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全ては3日後(1)

※現パロ高校生



暑い。じりじりと照りつける太陽がある訳でもないのに肌は知らずの内に汗ばんでくる。本格的な夏になればそれはそれで文句を零すのだろうけど、この湿度。悪態をつかざるをえない。
他の生徒達は試験が終わり意気揚々と下校していった。それなのに俺は押し付けられた文化祭実行委員の仕事をするため独りむせかえるような教室から抜け出せない。

汗ばんだ手によって湿ったプリントは、筆記を薄く写す。これじゃああのお爺さん先生読めないかもな。そう思い消しゴムを探すが見当たらない。
くそ、何で俺が。昔からそうだ。俺は自分の感情に疎い。後になって一人で考えて、やっと感情がだんだんと顔を出し始める。つまり鈍感なのだ。
今回もそうだ。「実行委員なんて学級委員の久々知がすればいい」なんて言われ、その場は何も感じなかったが後から怒りがじわじわとこみ上げてきた。
何で俺が。そう思った時には、時既に遅し。今更そんなことを言うのは自分勝手でしかない。ならば仕事を全うするのみだ。
そう言い聞かすけれど、いつしか消しゴムを探す手は止まっていた。暑さで頭が朦朧としているらしい。何だか思考がうまく紡げない。心臓の鼓動だけがとくんとくんと頭に響いた。


「    」

声をかけられていることに気付くのに時間がかかった。ゆっくりと顔を上げると、その姿への安堵からなのか、頭に急に酸素が入っていくのが分かった。


「消しゴム」
「…ありがとう」
「どーいたしまして」

その男は鉢屋三郎。3年でクラスが別れてしまったが1年の頃から何だかんだで一緒にいる俺の数少ない友達だ。

「何それ」
「え、ああ。文化祭の提出物」
「お前…っとに要領悪いな、この似非優等生が」

文化祭の提出物。これだけで三郎は俺がいつものように仕事を押し付けられたことを察してくれたようだ。相変わらず観察力が凄いな、と感心した。

「さっきフリーズしてたのは気持ちがやっとお前に追いついたってことか」
「さすがだな」
「ばあか、分かりやすいんだよ」

分かりやすい、か。クラスの奴には絶対言われない言葉だな。俺はどうやら「何を考えてるか分からない優等生」らしいから。こいつだけは俺を俺として見てくれる。だから三郎の一言一言に大袈裟だけどいつも救われた心地がする。嬉しい、嬉しい、子供みたいにその喜びを無邪気に噛み締めた。


「…何書いてんだ?」

いつの間にか三郎が提出するはずのプリントに何か書き込み始めていた。

「お前の気持ちを代弁してやろう」
「ふうん」
「こういう仕事は青春らしくクラスの奴らと騒ぎながらやるもんだぞ。普通」
「普通はな」
「ほら、出来た」

顔に似合いの達筆な字で書かれたそれは、まごうことなき俺の気持ちだった。だけど

「"実行委員なんてやるかばーか"」
「違うか」
「思った」
「それと…」
「…"先生は老眼だからこれ読めないですよね"…ぶはっ、お前…!」
「思ったろ」
「思ったけどな」

いつの間にかさっきまで頭を侵食していた靄(もや)もすっかり晴れ、けたけたと笑っている俺がいた。俺の機嫌は多分お前を見た時には既に治ってしまっていたんだ。本当不思議な奴だ。いや、本当に本当に優しい奴なんだ。

「あと、これ」

"お前が好きだ"

サラサラと三郎によって綴られた。汗ばんでいるからか、どの文字よりも薄く今にも消えそうだった。

「何これ。俺の気持ちってこと?」
「…違う?」

すとんと腑に落ちた。ああ、俺はそんな風に思っていたのか。お前のことを。何で今まで気付かなかったんだろう。そういえばさっきだって、「救われている」そんな感謝の気持ちをお前に送っていた。

「ああ、間違いじゃないな。三郎のこと好きだな」
「…」
「なに?」
「いや、そうだな。うん。まあ、3日後に期待するとしようか。」

三郎が何を言わんとしてるのか、俺には理解出来なかった。3日後に何を期待するんだろうか。

「帰るぞ。兵助」
「え、提出物…」
「生真面目なお前だ。どうせ今日明日の提出じゃないんだろ?」
「ああ、20日まで」
「提出物ってのはギリギリに提出するもんなんだよ、普通」
「それは普通か?」
「普通だ」

普通って言えば、寒がりのお前が何でそんなに汗かいてるんだ。そう尋ねたら「これだから鈍感は…」と呆れられた。三郎の汗の理由を知るのも俺の笑顔の理由も3日後なんだろう。

でも今分かる俺の気持ちがただひとつ。


本当にいつもお前に感謝しているんだ。ありがとう。


全ては3日後


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