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Dream
第7話


「―――これが昨日私が調べて分かった内容の全てよ」

長々と話した遠坂は買って置いた缶コーヒーを一口飲み,何時の間にか手にしていた古い日記のような本を閉じた。




「え,とそのエイゼンシュテイン家当主アーバスのサーヴァント"セイバー"はランスロット,リベリアで…その呪いを受け継いだ子どもロゼットが佑月かもしれないって遠坂は言いたいんだよな?」

なんとか俺は先ほど聞いた話を早急に頭で整理し,大まかだが要約して遠坂を窺う。

「ええ,当てはまるところも多くあるし,現に佑月智香がその七騎のサーヴァントの血を欲しがっているというとこにも符合するわ。それにあの子が昨日手にしていた武器,セイバーが言ってたんでしょ?ランスロットの剣だって」

それは昨日セイバーが鍛錬の休憩中,俺に告げた真実。
何故遠坂がそのことを既に知っているかというと,それは昨日調べると言ってくれた彼女にオレが直ぐ連絡をいれたからだ。


「―――ああ。確か…,アロンダイトって」

「アロンダイト…,ね。決して刃こぼれしなかったとされる優秀な剣王の剣。アーサー王のエクスカリバーと兄弟剣とも言われてた名剣。セイバーが云うんだから間違いない,あれが彼女の宝具よ」

「宝具って…,遠坂。いくら佑月が人間とサーヴァントの間にできた奇跡の子供だとしても…宝具まで扱えるものなのか?」


「さぁ,その不老不死の呪いっていうのが一体どんな原理なのか良くわからないけど…恐らくあの子は呪いと記憶,そしてアーバスとランスロット二人の能力を受け継いでいるのよ。だからランスロットの宝具アロンダイトも使えるんじゃないのかしら」

「―――佑月…,その呪いは聖杯じゃ治せないって。―――遠坂,その,さっきの話の中で出てきた二つの解呪以外の方法はないのか?」

「…そんなこと突然言われても―――でも,そうなると厄介なのがまたひとつ増えたわね。いくら聖杯に興味が無くても,あっちがサーヴァントを狙ってくるんじゃおちおちこっちも聖杯戦争なんてやってられないわよ」

「…なら,佑月を説得して―――」

「それこそありえないわね。だって私たちと彼女じゃ利害が一致しないもの」

「でも…佑月は言ってくれた。



―――それでもまたぼくに会いたいっていうなら,此処に来て。


なあ,遠坂。まだ話し合いの余地はあると思うだ」

自分でも馬鹿なことを言っているのは十分わかっている。
でもどうしてもあの時の,もう全てに諦めきたような佑月の顔が忘れられないんだ。

「―――…はぁ,どうせ止めても貴方は行くんでしょ。でもね士郎。次行く時は必ずセイバーを同行させなさい。昨日みたいに無事に帰ってこれるなんて思わないことね」



「――?それってどういう意味だよ遠坂」

「あの子はそんな悠長にまっててはくれないってこと。今朝ね,私のところに綺礼から電話がかかってきたのよ。…衛宮くん確か慎二とは同じクラスよね。彼,今日学校来てた?」

遠坂の問いに俺は今朝藤ねぇが欠席者のところで慎二と佑月の名前を口にしていたのを思い出した。

「…そういえば慎二のやつ,今日は来てなかったな」

「やっぱりね。彼なら今頃市内の病院に入院してるわよ。綺礼の話では昨日の夜,教会前で倒れてたらしいの」

「なんだって…?遠坂,それどういうことだよ。慎二は大丈夫なのか?」


「えぇ,外傷はあったけど,どれも急所は外されてたらしいわ。でもその時には慎二,彼は既にマスターとしての資格を失っていたんですって」

「確か,慎二のサーヴァントはライダー。ライダーは消えたってことか…,でもなんでそんなこと言峰が」

「さあ,昔の誼か知らないけど…。その時電話で綺礼も言ってたわ。今回の聖杯戦争には異物が混入してるって」

「異物…」

「あの子,本当にサーヴァントだけ狙ってるのね。無差別ってわけじゃなさそうだけど…。それは佑月智香元からの性質なのか,それともランスロットかアーバスの影響を受けているからか…」

一瞬苦しそうに目を細め俯いた遠坂だが,すぐに顔を上げ深刻な表情で俺を見た。

「―――話を戻すけど,私が言いたいことはあの子はもう待ってはくれないってこと。今はサーヴァントだけを狙ってるようだけどそれも何時まで続くか…。士郎が佑月智香と話たいのは勝手よ。でもそれに需要があるかってこと。本当ならそんな話し合いなんてするよりも,どうやってあの子を止めるか考えるべきなんだけど。衛宮くんはそれじゃ納得しないでしょう?いいわよ,私も付き合うわ。協力関係になったものの直ぐにやられちゃこっちだっていい気しないんだから」

俺に背を向けた彼女はぶっきらぼうにそう言って,屋上から出て行った。



***

青白い月明かりの下,一人の少女は佇む。その目線の先には和装に身をつつんだサーヴァント,アサシンが石段の上段に同く佇んでいた。

「娘,こんな時間に何用だ?」

「―――」

しかし少女はアサシンの問いに答えることはなく,手にしていた剣に魔力を込め構えた。

「それはっ……貴様,サーヴァントか」

「…さぁ?いいじゃない,そんなこと。どうせお前はここで消えるんだ」

「ふっ,面白いことを言う。―――いいだろう。この山門を通りたくばアサシンのサーヴァント。佐々木小次郎,受けて立つ」

恐らく真名であろう己が名を口にした彼は長刀を抜く。
しかしそれと同時に少女,佑月智香は勢い良く石段を駆け上がった。


「―――っ!!」

「ばいばいアサシン」


一瞬だった,確かに少女は一番下の石段にいたはずなのに。おかしい。目の錯覚でなければ少女は一度消え次にはアサシンの眼前に転移し,その宝具であろう剣を振りかぶっていた。
一瞬の空間転移。
こんなこと出来るサーヴァントは一人しか思い浮かばない。
だがそれではおかしいのだ。
何故か,そのサーヴァントというのは今まさにアサシンが守っていた山門の中にいるのだから。











「あとはキャスター――…ッ」

剣に付いた先ほどのサーヴァントの血を嘗めとり,それを体内に取り込む。
しかしそれとは関係なく微かだが全身に痛みが走った。先ほどの空間転移のせいか。魔術を使ったため痛みに顔を歪めるが,頭は驚くほど冷静に自分を見ていた。




痛みが引き始めたと同時に,横目で消え逝くサーヴァントを一瞥して私は,柳洞寺へ足を踏み入れた。


***

「こんばんはキャスター」

境内の中に入っていけば中央に紫色のローブを深く被る女,キャスターが表情は窺えないが明らかに怒りで顔を歪め此方に殺気を放っていた。

「全く…アサシンも役にたたないわね。――それで,貴女何者?セイバー…じゃないわよね。私が知っているセイバーは貴女じゃないもの」

「ん〜,セイバーっていうのはあながち間違ってはいないかな。昔はそう呼ばれてたっぽいしけど」

「――?」

「まあ…そんなのはどうでもいいだよ。ぼくは聖杯にも興味無いしね,うん。あるのはサーヴァントの血」

それを聞いたキャスターは益々わけがわからないとローブの下にある顔が訝しげに眉をひそめた。

「殺す前にひとつ聞きたいんだけど…キャスター,貴女はメディアっていうギリシャ神話の裏切りの魔女を知っている?」

突然何を言うのかこの娘,こうも己が真名を平然と言い合ってられ動揺を隠せないキャスターは一歩後退する。


「――っ…知ってたら,なんだっていうのよ」

「彼女の宝具,裏切りの魔女である自身の象徴が具現化した、あらゆる魔術による生成物を初期化する短剣である対魔術宝具"破戒すべき全ての符"(ルールブレイカー)。それに興味があって。もし貴女がそのメディアだったら―――このぼくにその宝具を使って欲しいなあ〜…て」

「使って欲しい,って貴女…何を言ってるかわかってるの?」

「勿論!大丈夫だよキャスター,それを受けたってぼくは令呪を無くすっていう心配はない,。だって元からマスターなんていないからね。ぼくはある呪いを解きたくてサーヴァントを殺している」

マスターが,いない?そんな,この娘はサーヴァントではないというのか…否あの手にしている剣は明らかに宝具。マスターなしで現界なんてありえない。しかし妙なことにこの娘,サーヴァントの気配と一緒に人間の気配も混じっている。
呪いとも言っているが,聖杯に興味は無い…聖杯でも解呪できない呪術なんて一体――。

「メディア取引しよ?貴女の宝具でぼくの呪いを解いてくれたら見逃してあげる。…そうだな,万が一解けなくても貴女だけは見逃してあげる。ね?どう。貴女にも悪い話じゃないでしょ」


「そんなこと誰が信じっ――?!」

「聡明な貴女なら分かるはず,どう足掻いたって貴女じゃ私には適わない。今すぐ消えたいんなら…別だけど」

彼女言うことは正しい。魔術が主な攻撃手段となる自身,キャスターは全サーヴァント中最弱とも言われるほど。
有無を言わせないなんとも冷たい微笑を浮かべるその娘に,キャスターは無意識に頷いていた。


「……わかったわ」


そうキャスターがかえせば,謎の少女は満足そうに瞳を閉じ,己が身体をキャスターに委ね今か今かとその宝具を待っていた。

いくわよ,と一言呟いたキャスターは最初に数回呪文めいた何かを詠唱し,次の瞬間己が宝具の名を叫んだ。

「"破戒すべき全ての符"(ルールブレイカー)!!」

キャスターは少女の胸にその歪な短剣を音もなく刺した。
はずだった,手元を見れば先ほど握っていた宝具なく勿論娘にも刺さっておらず,それは遥か後方に弾かれていたのだ。



「やっばり…」

「―――ぇ?」

何が起きたのか,キャスターは理解できたかった。
見れば少女の悲しみに満ちた呟きとともに自分の額に突き刺さる少女の宝具であろう剣。

しかしその現状も理解出来ぬまま,既にキャスターは絶命しその場に崩れ落ちていた。

唯一わかることと言えば,少女は最初からキャスターを見逃すきなんて毛頭もなかったということだけだった。


「ありがとうキャスター。やっぱり駄目なんだ…」

優しい声色で謝罪の言葉を告げ,貫かれたキャスターの頭から流れでる血を掬い口に運びながらゆっくりと柄を握り剣を引き抜いた。

最後に少女は身体の殆どが消えかかっている魔女を見下しながら感情のない声で


「でも魔女が簡単に他人を信じちゃ駄目でしょ?」


そう一言残し,その少女は闇へと溶けいった。



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