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Dream
第6話



***


冬木の地の聖杯戦争は、聖杯によって選ばれた七人のマスターがサーヴァントと呼ばれる聖杯戦争のための使い魔を使役して戦いあうといった、他の聖杯戦争にはない独特な形をとる。
聖杯同様、冬木の地の聖杯戦争は実は失われた第三魔法の再現のための儀式である。一連の儀式は200年前、アインツベルンらの思惑から協力して始まった。儀式の成功にマスターが戦い合う必要はなく、召喚された七騎のサーヴァントの魂を全て「器」に注いでしまえばそれでよいのだが、儀式を始めた者たちの間で完成した聖杯の権利を独占するために殺し合いが始まってしまい失敗した。二回目の儀式から円滑に殺し合いが進むように現在の「聖杯戦争」を模した形となった。

しかし第三次聖杯戦争からエイゼンシュテイン家は聖杯戦争に参加しなくなった。不審に思い調べに行った人間の話では,エイゼンシュテイン家の屋敷は真っ赤な血の海,生きている者はいなかった,屋敷内には無惨な死体しか存在しなかったと云う。それからエイゼンシュテイン家は滅んだとされ,三家は特に気にすることなく今まで通り聖杯戦争を続けた。



しかしトオサカだけはそれを疑問に思い,このエイゼンシュテイン家について調べ始めた。調べた結果,唯一生き残っていたエイゼンシュテイン家の侍女を探し出すことに成功した。
聞けば,侍女はゆっくりと屋敷で起きた事を全て語ってくれた。

***
事の起こりは第二次聖杯戦争まで遡る。
エイゼンシュテイン家の若き当主アーバス・ダープ・エイゼンシュテインはサーヴァント,セイバーを召喚し令呪を授かった。
最もバランスが良く優秀と謳われるサーヴァント「セイバー」のクラスを召喚したことにエイゼンシュテイン家は勝利を確信し沸いた。その通り,セイバーは聖杯戦争を順調に勝ち進めていった。しかし,気が付けば,当主アーバスとセイバーは恋仲になっていたのだ。
許されぬ恋と分かっていながら,アーバスはセイバーと平穏に暮らしたいと願うようになったていた。
だがそれを知ったアーバスの両親,元いエイゼンシュテイン家の者達は勿論反対した。
そんなくだらない願いに聖杯を使えない,目を覚ませと,しかし何度アーバスに言ったところで彼は聞き入れなかった。

何を言って無駄だと分かったエイゼンシュテイン家はある決心をした。

ある日アーバスの外出中,セイバーに催眠薬の入った食事をだし眠らせ地下に運んだ。
エイゼンシュテイン家は元々呪術,呪いなどの魔術に長けていた家系だった。
エイゼンシュテイン家はセイバーがいなくなればアーバスも目を覚ますと思いセイバーを醜い自我のない獣の姿に変えた。

数時間後,外出から帰ってきたアーバスはセイバーが何処にもいないことを不信に思い,屋敷中を探した。
しかし彼女は何処にもいない,最後にアーバスは屋敷の地下へと向かった。

そこには醜い獣が一匹,しかし…その獣の首には,セイバーに贈ったはずのネックレスが。

アーバスは己の目を疑った,だが両親はアーバスに全てを話した。
しかしアーバスは聞いても納得せず激怒した。両親達はそれを見て呆れ落胆し,アーバスにも呪いをかけた。エイゼンシュテイン家に伝わる禁忌の呪い


死ねない身体…不老不死の呪いを―――。




呪いを解く方法は二つ。


聖杯戦争に参加しているサーヴァント全てを殺し,その血を体内に取り込むこと。


二つ目は,自分の子供に呪い・記憶・魔術刻印全てを受け継がせること。



しかしアーバスは殺せなかった。
愛するセイバーを,どんな醜い姿になってしまっても―――。



***


そのあとアーバスは怒りに我を忘れ屋敷内の全ての人間を殺し尽くした。

全身が返り血で真っ赤になるまで。





―――ただ一緒に居たかった…それだけなのに!!!


アーバスの言葉は虚しく屋敷内に響いた。


ガタっ

―――…?

その時だ,ある部屋のクローゼットから物音がした。

それをアーバスは静かに開ける。

―――メルラン…?

そこにいたのは,唯一自分とセイバーの恋仲を純粋に応援してくれていた侍女メルランだった。その彼女は何かを抱え,泣きながら震えていた。

―――っ…すっ…いま,せんっアーバ,スさま…っ。わたっ,し…―――セイバーさまがっ……

―――もう…良いメルラン…

嗚咽まじりに話す彼女に,赤く汚れた手でアーバスはあやすように,優しくメルランの頬を撫でた。

―――アーバスさま…この,子を…

―――この赤子,は…?

―――貴方とセイバーさまの子供ですよ

渡された赤子はなんとアーバスとセイバーの子供。有り得ない奇跡というなの必然が最期に起きたことを喜ぶべきか悲しむべきなのか。


抱いてあげてくださいとメルランはアーバスに促すが,彼はその赤子を抱かず額に一瞬だけ触れ,酷く哀しげに


―――すまない……。もう,これしかないんだよ…,全て受け取ってくれ

その赤子は光に包まれ,一瞬全身に魔術刻印が浮かび上がり消えた。

彼は我が子に全てを託す,いや全てを押し付けるといった方法を選んだ。


―――アーバス…さ,ま?


―――メルラン。この子,ロゼットを頼む。俺は…リベリアといかなくてはならない





アーバスは立ち上がり,血濡れのままメルランの前から去っていった。

あとから聞いた話だが,近くの湖でアーバスらしき男と醜い獣が見つかったという。



***


「それから侍女メルランはその街を去り,遠い異国でそのロゼットという赤ん坊を大事に本当の我が子のように惜しみない愛情を注ぎ育てた。でもロゼットの十六歳の誕生日,忽然と彼女は姿を消した。それから数十年,メルランがロゼットと再開したのはメルランが床に臥せ最期の夜を迎えた時だった。最期にまた会えた喜びと同時にメルランは驚いた,彼女ロゼットは久しぶりに会ったというのに…変わっていなかったのよ」


「変わっていなかった…?」

「そう,彼女は出て行った十六歳を迎えたあの日から変わらず同じ姿でそこに立いる。悲しいことに彼女の時間は進んでいなかった。







―――ロゼット,さま…

―――今までありがとうメルラン。こんな化け物を育ててくれて

―――そんなっ…ばけも,のだなんて…

―――ううん,ボクは化け物だ。老いて死ぬこともできず人間でもサーヴァントでもないバケモノ…

―――アーバスさま,と…セイバーさま…を恨まな…でくださ,い

―――メルランは優しいね。ボクは貴女の普通の幸せすら奪ったんだよ?

―――わ,たしは…最期までアーバスさま…ロゼットさまに,エイゼンシュテイン家に御仕えるす…ることができ,ました。わたしは…それだけで幸せです

―――バカだな君は…でも嬉しいよ。ねえメルラン。ボクはこの呪いを解く。聖杯戦争に行ってくるね


―――御気お付けて…ロゼット,さ…ま






その数分後,メルランは眠るように息を引き取った。

そしてロゼット・ダープ・エイゼンシュテインの消息を知る者は,いなくなった。





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