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Dream
第6夜


「終わったか真祖」

「九尾…,えぇ。終わったわ。志貴のおかげね」


彼女の能力か,志貴の体からは目立った傷は見当たらない。
死んだように眠る彼を穏やかな表情でアルクェイドは見つめた。

「そうだな。儂らの出番がなくてよかったのぉ…くっくっ」

小さく挑発的な笑みを零しながら,九尾は地面に横たわっている志貴に近づき静かにお越し軽々と抱えた,所謂お姫様抱っこ。
見た目では女が男をお姫様抱っこと少々おかしい構図だがアルクェイドはそれを気にしてはいないようで。
しかし九尾の行動の意図が読めず目を丸くした。

「ーーー?」

「なあに,リハビリがてらだ。トオノを送っていくぐらい儂に任せろ」

そう言って志貴を抱えながら踵を返す。

「…ねぇ」

「――ん?なんじゃ」

「私と…闘いたかったんじゃないの?」

九尾は動きを止める。

「……ふ,ーーー何を言っておる真祖。儂は吸血鬼退治が終わってから,と言ったはずだが……これで全てが終わったわけじゃなかろう?」


背中を向けたまま語る九尾は止めていた歩みを進め,それ以上は何も言わず夜の闇へと溶けていった。

***


「ーーー此処は…何処だ?」
目が覚め,起きてみれば見知らぬ広い部屋。確か昨日はネロとの決着をつけに公園に行って,でもオレは茂みに隠れて待機してて…そのあとは急にキサラがーーー



「…ネロとの闘いが終わってアルクェイドとキサラが何か話てたのはうっすら覚えてんだけど…。あーなんか最近こんなんばっかだな」

そういやここ何日か,自分のマンションに帰っていないと考えていれば突然扉が開き,和装に割烹着を付けた可愛らしい女の人が部屋の中へと入ってきた。

「失礼します。あ,お目覚めになりましたか?」

「はい……えっ,と貴女は…?」

「申し遅れました。わたし此処遠野家の使用人をしている琥珀といいます。以後宜しくお願いします。佑月茅夏さま」

にっこりと効果音がつきそうなほどの素敵笑顔ですらすらと自己紹介をしてくる琥珀さんという人。
とお,の家の使用人?遠野ってあの遠野だよな…。
て,ことは此処は志貴んちでこの女の人はマジで使用人…メイド?いやいやお手伝いさん,か?つうか志貴って実は金持ちのお坊っちゃんだったのかよ。


「ーーーてかなんでオレの名前…」

「覚えていませんか?茅夏さま,一度遠野家にいらっしゃったことあるんですよ」

「え…」

「小さかった時ですからね。覚えていないのも無理ありませんよ」

懐かしそうに昔を思い出しているのか目を細める彼女。本当にオレは子供の頃此処へ…

なあ,キサラ。お前は覚えるのか?

ーーー

ーーーーー

反応なしですか。
ま…,いいや。記憶なんて徐々に思い出していくもんだし,覚えてないってことはそんなに重要なーーーー

「ぃっ…」

「大丈夫ですか茅夏さま!!」

何事か。一緒とてつもない頭痛が襲い,オレは少しふらついてしまった。

「あははは…すいません,もう大丈夫です。収まりました」

「あまり無理をしないでくださいね。昨夜は志貴さんと屋敷の前で倒れていたのを見つけた時は本当に驚いたんですから」

「倒れて,た…?」

「覚えてないんですか?特に外傷は見当たりませんでしたが,茅夏さま。貴女はだいぶ衰弱していたので」


そう言いながら彼女は,洗っておきましたよ,と手にしていたご丁寧に袋に入っているオレの制服をこちらへと渡す。オレは小さく解釈してそれを受け取った。
おお!,ちゃんとクリーニングまでしてある。
早速その新品同様になった制服を着ようとオレは今着ている可愛らしい洋服へと手をかけた。


「あぁ,そのままでいいと秋葉さまが仰っていましたよ」

「え…でも。―――ん?あき,は,さま…?」

「遠野秋葉様。現遠野家当主,志貴さんの妹君です。その服は秋葉さまが茅夏さまにと。とてもお似合いですよ?」



彼女は満面の笑みで両手を胸の前で合わせ,あと敬語ではなくいつものように話して下さい,と付け足した。

そのあとは貸して貰った櫛で乱れた髪をとかし,濡れたタオルを用意してもらい顔を拭いて簡単に身だしなみを整えた。

「なんか悪いな…突然来て迷惑かけてばっかりで」

「いえいえ,お気になさらないで下さい。さて,用意もすんだことですし茅夏さま。私に着いてきて下さい」

「――?」



***


「久しぶりですね茅夏」
琥珀さんに着いていくこと数分,着いたのはこれまた広い部屋で,そこには椅子に座って黒髪の美人さんが優雅に紅茶を飲んでいた。

「ぁ…と――,秋葉…さん?」
さっき説明された志貴の妹だと察したオレはきごちなく名前を呼んだ,が彼女とオレは面識があるのか不思議そうに眉をひそめた。
どうすればいいのかオレは後ろを振り返ったが,頼みのつなの琥珀さんはたった今志貴を呼んでくると部屋を出て行ってしまった。

「ぇ,と……ごめん,此処に来たことがあるってのは琥珀さんから聞いたんだけど。その時のことがどうしても思いだせなくて…それで…」

「―――…そう,でしたか。私こそ事情を知らずにすいません。でも…,私はまたこうやって茅夏と会え嬉しいです。どうぞ私のことは秋葉と呼んで下さい」


一瞬悲しそうに顔を伏せた彼女だったが,すぐに微笑んで小さく頭を下げた。

「その服,とても似合ってますよ」

「そういえばこの服,秋葉のなんだよな。悪いな貸してもらって。でもこんなヒラヒラで可愛い服…しかもスカート」

オレには似合わねーなと言えば,彼女は立ち上がりオレの前に来ては徐に手を取り握った。

「昔に来た時も,茅夏は男の人みたいな口調で話し,格好もズボンばかりでした。最初は茅夏のこと私,男の子かと思ったんですよ」

「まあ,そう勘違いされてもしかたないな…」

昔のオレは髪もバッサリと短くしていた。
それプラスこの口調じゃそう見られたっておかしくはないだろう。
そんなことを思っていた瞬間,オレはある疑問が浮かんだ。

今の学校に入学して,そして志貴と初めてあった。でも実は遠野家とは面識があり秋葉や琥珀さんはオレのことを知っていた。
…ん?まてよ。それなら必然的にその時志貴とだって会ったことあるんじゃないか。

けど初めて教室で話した時,そんな素振り見せなかったが…。

「なあ秋葉,って……その両手に持ってるもんはなんだ?」


聞こうと思い秋葉をみれば,彼女は笑顔で俗にいうメイド服と琥珀さんが来ていたのと多分同じであろうエプロン付き和服を手にして笑顔で


「それが気に入らないのならこちらもありますが?」


「…イイエ,コレデジュウブンデス」

「そうですか。残念です,茅夏ならとても似合うと思ったんですが…」

「勘弁して秋葉サマ」

このくらいのスカートならなんとか我慢出来るが流石にそれは…。
すると秋葉から小さくクスリと笑みがこぼれた。

「冗談ですよ茅夏」


そう言って彼女は壁に掛けてある時計を一瞥し,溜め息をついた。
どうしたんだ?と声をかけようとすれば,それと同じタイミングで扉の向こうからノック音がし,開いた。

「失礼します,秋葉さま。志貴さまがお目覚めになられました」

「そう…,体調のほうは?」

「志貴さまは大丈夫だと言っていました」

「―――分かったわ」

それを聞いた秋葉はまた溜め息をつき,綺麗な顔の眉間に皺を寄せた。

「あの,話し中悪いんだけどその人は…」

一瞬,扉が開いて入ってきた時は驚いた。だってそこに立っていたのはメイド服の琥珀さんだったのだから。

「翡翠,茅夏は一部記憶を失っていて私たちのことを覚えていないの」

「――わかりました」

秋葉の言葉を察したのか,その翡翠という琥珀さんにそっくりな人はとオレに向き直り頭を下げた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。今は志貴さまのお世話をしています,翡翠と申します」
そう淡々と彼女は表情ひとつ変えずに自己紹介をしてくれた。

「茅夏,翡翠は琥珀の双子の妹なんです」

「ああ,どうりで…」

秋葉の言葉にオレは感嘆した。でも双子で容姿がそっくりでも性格は全然違うようだ。

「宜しく翡翠さん。それとごめん忘れて…」

「いえ,茅夏さまが謝ることではありませんし…それは仕方のないことですから…」

「……」

「でも…」

「――?」

「またこうやって会えて嬉しいです茅夏さま」

今まで表情ひとつ変えなかった彼女は一瞬,ふわりと笑いもう一度頭を下げた。
その言葉,先ほど秋葉にも同じことを言われた。



―――微かに,胸の奧が痛んだ。



「自己紹介はすみましたか翡翠」

「はい」

「それでは行きましょう茅夏」

スタスタと二人は扉へと歩いていく。

「―ぇ…どこに」

「兄さんの部屋です。昨日と一昨日のことを聞かなくてはいけませんからね。勿論兄さんと茅夏に」


そう笑顔で秋葉は一足先に出て行く。

結局そんなやり取りであの疑問はすっかり忘れてしまい,聞けずじまいに終わってしまった。

それよりもこの後秋葉に昨日一昨日のことをなんて話せばいいのか。

そのことばかりが頭を巡り,今度はオレが溜め息をつき,翡翠さんと秋葉に続いて扉から出た。









***
やっと遠野家の面々を出せました!キャラ崩壊も甚だしいですがorz
次で3巻に入れるよう頑張りますm(_ _;)m原作沿いfate夢と進み具合がほぼ同じペース…←←

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あきゅろす。
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