□小説(ダーク系)@ 7P ◇ 「これは…?」 「町にいって手に入れたものなんだが、なんでも手の荒れによくきく軟膏ということだ。 手に塗るといい」 「ぼっ僕にですか? こんな高価な薬……僕はいただけません」 「いいんだ。 お前のその綺麗な手が、荒れているほうが辛い。 こんなにも綺麗な手を俺は見たことがない」 秀に手をとられて春は、頬を染めた。 (あれ?この人、胸がドキドキしてる) 僕にも覚えがある胸の高鳴り…それは…。 「綺麗なんてとんでもございません。 ゴツゴツと骨ばって、汚い手です。 秀様が気にしてくださるような手では……」 春は慌てて自分の手を引っ込めた。 「いや、綺麗だよ。 春の心のように綺麗だ。 俺は、昔からずっと春のことを綺麗だと思ってる」 秀の真剣な目。それも僕には覚えがあった。 (お互い、相手の事を好きなんだ…) それに気がついた僕の胸が苦しくなる。 そう、時代は違えともこの二人は僕と先輩そのものだった。 ――だけど、僕と先輩の間には存在しない非情な人間が、この時代には存在していた。 [前へ][次へ] [戻る] |