薄桜鬼小説
【学パロ】グッド・モーニング・コール(沖田×千鶴)09.08.31
※随想録の学パロ設定とは若干違ってます。全員学生設定です(薄桜鬼発売時に書いていた物に手を加えて完成させたものなので。。。)

それでもOKという方はどうぞ!!





 先週まで続いていた雨がまるで嘘の様に晴れわたると、やはり朝から気持ちがいいな、と千鶴は鏡の前で最後の髪型チェックを終え、足元に置いてあった鞄を手に取る。

「薫ー、先に行くねー」

千鶴は玄関で靴をとんとんとさせながら廊下の奥へと声をかける。
別段一緒に行かなくてはならない用事もなく、かつ、自分には寄らなければならない場所もある為、別に構わないかと千鶴は思わなくも無かったのだが、一度声をかけずに出かけたら薫がごねたため、毎朝一応誘うことにしているのだ。

「俺も行く」

洗面所から飛び出すように走り来ると、薫は不機嫌そうな声でそう言い、ネクタイを締めながらスニーカーに足を通し、もう既に外で待機する千鶴に小走りで駆け寄る。

「別にゆっくり来てもよかったのに」

授業の開始時刻には十分に余裕がある。寝坊したから時間がない、と直りきらぬ寝癖を気にするのなら後からくればよかったのに、と千鶴は仏頂面の薫をちらりと盗み見ながら胸中で溜息を吐いた。

「……今日も行くのか?」

千鶴のぼやきには答えずに薫は忌々しそうにそう言いながら、しかしその足は千鶴の後を追い、自分達の通う学び舎とは反対方向へと歩みを進める。
本来であれば断固阻止して学校へ向かわせたいものだったが、千鶴が一度決めた事を曲げる性格ではないことをよく知っている薫は、不本意ながら、せめてもの抵抗として毎朝同行する事で自分自身に妥協したのだ。

「だって、そうしないと先輩学校に来ないから」

まるでそうする事が当たり前の様な口調で千鶴は薫に向け言うと、とっくに顔馴染みとなってしまった寮母に挨拶の声をかけ、目的の部屋へと迷わず廊下を進む。

「別に来なくてもおまえは困らないだろ?」

薫は千鶴に聞こえないように吐き捨てると、それでも渋々千鶴の後を追い寮の扉をくぐった。

「沖田先輩、起きてくださいっ」

ドンドンドン、と千鶴はいつものように総司の部屋の扉を数回叩く。これで本当に起きるのだろうか?といつも疑問ではあったが、なんだか部屋の中まで踏み入れるのは躊躇われてこのやり方を貫いているのだ。だが、大抵毎朝これを合図に総司本人が起きてくるので、まあ効果はあるのだろうな、と続けている。

「おっ、千鶴ちゃん、おはようっ」

「あ、永倉先輩。おはようございます」

起こしてしまったのだろうか?と千鶴はちょうど隣の部屋から出てきた新八に危惧したが、既に制服を着込んでいるところを見ると、そうでもないのかな、とそっと胸を撫で下ろす。
物凄く早い時間ではないが、毎日深夜に帰ってきているという噂の新八を自分の都合で起こしてしまうのは申し訳なさすぎるな、と少し心配したのだ。

「いいよなー、総司は毎朝千鶴ちゃんみたいな可愛い子に起こしてもらえてっ!ああ、俺も起こして欲しいぜーっ」

「え?そんな……」

起きた反応のない総司を、心配気に中の様子を伺うように小窓から覗こうとしていた千鶴の耳に、可愛い、と自分を褒める新八の言葉が飛び込んできて、千鶴は思わず少し照れた。
千鶴が返す言葉に詰まり顔を赤くしていると、

「ほんとだよなあ。なあ、俺のとこにも起こしに来てくれねえか?」

同じく制服に身を包んだ左之助が新八の後ろの扉から現れると、挨拶と共にそう言って微笑んだ。

「ちょ、何言ってんだよ、左之っ!!おまえは起こしてもらおうと思えば選り取りみどりだろうがっ!!」

贅沢を言うなっ、と吠える新八を、マジになんなよ、と左之助は両手で制すると、

「ぁ?あー……まあ、それとこれとは別だろ?」

なあ?と左之助に同意を促されて、千鶴は、ははは、と曖昧に笑った。

(でも、確かに……)

あれだけ人気のある左之助の事だ、起こしに来たい女生徒は星の数ほどいるのだろうな、と千鶴は新八の意見に妙に納得してしまった。左之助のファンだという女生徒の声を両手では足りないほど聞いたなあ、と千鶴はぼんやりと考えていた為、ガチャリと鍵の開けられる音をつい聞き逃した。

「朝から煩いなあ……せっかく寝てたのに、起きちゃったじゃない」

「沖田先輩っ?!」

新八達に気をとられていたせいか、千鶴は背後で扉が開いたことに全く気づかず、まだ眠そうな総司の声に弾かれるように振り向いた。
総司はといえば、寝起きだということが一目で分かるように、元々猫っ毛の髪がぴょんぴょんとあちらこちらに向けてはねており、本人もまだ眠そうに一つ欠伸を噛み殺した。

「それに」

と、総司は一旦言葉を切って千鶴を一瞥すると、面白そうに微笑んで新八と左之助へと視線を移す。

「彼女は僕のなんですから、新八さん達のとこに起こしにいくわけないじゃないですか」

と、千鶴の肩にゆるりと手をかけ抱き寄せた。

「!!……え、あ、あのっ」

突然の事態に千鶴が顔を真っ赤にして一人パニックになりしどろもどろに言葉を捜していると、新八と左之助が呆れたように宙を仰ぎ、どちらからともなく深い溜息を落とす。

「んなこたわかってるよ」

「あーあ、俺も早く彼女作るかなあ」

二人は口々にそう言うと、おまえのせいで千鶴ちゃんを遅刻させるなよ、と総司に念を押して、総司の惚気で場が白けたと言わんばかりにその場を後にした。

「おはよう、千鶴ちゃん」

まだ千鶴を腕の中に入れたまま総司が思い出したように挨拶をすると、

「おまえは一人で勝手に起きろよ、沖田」

と、千鶴が答えるより早く、千鶴の横から物凄く低い声で薫が唸った。

「あれ?薫もいたんだ。小さすぎて見えなかったよ」

ごめんごめん、と、もちろん最初からその場に薫がいた事に気づいていたくせに、総司はあたかも今気づいたように笑いながら薫に視線を返した。

「へえ。やっぱりデカイと脳細胞の作りも単純なのか?普段も鈍い脳が朝だと余計に働かないんだな」

ふん、と鼻で笑って、薫も引かずに皮肉を交えて笑ってみせる。
両者の間に見えない炎の火花が散ったのを感じた気がして、挟まれた千鶴は、はあと気づかれないように小さく息を吐いた。

(どうしてこの二人っていつもこうなんだろう)

別に二人に特別仲良くして欲しいとは願ってはいない。ただ、自分の恋人と実の兄が、こうも毎日いがみ合うような立場にいられては、間に立たされる自分の立場が複雑で困るのだ。
せめて人並みに接してくれればいいのになあ、と千鶴がぼんやりと思っていると、ふと自分の肩にかかる重みを思い出した。

(そ、それにしても、いつになったら離してくれるんだろう……)

お互い言葉を交さずに冷戦を続ける二人に挟まれ、千鶴は自分の肩にかかる沖田の腕を意識してちらりとそちらへ視線を移す。
総司はどちらかというとスキンシップの激しい方で、肩に腕を回される事にはようやく慣れた所ではあったのだが、ただ今日は、本当に寝起きであっただろう彼の、寝起き特有の熱が薄いTシャツ越しに伝わり、なんとなく心臓の辺りをざわつかせる。

(い、意識したらダメだからっ)

千鶴は自分の顔に熱が集まり始めたのを察知して、その考えを振り払うように小さく頭を振ると、自分の顔を隠すように慌てて俯いた。
総司はそんな千鶴の様子に気づいたのか、ん?と視線を千鶴へと落とすと、何かを思い出したように口を開く。

「ああそうだ千鶴ちゃん」

「え?」

なぜか芝居がかった総司の口調が気になって、千鶴が釣られるように顔を上げると、総司は一度にこりと千鶴に向けて微笑むと、空いていたもう片方の手で傍らにいた薫の頭を掴み、ぐいっと捻り自分達とは真逆の方へと向けさせた。

「沖田っ!!何すんだよっ!!」

「せんぱっ……?!」

一体何が起きているのかと驚きで目をぱちくりとする千鶴に総司はもう一度にっこりと微笑むと、

「起こしてくれて、ありがとね」

と、千鶴の頬に触れる程度の口づけを落とした。

「!!!!!!!!!」

千鶴が反射的に総司の唇が触れた場所に手を添えると同時に、総司は薫の頭を押さえていた手を解いた。瞬時に顔を赤くさせた千鶴を、総司はいつものような悪戯っぽい顔で見返すと、

「じゃあ僕支度してくるね」

とだけ言い残して、パタンと自室の扉を閉めた。

「千鶴っ!!あいつに変な事されなかったかっ?!」

総司の手から解放された薫が、敵を逃した事に腹立たしそうに総司の部屋の扉を一度睨んだが、その前に呆然と立ち尽くす千鶴に気づき薫は慌てて千鶴の顔を覗き込む。

「だ、大丈夫っ。別に、変な事はされてないから」

顔の前で数回手を振って否定をしてみせると、千鶴は実の兄と目を合わせるのがなんとなく気まずくて、返事もそぞろに俯いた。

(へ、変な事は、されてないよね?)

先ほど総司の唇が触れた部分が、熱を持ったように熱い。
千鶴は思わずその感触を思い出して、身体中の血がまるで沸騰したかの様に一気に全身が熱くなるのを感じて、思わず両手で頬を押さえる。

「千鶴っ?!ほんとに何もされてないんだなっ?!」

様子のおかしい千鶴を気遣うような薫の言葉に、千鶴はこくこくと頭だけ振って答えると、真っ赤になっているであろう自分の顔を見られないように、ふいと顔を反対に向ける。

(は、はやく出てきてくださいっ、沖田先輩っ!!)


薫と二人の空間が気まずくて、でも総司が出てきたらもっと心臓が煩くなるのだろうか?と、
付き合い始めてから一度たりとて心臓が休まる事を知らない、総司とのある朝の出来事。




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