□小説(ダーク系)@
8P
「おはよう、亮二くん」
切れ長の目を細め、うすピンク色の唇に笑みを浮かべた女性…
俺がこの世で一番恐ろしいと思う人物。
二度と会いたくなかった人物……
(池……田!!)
「こんな綺麗な彼女がいるなんてね。
朝食は、この娘(こ)が手伝ってくれたんだよ。
彼女が作ってくれたんだ、おいしいのは当たり前だねぇ」
「この娘(こ)が、親の借金のせいでやくざに、脅されているのを助けて、今まで逃げていたんだって。
助けてやったのはいいことだが、無事だったから良かったものの、やくざ相手ならもうちょっと考えて行動しないといかんぞ」
このとき俺には祖父、祖母の話しなど聞こえてなかった。
目の前で微笑みながら立つ女装をした池田に、蛇に睨まれた蛙(かえる)のように、全身が池田に集中しピクリとも動けなかった。
(にげ…逃げ…逃げるんだ…)
「うわぁぁぁぁぁっ!」
俺は、腹に力をいれて叫び自分自身を奮い立せると、裸足のまま外へ飛び出した。
ここで池田から逃げとおせなければ、次に待っているのはお仕置きだけではすまない気がした。
(山の中!奥に逃げれば池田だって探しにこれない。
いくらでも身を隠す場所がある!)
俺は走りながら、大きく茂るヤブに飛び込み、草木を掻き分け奥へ奥へ、人に気配のない場所へ木々が多い茂った場所へと潜りこんだ。
「はっ…はぁっ…はぁ…は…」
自分の体がすっぽり隠れるようなくぼみを見つけると、俺はゆっくりと腰を下ろした。
(夜になってから、ここからまた別の場所に移動しよう。
遭難することより、池田に捕まるほうが怖い。
じいちゃん達はまたびっくりしているのだろうか?)
俺は朝の澄んだ空気の中、不安と恐怖に膝を抱え込み震えていた。
◇
「えっ…亮二?何が?」
祖母はいきなり叫び声を上げて、俺が飛び出した後しばらく呆然としていた。
「おばあさん、彼は私との逃亡生活で、疲れてしまったんでしょう。
私の顔をみてそれを思い出してびっくりしてしまったんですわ」
「しかし…問題は解決したはずじゃ」
「ええ、問題は解決しました。
だからもうご安心なさって私、彼を捜して二人でまた町に戻って、落ち着いてからご挨拶に伺います。
だからそれまでは彼の為にも、このことは周りに人達には言わないで下さい」
池田はそういい残し、俺が逃げた先の山へゆっくりとそして確実に足を進めていった。
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