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□小説(ダーク系)@
4P
「そうだ、礼司くん。
自分の身体から花の香りがするのに気がついてますか?」

「?」

綺麗に水分を拭われ、畳の上に生まれたままの姿で横たわる私に澄人さんが突然言った。

(どうせ、ボディーシャンプーか何かの香りだろう)

心の中で憎まれ口をたたいたものの、やはり気になり私は鼻をフンフンをならしてみた。
確かに花の香り、いやどちらかといえば植物、緑の香りに近い香りがした。

「人工的でない自然な香りです。
花で飾られていくうちに染込んだのでしょうか……。
なんにしても喜ばしいことですね」

(……香りなんて、どうでもいい。それより私は、私が望むのは)

「しばらくはシャワーの湯で身体が火照っているでしょうから、そのまま身体の熱を冷ましておいて下さい」

澄人さんはそう言うと、私を部屋に残して出て行った。

「逃げるなら今か……。
いや、今ここで逃げてもこの家の中にいるかぎり必ず捕まる。
今されるのか後にされるのかの違いだけだ」

私は身体をゆっくりと起した。

「この家を出たい。
帰る場所などないのはわかっている。
別れた妻、自殺未遂を起して迷惑をかけた年老いた両親にも合わせる顔もない。
けれども私は」

ヒザをたて、足に力を入れて私は立上った。
いたぶられた部分や腰に軽い違和感を感じたが、そんなことはどうでも良かった。

「この家を出さえすれば」

すり足で玄関へ足を進め、私は襖に手を掛け力を入れた。



「おや?礼司くん。
どこに行ったのですか?」

人の気配が消えた部屋で澄人さんは手に抱えた花を床に下ろすと目を細めた。

「まったく、いつまでも目が離せない人ですね。
どこにいても私達から逃げられないとわかっているくせに」

余裕のある笑顔を見せると澄人さんは部屋の襖を閉めた。

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