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なぞなぞ(鉢屋と不破)*

※室町

「僕、ほんとはさ。きっと忍者になんかなりたくないんだ」

不破の突然のあいまいすぎる言葉に鉢屋は戸惑った。不破の意図が分からず眉を潜めるしかできない。

「どうしたんだい?雷蔵、突然そんなこと」
「ずっと思っているんだ。僕はこの世が戦のない平和な世になったらって思うのに、忍者は平和の世では必要のない者だ。この矛盾はおかしいよね。僕は何で忍びになるんだろう」

口では矛盾を嘆きながらも、どこかその哀しい現実を受け入れているように鉢屋には見えた。

「三郎はなんで忍者になるの?」
「雷蔵はどうなんだい?」
「質問に質問で返すのか。お前はずるいやつだね。まあいいや。それしか道がなかったんだ。僕の家には」

不破の家は兄弟みな忍びの道に進んでいる。そういう、家柄なのだ。

「自分の意思ではない。だから忍びにはなりたくない、と?」
「意思はあったんだよ。僕も兄上たちのように立派な忍びにって思ってここに入った。でも時々無償に悲しくなるんだ。戦国の世を煽る存在でしかない忍びという僕の未来の姿に。」
「そうだな」

雷蔵の気持ちは理解できる、鉢屋はそう思った。その鉢屋の態度に不破はたいそう驚いたようで目をまん丸にして鉢屋を見つめた。

「…なんだい?」

鉢屋は目尻を少し笑わせて尋ねた。

「お前も僕のようにそんなこと思うんだ、って」
「君は私を何だと思っているんだい?」
「ごめん、ただお前はいつも全ての答えを知っているような気がするからさ。こんな僕のような途方もない悩みはしないのかと思って」
「私だって人間だ。不安くらい感じさせてくれ」
「はは、ごめんよ」
「ただな、」

声色が変化した。不破はここから鉢屋の話が始まることを悟った。

「ここから目を背けて違う道を辿っても、この世から忍びはいなくならない。結局誰かがやるしかない」

鉢屋は少しわずかに眉を下げ、不破の顔を覗き込んだ。


「違うかい?」
「違わない。でも、じゃあどうしたらいいんだい。僕にはさっぱりさ」
「忍びという存在に答えなんかだすのもどうかと思うんだ。私は」
「どういうこと?」
「なんというかさ、答えをだしたらそこで考えることをやめてしまう。それってすごく怖いと感じるんだ。私はさ、悩み続けること自体に意味がある気がするんだよ」
「じゃあ、答えはださないの?」
「ああ、少なくとも私は。君と一緒に悩み続けることにするよ」

ああ、なんて幸せそうに笑うのだろう、と不破は思った。そしてその表情をつくったのは自分だと不破は恥ずかしながらも気付いてしまった。
きみと一緒なら悩み続けることも本望だ、そう鉢屋は伝えたのだ。

「お前はほんとにもう。僕はきっとずーっと悩み続けるぞ?」
「ああ、それでいいんだ。物事をすぐ何かで定義するのは好まないもんでな。一緒に悩もうじゃないか」
「ばかじゃないのか、お前は」
「何とでも言ってくれ」




この世の摂理は誰が決めたのか、全ての物事はなぜあるのか、答えはない。答えなんてものは、自分で探していいんだ。安易に答えを出す、愚か者にはならないさ。







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あきゅろす。
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