□リクエスト小説@
3P
そういえば、こいつを拾ったのはいつだったか……。
あれは、仕事の帰り道。
薄暗いゴミ溜めから小さな小さなうめき声が聞こえた。
野良猫の鳴き声だと言い聞かせ、かかわりあいになる必要もない、無視しても問題などないと通り過ぎるつもりだったが……。
「……助け……くれて……りがとう……」
そいつは全身から腐臭を放ちながら必死にそれだけ口にすると、気を失った。
「助けるつもりはない。
ゴミ溜めから出してやっただけだ」
俺はそう言って煙草を咥えそいつに背を向けた。
◇
「それが、今じゃ誰もが振り返る美少年に育ちやがった」
峰岸はカップを台所に片付け戻ってきた世羅に向かって囁いた。
あの自身がゴミのようだった奴は、体を綺麗に洗ってみれば、カシューナッツのような甘い色の髪に、新緑が光に透けたような美しい瞳の持ち主だった。
自分では20歳だとほざいているが、どう見ても14歳程度だ。
「えっ?何か言いましたか?」
「別に」
峰岸は無精ひげを撫でながら窓の外を眺めた。
日も落ち、真っ暗な闇に覆われた町の小さなネオンの光が映る窓に、自分の顔が映り一瞬目をそらす。
乱雑に刈られた黒髪に無精ひげを生やした精悍(せいかん)な男らしい顔は慣れ親しんだ自分の顔であり、そうではなかった。
「僕は、苦労も知らないでヌクヌクと育った奴が嫌いです」
ドサリとソファに腰掛けた世羅は冷たい目をした。
「わかっるてさ、お前がそういった奴が嫌いなのは」
――俺と同じだ。
親に捨てられ、歳はもいかない頃に地獄を知った人間にとって、甘い人生を送る人間はうらやましいを通り越し憎しみさえ覚える。
まして、世羅はそういった人間に虐待され続けていたのだから仕方がないことかもしれない。
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