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□小説(ダーク系)@
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「――久しぶりにこんなに笑ったよ」

私は笑い涙を指先でぬぐいながら言った。

(本当に、こんなにもいい気分で笑ったのは久しぶりだ。
あの家にいる間は笑ったことすらなかったんじゃないのか私は)

「ほんといい年して何がおかしかったんだよ。
つられて僕まで笑ってバカみたいだ」

「……ありがとう」

「何礼言ってるんだよ。気持ちわるー」

口ではそう言いながらも青年は少し照れたようにはにかんでいた。

「こんな風に笑える日がくるなんて思ってなかったよ。
これで自由になれるんだ。
本当に心から礼を言いたい。
――ところで君の名前、聞いてもいいのかな?」

「……美崎(みさき)。
女みたいな名前っていうなよ!
それから、僕は里中さんがあんたにしたっていうあの件は信じてないからな。
とにかく里中さんの弟子になれるまではここに居てもらう。
それだけは忘れるなよな」

「ああ。
そうだ私の名前は礼司というんだ宜しく」

私は青年、美崎くんに頭を下げた。




「――お邪魔します。
お客様にお茶でも……」

その声から一呼吸おいて静かに襖が開くと、先ほどの男が湯気のたつお茶をのせた盆を手に入ってきた。

「その辺にでも置いてけよ」

「はい」

男はお盆を机の上に置くと私の前で立ち止まった。

「あの……失礼ですが、やはり貴方も華道をたしなまれれおられるのですか?」

「えっ、いや……」

「そうですか、やっぱり。
着物の着方からして違うのではと思ったのですが、坊ちゃんとはどちらでお知り合いに?」

「いいだろそんな事。
木村さんには関係ない」

美崎くんは慌てて、男と私の間に入るようにして男を睨んだ。

「しかし、わたくしは師匠に、坊ちゃんのお目付け役をいいつかっております。
この方の様子から悪いお知り合いの方とは思えませんが、年上のお方のようですし、何がどうとはいえませんが坊ちゃんとお知り合いになるようなタイプとは違う気がしまして」

「僕がどんな知り合いをつくっても木村さんにも親父にも関係ないだろ。
いい加減にしてくれよ」

「そうは言っても……」

男、いや木村は本当に困った顔をした。

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あきゅろす。
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