□小説(ダーク系)@ 3P すると、木々の葉鳴りの中に、水音らしきものが耳に入った。 「こっちの方だ」 僕は水音の聞こえる方へ足を進めた。 「わぁ…」 木々を分け入った場所に広がる美しい景色に、僕は思わず感嘆の声を上げた。 色鮮やかな木々に縁取られたその湖は、静寂に包まれ、その湖面は波紋一つなく、光を反射しキラキラと輝いていた。 「綺麗。 こんな所に、こんなにも綺麗な湖があったなんて…湖の底まで透き通って見え…」 湖を覗きこんだ僕は、目を見開き、後ろに飛びのいた。 「なっ!何!今の…」 湖に写るはずの自分の姿が、全く違う人間に見えたのだ。 「これから死のうと思ったから…幻覚でも見た…ひっひい!!」 次の瞬間僕は、湖から伸びてきた手に足を捕まれて、悲鳴を上げた。 そしてゆっくりとその手は、僕の体を湖へと引きずり込みはじめた。 「たっ助け!誰かっ!誰か助け…先輩!佐渡先輩助け……」 僕は死に物狂いで、手に触れた草を必死に掴んだ。 しかし僕を湖へ引き込もうとする力は恐ろしく強く、抵抗むなしく僕はズルズルと湖の中へと、引き込まれていった。 水の中に顔が沈んでいくのを感じながら、僕はぼんやりと思った。 (そっか…僕は死のうと思ったじゃないか。 どうして怖がる必要があるんだ……これでいいんだ、これで…) そんな僕の瞳に、水の中で揺らぎながら立つ青年の姿が写った。 [前へ][次へ] [戻る] |