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□リクエスト小説@
2P
「……名前がないのか」

名前をつける環境で、育っていないことに気が付いたリンダとパトリックは顔を曇らせた。

「ならつけてやればいい。
無いと不便だろ」

ロンはその人間の顎に手をやり、クイっと上へむかせた。
そして、その瞳に何を見たのか

「……ティンだ。
お前は今日から『ティン』って名前だ」

「ティン?それってさ」

パトリックは、口をはさもうとしたが

「五月蝿、何の意味もない。
それで決りだ」

とロンに睨まれて口を閉じた。

二人のやりとりを見ていたリンダも、ただ黙ってロンを見つめていた。

「ティン…僕の名前…ティン」

ティンだけは、自分の名前に嬉しそうに笑っていた。



――二週間後。
ティンはここでの生活になれ初めていた。

明るい栗色の長い髪を時折指に絡ませながら口を尖らすことが多い、青い瞳のリンダ。
燃えるような赤毛を持ちながら、どちらかといえば温和でやさしい緑色の瞳のパトリック。
そして、いつも無愛想でバサバサの黒髪から覗く薄いブラウンの瞳が涼やかでいて鋭いロン。

三人共、それぞれにティンを可愛がってくれた。



「パトリク、ロンはどこに行ったの?」

ティンはゴロリと寝転び、雑誌を読んでいたパトリックに声を掛ける。

「パトリクじゃなくてパトリック。
――ったく他の事は覚えて俺の名前だけは今だに覚えないんだからな…。
あっと、ロンがどこに行ったかだっけ」

「うん」

「あいつは姉貴のところだよ」

「姉貴?」

「そうあいつの腹違いの姉貴。
あいつにとって母親であり姉であり…」

パトリックは立ち上がると、窓枠へ座りなおした。

「お前はここをどう思う?」

「僕には、ここがすごくいい所。
それから皆もすごくいい人」

そんなティンの言葉に、パトリックは苦笑する。

「違うよ、ここは薄汚れた貧乏人が住む場所だ。
どいつもこいつも人を疑って、騙して、金に群がっているんだ。
そして、いつかあの上、金持ちが住む場所へ行くことを渇望しているのさ」

パトリックの話しにティンは首をかしげた。

「悪いな。お前にこんな話をしたってわかりっこないな」

パトリックはそう言って立ち上がると、ティンの髪の毛をクシャクシャと撫でた。

「じゃあ仕事に行ってくるな。
何、しばらくしたらロンもリンダも帰ってくるから心配するな」

「うん、いってらっしゃい…」

ティンはパトリックを見送り一人部屋から空を眺めていた。

生まれた場所は窓一つないコンクリートに覆われた暗くて冷たい部屋。
与えられる食事は、味もなく量も少なくて、皆奪いあうようにして食べた。
生きる意味すら分からずに、ただ日々が過ぎていった。

「きれい…」

ティンは青い空に浮かぶ白い雲に目を輝かせた。


ドンッ!バン!

その時玄関のドアが乱暴に開けられたかと思うと、直ぐに乱暴に閉められた。

「くそっ!」

「…ロン…」

ティンは声の主に声を掛ける。

「――るさい、今、俺に話しかけるな」

ロンは散らかった床へゴロリと寝転び、ティンに背を向けた。
いつも愛想がいいわけではないが、いつにもましてイラついているロンの様子に、ティンは思わず聞いてしまう。

「どうしたの?何怒っているの?」

「だから、俺に話しかけるな。
今は、お前の顔を見たくないんだよ俺は」

「ぼっ僕のこと嫌いになったの?」

ティンは不安にかられ、ロンの肩へ手を置いて揺さぶった。

「何遍言えばわかるんだ……この…」

ロンは手を振り上げた。

ー!ー

ティンはその動きに、昔何度も意味もなく殴られたことを思いだし、頭を抱え身を固くした。

「……こんなことで殴らねーよ」

ロンはティンの頭に手をポンと置いた。

「なぁ、お前俺を慰めてくれるか?」

ティンの頬へ手を移動させてロンはボソリと呟いた。

「慰める?よくわからないけど僕で出来ることなら……」

ティンは、これから自分が何をさせるのかもわかないまま応えた。



「おい!ロン!ロンそこに居るんだろ。
出て来いよ!お前なんて事したんだ!」

パトリックはロンの部屋のドアを力任せに叩いた。
そしてぐったりとするティンを抱いたリンダを振り返り、再びドアをドンドンと叩いた。

「お前がそんな奴だったなんて知らなかったぜ!
がっかりだ!
このぉーなんとか言えよ!」

すると中から、ふてくされたような声がかえってきた

「ふん、いいだろ。
元々そいつは愛玩用で金持ちのヒヒジジイやババアの相手をさせられる運命だったんだ。
俺に犯られたところで同じことだろ」

「そうかもしれないけど、お前はそんなつもりで拾ってきたわけじゃないだろ。
大人の勝手で振り回される子供のことを、誰よりもわかっているのはお前じゃないか」

「五月蝿い!五月蝿い!お前は口やかましすぎるしお人よし過ぎるんだ。
人間なんてものはな、無償で他人に何かしてやろうって奴はいないんだ。
どこかで見返りを期待してるんだよ。
だから俺はそいつに見返りとして体を求めたそれだけだ」

「ロン……お前」

パトリックは口を閉じた。

(どうしたんだよ、いつものお前らしくない。
何があったんだよ)

ロンの態度が急変した理由はそれからニ、三日後にあきらかとなった。





「あっ…いやっロン…怖いよ…痛いの、嫌っ許して…」

ティンは床に転がされ、シャツとズボンを剥ぎ取られて暴れた。
下着一枚の姿で体を丸め、ロンから身を守ろうと必死だった。

「他の男になんて渡さない!
俺のものだティアン……初めからこうしてれば」

ティアン?
初めて犯されたときも、ロンはその名前を口にだした。
ティンは恐る恐るロンを見る。

ロンの瞳はティンを見ているようで、どこか違っていた。

(ロンは僕じゃなくて、誰を見ているの?)

ティンが生まれて始めて思った疑問だった。

ティンの動きが一瞬止まると、ロンは前座もなしに固く閉じるティンの蕾に、そそり勃つ自らのペニスを突き入れた。

「ひいいっ――!!
痛いよ。痛い、ロン僕半分に裂けちゃうよぉー」

「裂けやしねーよ。
お前は黙って股開いてればいいんだ。
俺が満足するまで我慢していればいいんだ」

残酷な言葉を投げかけ、腰を激しく動かしティンを翻弄しながら、ロンの表情は何故か悲しげだった。




「……ティン大丈夫か?」

「…パトリク…」

全裸で、足のつけねからももにかけて鮮血と白濁した液体をこびりつかせたティンは、パトリックに優しく抱き上げられたが、後ろの痛みに顔をしかめた。

「ごめんな。
ロンのこと…許してやってくれ。
…なんて無理か」

パトリックは大きなため息をついた。

「パトリク、ロンはどうして僕に酷いことするの?
ねぇどうして?」

パトリックはしばらく黙っていたが重い口を開いた。


「――たぶん、ティンがロンの姉貴に似ているからだと思う…」

「ロンの姉貴って前に話してくれた、えっと…ロンと半分一緒のお姉さんのこと?」

ティンには腹違いの姉弟の意味が、漠然としかわかっていなかった。

「ああ、これがロンの姉貴のティアンだ」

「ティアン?」

ティンを抱きながら、何度もロンが呼んだ名前。

ティンはパトリックがサイフから出した写真を見た。
そこにはロンとパトリックにはさまれ、笑顔で笑う綺麗な女性が写っていた。
髪はセミロングで金髪に近い。
淡い栗色、瞳もそれにあわせたかのような透明感のある薄いブラウン色をしていた。

「僕と同じ髪の毛の色、瞳の色…だ…」

「そうだな、彼女は俺にとってもロンにとっても憧れの存在だったよ。
美人で優しくて時には強くてさ…」

パトリックはロンと同じような遠い目で写真を見ていた。

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