□小説(ダーク系)@
2P
三浦が警察署をあとにして、しばらくたったとき。
三浦にとって命を左右する出来事が起こった。
「きゃっ」
事務員の女性が椅子の足につまずき、大量の書類を仙田の机の横でばら撒いた。
「すっすみませんすぐ拾います」
女性は慌てて書類の束を拾い集める。
「ハハハ前田くん足元には気をつけてな」
なじみの警察官が女性に声を掛ける。
「はっはい、気をつけます。
えっとこの書類は処分する分ですよね」
「んっそうだ重要まではいかないが、何分警察署の書類だから念入りに処分してくれ」
「わかりました」
そして女性が書類の束を持っていったあと、仙田の机の上から三浦が書き残したメモは消えていた。
その頃三浦は再びあの屋敷の玄関に立っていた。
チャイムを鳴らすと今度はかなりの時間がたってから玄関のドアが開いた。
「あったびたびすみません。M山警察署のものですが…」
「まだ、なにか?」
青年は乱れた襟を直しながら三浦をうっおとしそうに睨んだ。
「いや、実は今回は私個人の判断で来させて頂いたのですが。
その…信じるかどうかは勝手かと思いますが…」
「はっきりとおっしゃって下さい。
僕は今手がはなせないんです」
「――わかりました。
実は私はその霊感が強くてですね」
「霊感?」
青年はあきれたような表情で三浦を見た。
「ああ、信じられないのはもっともだと思いますが、さきほど尋ねたときこの奥に見えたんです」
「見えた?何がです」
青年は薄暗い玄関の奥を振り返る。
「……膝から下のない中年の男性に、それからいまどきの若者風の連中が五、六人ほどそれに…」
するとみるみる青年の顔色が変わる。
「…もしかして……。
けっ刑事さん宜しければその話を詳しく聞いてもいいですか?」
「ええかまいませんが」
「そうですか良かった。
では汚いところですがどうぞ」
こうして三浦は屋敷の中へ招かれた。
昼間だというのに湿気漂う薄暗部屋はまさに幽霊屋敷にぴったりだった。
(こんなに空気が悪いんじゃ霊が集まるのも無理ないな。
しかしこの青年こんな所で生活しててよく平気だな)
三浦は比較的明るくてこぎれいな居間へ通された。
「どうぞ…」
青年は三浦にコーヒーをすすめる。
「あっどうも頂きます」
三浦はコーヒーの香りに誘われ一口喉に流し込んだ。
「刑事さんが見られた中年男の幽霊、それは僕の父親かもしれません」
「君のお父さん」
「はい、父は少し前病の為亡くなりました。
ただ他の若い男達というのは思いあたりませんが」
「うん、ここは霊が集まりやすい場所みたいだし、君に関係なくてもいる可能性はある」
三浦は二口めのコーヒー喉に流し込む。
「もしかして、声みたいなものも聞こえたりするんですか?」
青年は身を乗り出した。
「そこまでは聞こえないんだよ」
「そうですか…。
ところでもう一人の刑事さんと一緒じゃないんですね」
「ははは、こんな話をするためになんて、とても言えないからメモだけ残してきたよ」
「どういう内容で?」
「ちょっと前に聞き込みに行った場所にって…あれ…なんだ?…おかし…い…」
三浦は強烈に襲ってきた眠気に頭を振るがすぐに眠気に負けて目を閉じた。
「ふふふ、亮二くん。
今日は新しいお客様と楽しめるよ」
池田は深く眠る三浦を見下ろし嬉しそうに笑った。
◇
「…い、おい…起きろよ…起きろ!」
三浦は体を激しく揺さぶられて目を覚ました。
「んっ?…俺?ここどこだ?」
「ばかっ何のんきなこと言ってるんだよ。
早くここから逃げろ」
三浦の頭には、まだ少し霞がかかっているよううな状態で三浦はゆっくりとした口調でぼんやりと呟く。
「あのコーヒーを飲んだ後の記憶が……」
「思い出すのは後にしてあんたもやれよ!」
再び怒鳴られて三浦はようやく頭をすっきりさせる。
そして自分を怒鳴りつける人物を改めて見る。
薄暗い部屋でよく見えないが、若い男ということがわかる。
「やれって何を」
「あんた自分の足に付けられているものもわかんないのかよ」
「足に…」
−!−
三浦は、自分の両足に手錠がはめられているのを見て驚愕する。
「なんで手錠ってこんなに硬いんだよ……」
若い男はその手錠を手で必死に取ろうとしていた。
「まさか私の手錠…」
三浦は慌てて自分の懐に手をいれて顔色をサッと変えた。
「手錠だけじゃない…拳銃も……」
するといきなり薄暗い部屋に、まぶしいほどの明かりが灯った。
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