薄桜鬼小説
過去拍手お礼2(原田×千鶴)09.1.13
(あ)
巡察の帰り道、千鶴は横を歩く左之助の右腕の布がひらひらと舞うのを見ながら、先日左之助と交した会話を思い出した。
※※※
「原田さん、前から不思議に思ってたんですけど、その腕に巻いてるのって何なんですか?」
いつもと変わらぬ巡察の帰り道、千鶴はかねてから心に抱いていた疑問を口にした。
今日は特に問題もなく平和、言い方を変えれば暇だったので、ついついそんな軽口も口に上る。
「ん?ああ、これか?」
呼ばれた左之助は一度千鶴に視線をやると、自身の腕に巻かれた布へと視線を移す。
「いや、何って言われてもなー……」
どう説明したものかと悩んでいるのか、左之助は歯切れ悪く言葉を切ると、左手でがしがしと頭を掻く。
「新八が籠手してるだろ?で、最初はなんかじゃあ俺もやるっつって取りあえずその辺にあった布切れを巻いてみたんだが……」
「だが?」
先が気になり千鶴が隣を歩く左之助の顔を覗き込むと、左之助はばつが悪そうに一度溜息を吐き、笑うなよ?と念を押してから口を開く。
「いやな、その時例の如く飲んでたんだけどよ。で、新八とこれちょっとかっこよくねえ?みたいなノリになってだな、平助まで、左之さん超かっけー、とか言い出したもんだから、じゃあ俺はこれから一生巻き続けるぜ、武士に二言はねえ!とか言っちまってな……そっから引っ込みつかなくなっちまったんだよ…………おい、千鶴。笑っていいんだぜ?」
左之助が、隣で小刻みに肩を震わせどうにか笑わないようにと両手で口許を押さえている千鶴に許しの言葉を添えると、千鶴は我慢していた物を一気に噴出したように笑い声を上げる。
「ったく。だから言いたくなかったのによ」
はあ、と左之助が溜息を吐いて空を仰ぐと、
「でも、なんか原田さんらしいです」
と千鶴は無邪気に笑顔を見せた。
「俺らしい?……まあな、なんか今では俺のトレードマークみたいになっちゃってるし?将来は嫁さんに毎朝これ巻いてもらうっつーのもいいんじゃねーの?って思ったり思わなかったり、だ」
「もう、どっちなんですかっ」
片腕を上げてニヤリと笑う左之助に、千鶴も釣られて笑顔を返した。
※※※
(ほどけてるの教えてあげなきゃ)
「原田さん、あの、右手ほどけてますよ?」
隊士と談笑中の左之助の邪魔をしないようにと、千鶴は小声で囁くと、わかりやすいように右腕を指差す。
千鶴の問いかけに何事かと思った左之助は一瞥をくれたが、どうも会話が盛り上がっているようで、
「悪い、千鶴。巻いてくんねえか?」
と、片手を顔の前に上げて、すまねえ、とポーズを作ると、また会話へと戻って行った。
「あ、はい。わかりまし、た」
(!!)
千鶴は思わず先日の左之助とのやり取りを思い出して、自分の顔が瞬時に耳まで熱くなるのを感じる。
(ちが、これは、ただお話に夢中なだけでっ!!)
蘇る左之助の言葉をどうにか打ち消そうとすればするほど、全身が意識してしまうようで、心臓が脈打つ速度がどう考えても普段より速い。
(か、関係なんて、ないんですよね?)
千鶴は胸中で左之助に問いかけるように呟くと、覚悟を決めてそっと左之助の右腕に両手を添えた。
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