□小説(ダーク系)@ 1P 「…困ったな」 この状況では、のんきな言葉だったのかも知れない。 僕、川上 悠(かわかみ ゆう)は、あたりを見回してから背中に背負った登山用のリュックを降ろし、自分も側にあった大きめな岩に腰を下ろした。 「困ったな…」 そしてもう一度呟いた。 しかし、今の状況が変わることはなかった。 従兄弟に誘われるまま、初めてこの山に登山に来たのはよかったが、慣れない山道の中気がついた時には、皆の姿を見失って僕一人になっていた。 (今頃、僕がいない事に気がついて、騒ぎになっているのかな? きっと、心配もかけているに違いない) 「心配…か、佐渡(さわたり)先輩も僕の事を心配してくれるのかな……」 同じ大学のサークルの先輩だった、佐渡 豊(さわたり ゆたか)。 その先輩から、一週間前に僕は告白された。 先輩は男で、そして僕も男。 通常ならありえない告白だったが、僕は元々自分が、そちら側の人間だって気がついていたし、何より僕も先輩のことが初めて会った時から好きだった。 嬉しかった。 すぐにでも、『はい』と返事をしたかった……だけど僕には出来なかった。 今時“身分違い”なんて言葉は古いかもしれないけど、その時僕の頭に浮かんだ言葉。 「…僕と付き合ったら、先輩の将来がだめになるから……」 岩の上で両膝を抱えて僕はまた呟いた。 今度は今の状況へではなく心の中の状況で……。 [次へ] [戻る] |