秋葉へと向き直る。
「――――兄さんには何もされませんでしたか?」
『…………は?』
何を言われるのだろうと身構えていれば,これまた予想を遥かに超える質問であったためオレと志貴の声は綺麗に重なってしまった。
「あのー…秋葉?それはどういう意味で…」
「そのままの意味です茅夏」
「秋葉!お前何言ってっ…」
「兄さんは黙っていて下さい」
その一喝で志貴は何も言えなくなってしまい,何とか言ってくれとばかりにオレを見る。
秋葉もふざけて言っているようには見えず,物凄い真面目な顔でオレの答えを待っていた。
「……あのな秋葉。なんか誤解してるみたいだけど,別にオレは志貴に何もされてねーよ」
「本当ですか?」
「あぁ,考えても見ろよ秋葉。この志貴がオレに強姦まがいのことできると思うか?まあ…もしそんなことされてたら今頃オレ(キサラ)は志貴の大事なとこを再起不能にしてたと思うけど…」
な?と笑顔で隣をみれば,志貴の顔が一瞬にして青ざめた。
「―――分かりました。貴女が嘘を言っているようには見えません…ですが茅夏」
「―――?」
「兄さんは男で貴女は女です」
「ははは…分かってるって。志貴が相当の欲求不満じゃない限りオレみたいなのは襲わないだろ。安心しろ秋葉,大切なニイさんの初めては奪わないからよ。あ,もう初めてじゃないか?」
「―――なっ?!ふざけないで!!私が言っているのは貴女を心配して――…茅夏?どこへ行くんですか」
「ん?学校だけど」
起きた時琥珀さんから手渡された制服を持ち,部屋を出ようとすれば彼女は立ち上がりオレの腕を掴んだ。
同じく志貴も立ち上がりオレに続こうとする。
「じゃあ俺も学校に…」
「兄さん!今日は家にいて頂きます。琥珀から聞きました,昨日は深夜遅くに玄関の前で倒れていたそうですね。ただでさえに兄さんは体が弱いんですから。今日は家で大人しくして下さい」
怒っているようにも見える彼女だったが,その表情は心配からきているものだろう。そんな秋葉の言葉に何も言い返せない志貴は観念したのか,動きを止めた。
「――つうわけだ志貴。お前はゆっくり休んでな」
「何を言ってるんですか!茅夏,貴女も」
「大丈夫だって。それに志貴とオレが同じ日に何度も休んだら,色々と変な誤解をする奴もいるからな」
これは嘘ではない。志貴を見れば,案の定苦笑いを浮かべていた。
乾や弓塚,シエル先輩は大丈夫だと思うが特に弓塚はヤバいだろう。あいつ思い込み激しいほうだからな。
だって弓塚は本気で志貴のことを―――
「……翡翠,あの部屋へ案内しなさい。そこで制服に着替えて下さい茅夏」
「悪いな秋葉。ありがと」
「分かりました。茅夏さま,こちらです」
納得してくれた秋葉は渋々と言ったかんじでオレの腕を放し,翡翠さんに部屋を案内するよう言う。あの部屋とは朝起きた時にいたあそこのことだろう。
「じゃあ志貴,また明日学校で」
「ああ。また明日茅夏」
「茅夏さま,いつでもまた遊びに来て下さいね。お待ちしてますから」
志貴に挨拶し,部屋から出ようとすれば扉のすぐ近くにいた琥珀さんは嬉しそうに頭を下げた。
「―え…,いいのか琥珀さん」
「勿論です,そうですよね。秋葉さま,志貴さん」
「俺は全然構わないよ」
「勿論です。ーーそれに,記憶が戻るきっかけにもなるかもしれませんしね」
一瞬寂しそうに呟く秋葉。その言葉に首を傾げる志貴にオレは,あとで話すと一言付け加えておいた。
「…ありがと秋葉,志貴,琥珀さん。それじゃまたお邪魔させてもらうよ」
今度こそオレは部屋から出て,待たせていた翡翠さんの少し後ろをついて行った。
***
「こちらです茅夏さま」
暫く翡翠さんに着いて歩いていけば通されたのはやはり朝,オレが目覚めて居た部屋だった。
早速着替えようと,数時間前までオレが寝ていたベッドに制服を置いた。
秋葉から借りた服を脱ぎワイシャツを着ようとした瞬間,後ろから息を呑む声が聞こえた。
「翡翠さん?」
どうしたのかと,後ろに控えている彼女を振り返ってみれば手で口を覆い驚愕の表情を浮かべていた。
「―――茅夏さま…その…傷,は」
「き…ず?―――あぁ,これ?」
彼女の視線を辿ってみれば,そこはオレの背中で。
まるで猛獣に爪で掻き毟られたような無数の傷跡があった。
いつもなら包帯を巻いて隠しているのだが今日に限って巻いていなかった。
「気持ちわりいモノ見せちまったな」
「いえ!そんなこと…,すいません。私こそ申し訳ございませんでした」
「なんで翡翠さんが謝るんだよ。見せちまったのはオレなんだし,謝らなきゃならないのは普通こっちだ」
止まっていた手の動きを再開させ,ワイシャツのボタンを素早く閉めてから学校制定のベストを着て,胸にリボン結びオレは着替えを済ませた。
「――知らないんだ…」
「茅夏,さま?」
「ううん,何でもない。あ,この傷のことは志貴や秋葉には内緒な」
おどけたように人差し指を口元に当てて彼女を見れば,微かに表情がさっきより柔らいたような気がして。
次に何故か彼女は頭を深々と下げた。
「茅夏さま。それはお約束為兼ねます」
「…ぇと,なんでか聞いていいか?」
「これは私の憶測ですが,昨夜その服を茅夏さまに着替えさせたのは秋葉さまなのでもしかしたら既に見てしまっているかと。――志貴さまは存じ上げてはいないと思います」
淡々と無表情な顔で語る内容にオレは力無く項垂れ頭をかかえた。
それはそうとなら秋葉はさっき聞いてこなかったのだろう。
「茅夏さま」
一人考えていれば,先ほどまでオレの目の前にいたはずの翡翠さんは,知らないうちにドアを開けその横に立っていた。
「準備が整いましたのなら,門までご案内いたします」
「ぁ…うん。じゃあ頼むよ」
何を心配してるんだオレは。
彼女なら,傷跡のことだって聞かれない限りべらべらと誰かに話はしないだろう。
秋葉だって,直接聞いてこなかったのは彼女なりのオレに対する配慮か何か考えがあったに違いない。
「それでは行ってらっしゃいませ茅夏さま」
気づいたらもうオレたちは門の前にまできていて,翡翠さんは再び深々と頭を下げた。
「あの…さ,さっきのことなんだけど。オレ実はどうして背中にあんな傷跡があるのか覚えてないんだ」
自然と,気付けばそんなことを口にしていた。しかし彼女は何も言わずただ一言そうですか,とだけ返した。
「――て,なんかつまらないこと言ったな!ごめん,今のは忘れて。…それじゃ,行ってきます翡翠さん」
「はい,姉さんも言っていましたがまた是非いらしてください」
「―――ああ,ありがとう翡翠」
「ぇ――…茅夏さま,今…―――」
「ぇ……ああっ!!ごめん急に呼び捨てなんかにして」
無意識だった,彼女を呼び捨てたと同時に脳裏に映った幼い志貴と秋葉と…知らない誰かが自分に向かって手をを降っていた。
「いいえ,かまいません。寧ろ嬉しいです。昔は,そう呼んでくださっていましたから」
反対に翡翠さんはとても嬉しそうに微笑んだ。
そんな彼女にオレも笑顔を向け,今度こそ別れを告げ歩き出した。
***
あとがき
久しぶりの…いやもう久っしぶりの更新ですね;
こんな駄夢でも更新待ってくださっていた皆様には本当に感謝してもしきれません;!
第7夜ですよ!第七夜!!←←
いやしかしどうして久しぶりの更新が月姫かと言いますと,最近友人がMBAAをやりだしたり(家庭用&アーケード)新刊を読んだり,何かと月姫にふれていたので^^PC版も本当にやりたいです;!今はMB漫画を借りている最中なんでもしかしたらMBを追加……したいなあと…ゴニョゴニョ←←
では此処まで読んで頂き,お付き合い頂きありがとうございました!!次回の第8夜でお会いしましょう!
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