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Dream
第5夜


「新入りはどうした?」

「今,下に降りて吐いてます。最初さっきのトイレに駆け込んだんスけどあそこも…アレでしょ」

「まったく…現場汚しやがって」

「でも班長。…何だと思います?」

「坂田,前に言っただろ。俺たちは―――「ハイハイ
『鑑識の仕事は…』ってヤツっスね。わかってますよ」




…確かに

こんな現場は初めてだ

仕事でなければ何が起きたかなんて検証したくもない

だが一つ言える事は―――









何時間か前までここは地獄だったって事だ








***


《貴様っ,堕ちたか真祖!!》



誰だ―――

あれは―――
小さい…お,れ…?

いや力を使っている時だからキサラか
懐かしいな
昔みんなで住んでた屋敷だ


《猶玄も血迷いよったな…,だから真祖を近くに置いておくのは嫌だったのだ》

オレの中にいるキサラが小さく舌打ちをする
ゆ…げん…
父さんの名前
でもあの目の前にいる女は,誰だっけ―――

辺りを見回せば死体の山

みんなどれも見たことのあ,る


《此処で貴様を始末する》


気付いた時にはオレの右腕はその女の胸を貫いていた





***


「―――っ…ん…,…」

「起きたわよ志貴!」

まだ重い目蓋をこじ開ければまた,先日と同じように見知らぬ天井…とアルクェイドのドアップが目の前にあった。

「良かった…目が覚めたんだね佑月さん」

「遠野,こ…こは?」

ベッドから体を起こせばやはり見知らぬ部屋。
そういえば…昨日は―――


「なあ…昨日のあの変な男はどうなったんだ?」

「今のところは大丈夫。あの場は貴女と九尾のおかげで切り抜けたから」


ありがとう,と笑みを浮かべるアルクェイド。
しかし遠野はあまり良い顔をしていなかった。

「そ…か」

「でも安心はできないわ。それに…,ヤツは間違いなく今夜来る」

断言する彼女に志貴の顔はさらにこわばる。
オレはベッドから出ようとしたが,うまくバランスを取れず倒れそうになったオレはまたベッドに逆戻り。
昨日のが相当こたえたのかな。

「昨日ヤツに見つかっちゃったでしょ?今もここはネロの使い魔たちに監視されているはずよ。見つかった以上は夜になれば必ず襲ってくる」


「―――オレは何か手伝える?」

「志貴はわたしがネロを引きつけている間に致命的な一撃を与える。 茅夏にも最初に話したわよね,志貴にはモノの死が視えるって」


「ああ,ちょく,しの魔眼?だっけ」

「そう。だから志貴に殺せないモノはない,ネロも例外じゃないわ。…そして茅夏,貴女にも協力して欲しかったんだけど…まだ本調子じゃないでしょ?だから貴女には待機しててもらいたいの。万が一の時に備えて,ね」

彼女はまるで,面白い悪戯でも思いついたかのように不敵な笑みを浮かべた。

***




数時間が経ち,アルクェイドは一足先にネロ・カオスをおびき寄せるため,公園へと向かって行った。
残ったのはオレと遠野。



「あの,佑月さん」

「茅夏でいいよ」

「…え?」

「だから,茅夏でいいって。オレも志貴って呼ぶからさ。な?いいだろ」


今まで暗い顔した彼の顔が少し明るくなったと思うのはオレの気のせいか。
納得してくれた志貴は,小さく頷いてくれた。

「わかった。え…と,早速なんだけど茅夏。聞きたいことがあるんだ」

「―――?別にいいけど…なんだよ」


聞けばすぐには言わない志貴。何度か躊躇ってから,彼はやっと決心がついたのか口を開いた。


「一昨日,茅夏と掃除当番でゴミ捨てに行っただろ?」
「…ああ,オレがじゃんけんで負けて志貴に手伝ってもらったっけ。あの時はマジで助かったよ,ありがとう」

その時を思い出し,志貴に感謝の言葉を言えば彼の頬が一瞬うっすらと赤くなる。しかし,すぐに彼の顔はまた曇ってしまった。

「あ,うん…,―――でもその時俺茅夏を置いて先に帰っただろ?」

「そういえばそうだったな…。具合でも悪かったのか?だったら手伝わせてご―――」

「違うんだ」

言葉を遮り,俯いていた志貴は突然オレを真剣な眼差しで見つめてきた。

「あの時俺,眼鏡落としただろ。実は俺目なんか悪くないんだよ」

「…?それじゃなんで眼鏡なんか」

疑惑の眼差しで彼を見つめれば,今まで椅子に座っていた志貴は静かに立ち上がり眼鏡を外した。


「俺の目はモノの死が見える直視の魔眼。例えばこの椅子。眼鏡を外して見ると,俺には無数の死の線が見えて…そこを沿って切るとそのモノは死ぬ。その線を一時的に見せなくするのがこの眼鏡なんだけど。あの時眼鏡をしてないオレは,茅夏を見たんだ。普通なら死の線が視えるはずなのに…,何故か線が―――見えなかった。今でそんなことなかった。いやありえないんだ視えないなんてことは…………,茅夏一体どういうことなんだ?」

だからあの時志貴は血相変えて逃げるように走り去って行ったのか。

「……それ多分,オレんちの体質なんだと思う」

「―――体質?」

「体質というか…,詳しくはオレも知らないんだけど。小さい頃に父さんとキサラに聞いたことがあるんだよ。佑月家は昔から退魔師って仕事をやってたらしくて,その頭首になる人間には生まれつきそういう直視の魔眼とかそういう呪い?や魔術の類は無効化できるのとキサラという九尾が体の中にいるんだって。
―――まあ………もっと詳しいこと聞く前に父さんたちは死んじゃったんだけどね…」


「え…?」

「…ううん!なんでもない。
あっ。ほら志貴,時間だ。オレたちも行こうぜ」

最後の言葉を聞き取れなかった彼から視線を外し,時計をみれば丁度打ち合わせしておいた通りの時間で。

オレたちは部屋を後にし,決着をつけるべくアルクェイドのいる公園へと向かった。

***


《なあキサラ…ホントにオレたちこんなとこにいていいのかよ?》


公園に着き数分,予定した通りネロ・カオスはやってきた。戦闘を開始したアルクェイドに続き先ほど志貴も戦闘に加わっていった。
オレは言われた通り茂みの陰で待機。
しかし万が一ということもあるので既にオレはキサラに表へと出てもらっていた。

「ふん,儂たちが今でてどうなるというのだ。…まだ体が本調子でないお前が出ても,あやつらの足手まといだ」

《けど…》

淡々というキサラ,だが彼が言っていることは事実で反論できない。
再度アルクェイドたちに視線を向けるが,明らかに苦戦している二人が目に映る。

「……,茅夏よ。来客だ,しばし寝ておれ」


後ろから人の気配がしたと思えば,突然視界がぼやけ段々と目の前が暗くなる。

辛うじて最後視界に入ったモノは,どこかで見たことのあるアオだった――――












「こんばんは。九尾,良い夜ですね」


強制的に主導権を奪い,茅夏からこちらとの会話や景色を完璧に遮断した。
茂みから静かに出てきたのは昨日,あのホテルの上にいた女。にこりと微笑みながらこちらへと歩み寄ってきた。

「やはり来よったか協会の埋葬機関。いや,貴様のことは元ミハエル・ロア・バルダミムヨォンと呼ぶべきか…」

その忌まわしい名を口にすれば先ほどの笑みは消え,瞬時に周りの空気を殺気へと変えた。

「―――まったく…,どこまで知っているのか。貴方こそ,佑月家はとっくに滅んだと聞いていたはずなんですけど。それに,今は真祖と手を組み吸血鬼退治ですか。九尾は殺したいほど真祖を憎んでいると噂では聞いていたのですが,こちらもとんだデマだったみたいですね」

「くっ…,はははははははは!!」

「っ―――。何がおかしいんですか」


「いやぁ,協会の情報もまだまだよのぉと思って。よく聞け若造,この儂が生きている限り佑月は未来永劫不滅。まあ,真祖と手を組んでいる…ということは否定せん。だが殺したいほど憎んでいる,ということは間違ってはないが」

「なら何故手を組むのです!貴方がロアを倒したところで得るものなど何もないはず」

「…なあに,ちょっとした気紛れよ」

「佑月家の敵討ち,ですか?」

「まさか!…仇討ちなど,ただの自我(エゴ)にすぎんわ。あの真祖をやったところで…何も帰ってはこん。それにあの事件を引き起こしたのはこちらにも責任はあるからのぉ」

自分では自嘲ぎみに笑みを浮かべたつもりだったが,そんな儂を見た協会のオンナは酷く驚いた顔をする。

「貴方…本当にあの九尾,ですか?人ならざるモノたちの最高峰と謳われた貴方でもそんな人間らしい顔をするのですね」

「何,少し永く居すぎただけじゃよ」

一体先ほどの自分の表情はどんなものだったのか。
そっと,柔らかい頬に触れてみるがそんなことで表情なんてわかるわずもなく。

初代佑月家の頭首と契約して早数年。
幾度となく頭首と成りうる人間の腹の中に住み続け力を貸してきた。


不意に天を仰げば,いつもとなんら変わらない幾つもの光が散りばめられた漆黒の闇がそこにいた。
変わったといえば,時代や人だけだと思っていたが……


















「ふむ,どうやら彼方も決着が着いたようだ」

意識を集中し周りを探ればネロの気配は消え,聞こえるのはトオノシキと真祖の会話。双方とも無事のようだ。

「そのようですね」

横目で伺えば,協会のオンナは鋭い眼光でトオノ達を見つめている。

「シエルとやら。先ほど何故儂が真祖に力添えしているのか聞いたが,勿論佑月家のこともある。しかし今回の事件,どうもトオノが絡んでいるように思えてなぁ」

「それはどういう――」

「さて,話は此処までだ。儂もそろそろ行かなくては。また逢おうぞ…エレイシア」


オンナの言葉を遮り止まっていた足を動かす。
まだ後ろでゴチャゴチャ何かを言っていたが,儂はそれを無視して茂みを抜けトオノ達のもとへ向かった。

***



何事もなかったかのように去って行った九尾。
佑月家という退魔師の代々頭首に憑きその体を使って力を貸す妖(アヤカシ)。
学校で会った佑月茅夏。あの子が最後の生き残りと言うわけか。

しかし,情報や噂で色々と聞いていたがどうも想像していた九尾とはだいぶ違っていて思わず毒気を抜かれた。

生き物を殺すことなど躊躇しない,残虐で無慈悲な化け物。
人をも喰らうと書いてある書物もあった。

なのに,先ほどのような憂いを帯びた人間らしい顔をするなんて…

化け物があんな表情ができるだろうか?


全く…それを懐柔した佑月家も一体何ものなのか―――




「ロア,真祖,遠野志貴……そして佑月,茅夏。はあ…まだまだ問題は山積みのようですね」















あとがき

茅夏ちゃん出番ねぇvv戦闘になると自然とキサラが出番っちゃんだよなあ…orz
でも次は秋葉たちと絡ませます(^w^)!!←がんばっ
3巻の夢魔ネタはどうしようかな‐ω‐)←

ではまた次の話でm(_ _)m

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あきゅろす。
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