□小説(ダーク系)@ 10P ◇ 「…大丈夫…ですか?」 全身を白濁したもので汚さたままの姿で、僕は庭にある物置小屋へとほおりこまれた。 馬の餌となる干草の詰まれた、ほこりっぽく薄暗い木造の小屋で、身動きも出来ずにうずくまる僕に誰かが声を掛けてきた。 「……だ……れ?…」 うっすらと瞳を開いた僕の目に庭師の息子の顔が映った 「あ…の僕、庭師の……息子のルシルドと言います。 それより、大丈夫ですか? 体を拭くものと、着るものを持ってきますからちょっと待ってて下さいね」 ルシルドはそう言って小屋から出て行くとすぐに、いろいろなものを両手にかかえて戻ってきた。 「酷いですね……すぐに綺麗にしますから」 ルシルドは僕の体を丁寧に拭きそして簡素だか清潔感のある服を着せてくれた。 「…ありがとうこんな僕にこんなによくしてくれるなんて…本当にありがとう…」 僕は瞳を涙で潤ませながらルシルドに礼を言った。 「いいえ、そんなことより貴方みたいに綺麗な人をこんな目にあわせることの方が信じられません…」 「僕が…綺麗?…」 「はい、すごく綺麗です。初めてここにご主人様に連れられてこられたとき、僕は貴方のことを『天使』だと思ったくらいです」 ルシルドは目を輝かせ、ソッと壊れ物をさわるように僕の手をとりその甲に軽くキスをした。 「―僕は『天使』なんかじゃな……。 薄汚い人間なんです。 今までずっと体を売って生きてきた…そんな最低の人間なんです」 僕はルシルドにとられた手をそっと自分から引っ込めた。 「いいえ、僕の亡くなった母がよく言ってました。 人間にとって一番大事なのは『心』だって。 『心』が汚れている人間はどんなに外見がよくてもそれがだんだんと表にあらわれてくる。 そして最後には一人ぼっちになるんだって」 「『心』…」 僕は呟いた。 けれども『心』がどんなに綺麗でも、僕は生まれたときから 幸せになんてなれない運命だった。 それならば綺麗な『心』なんて…不要だ。 「そんなに悲しい顔をしないで下さい。 今は辛くてもいつかはきっと……。 そう思って頑張って下さい。 貴方ならきっと幸せになれます」 ルシルドは僕をなぐさめるようにして優しく肩に手をおいた。 「おいっ!!何をしてる!」 突然、小屋のドアが開きセバスが僕の側にいるルシルドを睨みつけた。 「あっ…えっその…僕はただこの人が汚れたままでは気の毒で」 「庭師の息子ごときがこいつに関るな! 早くここから出て行け!」 「はっはいっ…すみませんでした…」 ルシルドはすばやく立上りその場を去ったが、去り際、僕に小さな声で 『…今だけです。 これを乗り越えればきっと…いつか僕が助けてあげます』 と呟いていった (ルシルド…) 僕は去っていくルシルドの背中にしばらく視線を送った。 [前へ][次へ] [戻る] |