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回帰(鉢久々・拍手ログ)

『今から行く』と簡潔なメールを送ればこれまた簡潔に『ガリガリ君』と返事が来た。
俺は律儀にコンビニに立ち寄り要望の品を買い、兵助の家へと足を運んだ。

「早かったな」

チャイムを鳴らすこともなく、勝手にその部屋に入る。兵助はそれを気にする様子もない。俺達はもうそれだけ気心が知れた腐れ縁だ。

「まだ外暑い?」
「いや、今日はもう大分涼しい」
「ふうん」

いつ訪問してもこの部屋は片付いている。理由は散らかるほど物がない。兵助は衝動買いもしないし、気分転換に何かを新調することもないから物も増えない。だからいつも変わらない風景がここにはある。

「ガリガリ君は?」
「ん、ちょっと溶けてるかも」
「俺、それ位が好き。二つある…三郎何味?」
「どっちでもいい」
「じゃあこっちな」

そう言ってラムネ味を渡された。こいつは俺の好きな味ももうよく分かっている。シャリシャリとかじる音が部屋に響く。

「あいつらとの旅行どこ行くか決まった?」
「清里辺りかな。でも勘ちゃん悩んでたからまだ分からない。…あれ、三郎彼女はいいのか?」
「別れた。だから行く」
「振られたの間違いじゃね?」
「うるせ」
「そっか。まあ、俺はお前と行けて嬉しいけどな」

言ってくれるよな、軽く。以前なら緩む頬を隠すのに必死になってた言葉だ。しかし今、俺の心は穏やかで、当たり前のようにこの言葉を体内に染み込ませている。


「やっぱり好きなんだよなあ」
「ん、何が?」
「この感じ」
「そりゃどーも」


『この感じ』はきっと変わらない。変える気もない。
それなのに、どこに旅をしたって結局ここに戻って来てしまうんだ。




回帰




2012/08〜の拍手文でした


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あきゅろす。
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