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HAPPINESS!!







いつもと変わらない。何ら変わらない、少し退屈で平和で紛れも無い日常の一コマ、そんな一日になる筈だった。

「鋼野、出かけるぞ」
「はっ………え?」

―――放課後、盾が唐突にそんなことを言い出さなければ。






(なにが、いったい、どうなって)
俺は現在進行形で盾に手首を掴まれた状態のまま街中を歩いている。歩く、というよりは引き摺られると言った方が近い。普段あれ程俺と外を出歩くのを嫌がる盾が一体全体どんな風の吹き回しだろうか。何か魂胆があるのかもしれないが生憎現時点では見当もつかない。

「ちょっ、盾、せめてもうちょいゆっくり歩けって…!」

そう請えば僅かな間の後に歩くペースを落としてくれる。やはりおかしい。盾はこんなに素直な奴ではない。隣りを歩いているわけではないため後ろ姿しか見られないのがもどかしく感じる。
盾は盾でどうやら事情(というべき用件かさえ今は分からないのだが)を話す気は無いらしく終始無言だ。
本当は聞きたいのだ。この突飛な状況の理由を一から十まで。
だがそこは耐えるのが勇者であり俺、鋼野剣だ。槍崎のような肩書きだけやたらと賢そうな馬鹿とは違う。二人で出かけること自体は嫌では無く寧ろ嬉しいことなので、余計な口を挟んで機嫌を損ねてしまうことだけは避けたい。折角盾からのお誘いという夢のようなシチュエーションなのだから満喫しなければ勿体ない。
それに幾ら不可解な自体とはいえ、連れて行きたい場所を見れば目論みも分かってくるかもしれない。


「おし、着いた」
「着いた………って」


………と、思ったのだけれど。甘かったのはどうやら俺の方だったみたいだ。

「此処って…」
「見りゃあわかんだろ」
「…ゲーセン」

そう、ゲーセン。正式名称はゲームセンター。俺が連れてこられた場所はまさしくそこだった。
ますます盾の意図が分からなくなる。何がしたいんだ。誰だ場所を見れば目論みが分かるとか言ったのは。俺だ!

「入るぞ」
「えっ、あっ」

思考を纏める間も与えられずに五月蠅い喧騒の中へと足を踏み入れる。無法地帯のような地、だが俺は嫌いでは無い。格ゲーやシューティング、音ゲーと俺を満たしてくれるものが数多く存在するのだ。そしてそれは盾も同じようで、ゲームに対する情熱は今ではゲーム部改め勇者部にも入部する程だ(勿論顧問は俺)。本人に聞かれたら怒鳴られそうな説明だとか、知らないし。

「テキトーにそこらへんのからやってくか…」

盾が漏らした言葉にひとまず相槌を打つ。ゲームをやるのは好きで、しかもそれが盾相手となれば尚更のこと。理解が出来ない現状に変わりは無いけれど今は今を楽しめればいいではないか。そう考え始めた矢先、俺は大変なことを思い出す。

「ああっ!!」
「!なっ、んだよいきなり大声出しやがって」

突如大声で叫んだ俺に驚いたのか隣りの体躯が小さく跳ねる。ポーカーフェースを必死に努めようとしているところも可愛くて苛めたくなるなあなどと言う余裕も持ち合わせてはいない。

「お、俺、金持って無いんだった…!」

今は給料日前。新作のゲームや新しい装備品にお金を注ぎ込んだ俺は生活も危ういくらいに「カツカツ」な状態へ追い込まれていた。RPGならば経験値稼ぎを兼ねて雑魚を蹴散らしているところだ。
折角盾からの誘いだったのにと意気消沈する俺に盾が言葉をかける。その内容に俺は再び驚かされることとなるのだ。

「あー、だろうなとは思ってたし。…いいよ今日は俺が出すから」
「!?」
「なんだってんだよ、その反応は!」

失礼だろ!などと言いはするが。そりゃあ、そりゃあ!普段の盾を知っているなら「!?」となるのも分かるものだろう。
そして狼狽した俺の
「じゅ…盾がデレた…!!」
の発言にも納得してくれる筈だ。

「デレっ…て…アホか!」

案の定放たれた素直じゃあない言葉は照れ隠し。余裕を持っていたとは到底言えないものの、しかし今度はしっかり「可愛いなあ」と言うことが出来た。直後に鉄拳が飛んできたけれど。

「いってて…」
「あ…。は、早く回るぞ馬鹿教師!」

罰が悪そうに吐き捨て、俺の手首を掴んだまま歩き出す盾に口元が弛む。やっぱり今はこのサプライズを楽しまなければ。










楽しい時間程目まぐるしく過ぎていくものだ。
手始めに格ゲーをして、ガンシューティングで二人プレイをして、盾が余りにもヘタレだから俺が一人で活躍して(と言えば「それは俺の台詞だ」と突っ込まれた)、音ゲーで対戦プレイをして、俺が提案したプリクラも最初は嫌そうにしていた盾とのツーショットをばっちり撮ってみせて(ちゅープリを撮ろうとしたら流石に殴られた)、その他にも色々遊んだ。沢山沢山馬鹿みたいに笑って、盾は余り笑ってはいなかったけれどそれはいつものことなので気にしていない。
一通り遊び倒した俺たちが建物を出たのは空の色が橙から紺へと変わる頃で、盾は頻りに財布の中身を気にしていた。使い過ぎた、海藻物語の新作買えねえなどぼやいているように聞こえたのはきっと俺の気のせいだろう。
夜道を二人で歩く。盾の家に近付くにつれて人通りは減っていき、空も暗くなっていく。

「いやーしっかしこんなに遊んだのは久々だな!あー楽しかったー」

五月蠅い所にいた反動でか、自然と声が大きくなる。言った後で恐らく盾に怒られるだろうとかお前は毎日遊んでるようなものだろとか返されると予想していた。それだけに、



「楽しかったか?…本当に?」



この盾の反応には目を丸くするしかない。え、と声を漏らす俺を見るや否や「何でもない、忘れろ」と発言を修正するがそんなに簡単に忘れられるのならば苦労しないのだ。

「なんだよ、お前は楽しくなかったってのか?」

唇を尖らせながら尋ねると「そうじゃねえよ」と言い、しかしそのまま黙りこくる。なんだよ、どうかしたんかよ、何か言えよ、盾のアホ。それからは俺がどう呼び掛けても返事は無く、仕方なく俺も大人しくなるしかない。自然と会話も途切れる。周囲が静かなのも相俟って空気が息苦しい。
先程までの楽しげな雰囲気が一転気まずく感じた。盾の家はもうすぐそこだがこのまま別れるのも憚られ、しかしそうは言ったところで明日どう声をかけたら良いか分からない。

(どーうすっかなー…)

思えば今日の盾は最初からおかしかった。その辺りをつつけば一日の事の真相にありつけるのかもしれない。
こうなればヤケだ、そう結論づける。盾が思わず突っ込みたくなるまで話しかければ良い話だ。また無視されるかもしれないが、反応してくれるまで問い質すしつこさこそが俺のパーソナリティーの一つなのだから。

息を吸う。無視するのが嫌になるくらいの声量で、行け!俺!


「―――じゅ「鋼野っ!!」は、はいいっ!」
(……出鼻を挫かれたって、こういう時に使うんだったか…?あ、俺今なんか賢い奴みたいだ)

俺が出そうとした声を凌ぐ声量で盾が俺の名前を呼ぶ。叫んだ(と形容した方が正しい大きさだったのだ)あとに住宅街を歩いていることを思い出したのかはっとしてから掌で口元を覆う。目は完全に泳いでしまっており、一見するとただの挙動不審だが俺には盾が何か伝えようとしていることが分かる。
そしてその伝えたいことが、今日一日盾がおかしかった原因なのだ。…多分。
顔を俯かせたまま視線を右にやり左にやり、偶に視線を合わせてきてはまた直ぐに下を向く。せっかちだと自負している俺はただただ辛抱強く「待つ」だけ。

「……鋼野」
「ん、なんだ」

はあ。小さく息を吐いてから大きく息を吸う、深呼吸のような動作をしてから真っ直ぐと俺を見やる。嗚呼、遂に来るな。そう思いながらも、そういえば何を言われるかまでは予想していなかったなあと考える。まあ、いい。今更のことだし、じきに分かることだ。

…流石に別れ話とかそういった類の話は来ないと信じている。もし、万が一来たら俺は一日かけて行われた上げて落とされる所業に立ち直れなくなるだろう。無いよな。…無いよね?

「鋼野」
「なっだっ、だぁから、なんだよ、盾!」









「…………た……誕生日、おめでとう………」

「……………………たん」



誕生日。





誕生日?



「六月十日、だったろ。お前の誕生日」

そう宣う盾の頬は暗がりの中でも赤みを帯びていることが分かる。可愛い。非常にけしからん。

「…てかさ…なんだよ、もしかして忘れてたわけ?自分の誕生日をか?」
「あー…え、ええっと」

吃る俺を見て肯定と見なしたらしい。ああもう忘れてたんなら余計なことしなけりゃ良かった馬鹿らしい最悪だ、なんて一息で吐いた悪態も恐らくは照れ隠し。

「………盾」
「あぁ?……んだよ」

本当は盾に言いたいこと、言わなければならないことは沢山ある。沢山ありすぎて纏めきれないのが現状だ。
だから本当に言いたいことだけを。掬い上げて差し出す。


「めっ……ちゃ、好き!!…てことで、ぎゅってしていいか?」
「…は?…い、や。ここ外」
「答えは聞いてなあい!」
「ちょ、おまってギャーッ底抜けにうぜええええっ!!」


突っ込みをいれようとする盾を余所に突進する勢いで抱き付く。騒がれるのは想定内。そうだこういうのは全部が全部流してしまうのが俺の信条だった、今思い出した。
何とか腕から逃れようとする盾を、しかし簡単に解放してやるほど優しくはない。ぎゅうぎゅうと強く強く抱き締めてやると痛い離れろ馬鹿教師と文句の言葉を三つ吐いてから、やがて諦めたように大人しくなる。

「はー…」
「お」
「さっさと帰るぞばか。…今離れてくれたら、特別に手繋いで帰ってやらんこともない」

全力で目を逸らしながらぼそぼそと呟く盾の可愛さを独占出来る、この幸せと言ったらもう!

「…盾くんてば、さっきデートの時に思いっきり手繋いだじゃーん」
「!!でっ…!?て、てめ」
「なあんちゃって。んじゃそろそろ帰るか、暗いし」
「うぐ……!」


反論は待たぬまま指先を絡める。所謂恋人繋ぎだとかいう奴に文句でも言おうとしたのか口を開いた盾はしかし、やがて沈黙を貫いて歩き出す。

「ふへへ」
「…気色悪い笑い方すんな」
「ごっめーん。けど無理にやにやする。ふひひ」


ああ俺は今、今年一番の幸せを実感しているのかもしれない。いや実感しているんだ!

「あーやっぱ俺盾が好きだ大好きだすっげ苛めたくなるほどにー」
「それおかしくね?……はあ、」

小さく溜め息を漏らす盾を尻目に考える。誕生日とはかくあるものなのかもしれない。少し余分なくらい、幸せでも罰は当たらない、よな。とか。思わせてくれる日。なんてな。




HAPPINESS!!





―――
遅くなって本当に申し訳ありません…っ!!(スライディング土下座)
遅い、って遅いってそんなレベルじゃない…!今なら石をぶつけられても文句言えないです…
リクエストの剣盾の甘ということであの、甘…?な感じですがこれが今の精一杯の甘状態でした…いやもうなんというか本当…甘…?
このような出来となってしまいましたが叶月様!たいっへんお待たせしてしまいましたが!献上いたします…!
リクエスト本当にありがとうございました!


Thanks 10000HIT!!





あきゅろす。
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