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□小説@
6P

「…そうか…」

男は自分のことのように辛い表情で頷いた。

「俺、もうダメなのかな…」

「そんな事ないさ!
それより体を早く綺麗にしたほうがいい」

あれから、男は再び昼間と同じホテルに俺を連れてくると黙って俺の話にまた耳をかたむけてくれた。
自分が情けなかったが、誰かに聞いてもらう事で自分の中の苦しさが少しだけ軽くなった気がした。

「うん、ありがとう。
俺、昼間からお兄さんにお礼を言ってばかりだ。
何もお返しなんて出来ないのにいいの?」

「子供がそんな事考えるなって、気にしなくていいよ」

男は明るく笑いながら、早く浴室に行きなさいとばかりに手をヒラヒラさせて俺をせかした。

(――俺本当に何もお返し出来ない…お金があるわけでもないし)

体を洗い、ユニットバスに溜めたお湯に浸かりながら俺は湯気で煙る天井を見つめていた。

「おっ、水もしたたるいい男登場!
いっいかん親父くさいなこれじゃあ」

頭をかきながら目を細め笑う男に俺もつい口元がゆるんだ。

「いまさらだけど……。
お兄さん何て名前?」

俺はバスタオルで頭を拭きながら男に問いかけた。

「…うっうーん、その…」

「俺なんかに名前教えるの嫌?」

「いっいや全然いいんだけど、君があまりいい気分じゃなくなるんじゃないかと思って」

俺は男が座るベッドの隣に腰掛けた。

「俺の気分が?そんな事ないよ教えて」

「…うーん、じゃあ言うよ…」

男がぼそりと口にした名前に俺はある意味目を丸くした。

「えっ…それ…本当に?」

「そう実は君の弟と同じ『浩二』(こうじ)って言うんだ。
漢字は違うんだけどね。
嫌いな弟と同じ名前なんて気分よくないだろ」

「…」

俺はつい押し黙った。
確かに漢字は違うといえど口にすれば関係などない、声に出すのも嫌なときだってあるのだ。

「無理しなくいいよ。
どちらにしろ、これから付き合うわけでもないし「お兄さん」って呼び方でいいよ」

「…うん」

俺はそのお兄さんの方へ体を寄せた。

「んっ?」

「あっあの…俺、お兄さんにお礼がしたい……。
でも何がいいのかわからないから教えてくれないですか?
俺に出来ることなら何でもしますから」

「全く君も義理堅いな。
いいよ本当に気にしなくて、君が少しでも元気になることがお兄さんにとって一番ってことだよ」

「でも…」

俺はためらいつつ自分でも驚くぐらいのことを口にした。


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あきゅろす。
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