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みえない気持ち(久々綾)

※現パロ、高校生で幼なじみ設定



おそらく、この学校で久々知兵助という人を知らない人はいないでしょう。文武両道・眉目秀麗とはこのような人を指すのか。そんな文字通りの人だ。
生徒会長を務めていてみんなからの信頼も厚い。それでいて学年の変人、問題児と謳われる鉢屋三郎などとも仲がいいこともあり、「どんな奴も久々知なら手なづけけられる」と評判だ。

そして、友達の滝ちゃんいわく、「お前もまたその評判を広げている1人」らしいのだけれど。滝はすぐ私を不思議なもの扱いするから困る。私はいたって普通だ。


不思議な人、それならこの久々知兵助を指すだろう。私はそう思う。

「ん、綾部?どうした?」

視線に気付いた彼はこちらに優しく微笑んだ。

「いえ、ただ久々知先輩は変わっているなと思いまして」

「俺が?そんなこというのあいつらとお前位だよ」

"あいつら"とは彼がよくつるんでいる4人のことだろう。幼い頃は彼の側にはいつも私だけがいることができたのに、今は違う。あの4人の顔を思い浮かべると苛立ちと悔しさがふつふつとこみ上げる。


「今日、一緒に帰れますか?」

「ああ、悪い。今日も生徒会の仕事があるんだ」

「そうですか」

私は淡々と返した。滝ちゃんに散々言われるのだが、私はどうも気分の抑揚が表情に現れないらしい。今も通常時と表情こそ変わっていないが、内心ひどく落ち込んでいる。

大抵の人は気付かないが、この人はいつも気付いてくれる。だからだろう。少し困った顔をして、先輩は私の頭に手を添えた。


「何か懐かしいな。子供の頃はお前が落ち込むとこうやって頭撫でてたなあ」

「子供扱いはやめてください」

「ああ、悪い。つい、ね」

手を放しながら先輩はなんだか嬉しそうに笑った。

「何か?」

「いや、そうだよな。もう子供じゃないよな。兄の役目もいつの間にか終わってたんだな、と思ってさ」


その言葉を聞いて条件反射で私は先輩の足を思い切り踏みつけた。鈍い音と共に悲鳴が聞こえたが無視をして、ただただ相手を睨み付けた。


「あ、あや…べ…?」

年月は環境を変え、そして環境の変化は関係を変える。そんなこと私だって百も承知だ。いつまでも先輩を独占できる弟ではいられない。私はそれを辛く思うし、彼の新しい環境にいる友人たちを恨めしく思うのに。

あなたはその変化を笑顔で話すのですね、非情じゃありませんか。

「知りませんよ。私が、あなたの元から去っても」


怒声にも似たドスのきいた低い音が廊下に静かに響いた。先輩は目をまあるくして、それから私をみた。いつもより真剣な瞳にどきりとする。
先輩のことだ。私の葛藤に気付いたのだろう。
それを理解し、彼は今何を考えているんだろうか。どんな言葉を発するのだろうか。

その時だ、私の脳天に彼の手刀が直撃したのは。予想していなかっただけに痛さが尋常じゃない。この人も私に負けず劣らず意味が分からない。


「痛いです」

「お前がろくでもないことを考えていたみたいだったから」

そう言って久々知は痛みを和らげるように綾部の頭を撫でながら、言葉を続けた。

「俺は今までお前みたいな奴が俺みたいなつまらない奴の側にいてくれることが不思議だったくらいだ」

「先輩はつまらなくないです」

「いや、実際つまらないよ。俺は」


そんなことない、と言っているのに。この人は割と頑固者だ。そんな押し問答を繰り返しながらも先輩の温かい手は一向に私の頭から離れない。兄の役目は終わったからこの手を離すんじゃなかったのだろうか。

「だから、今度は俺がお前を追う番だ。立場逆転、だな。」

その言葉につられて顔を上げれば幼い子供のように顔をくずした先輩がいた。


「嫌ならせいぜい逃げる準備でもしてろよ」

「私、言っておきますが逃げ足速いですよ」

「それでも捕まえるさ」


捕まえる、自信をもって放つその言葉に珍しく自分の頬に血が集まるのを感じる。
言っておきますけど。もうあなたの行動ひとつひとつに心はすでに捕まってて、逃げることなんかできないんですよ。

先輩はそんな私の気持ちをきっと分かっている。私は先輩の言葉が私と同じなのか、はたまた違うのかよくわからないのに。
それでも、幸せそうに笑う先輩をみて私もつられて笑ってしまった。




みえない気持ち






「兵助さーん」

放課後、生徒会室で雑務をしていると学年の変人、問題児と謳われる鉢屋三郎に声をかけられた。

「何、三郎。ていうかお前仕事しろ」

「いや、今日のお前らのやり取りをうっかり見てしまってね」

含みのある言い方が癪に触る。綾部とのやり取りのことだろう。久々知はすぐに理解した。はっきり言わずに相手の心理の揺れを楽しむ、三郎流の嗜みかただ。憎たらしい。

「それで?」

「直球に言いますね。お前ら付き合ってんの?」

「どうかな、よく分からない」

「なんだそれ」

顔を赤らめ、必死に否定する久々知を想像していただけに鉢屋は不満の色を隠せない。それだけではなく次の言葉にしっぺ返しをくらう。


「ま、でも。俺は好きだけどね」

そう言い切る久々知があまりにも爽やかであったので、鉢屋の方が逆に面くらってしまった。鉢屋は自分の行動を全力で後悔し、しぶしぶ仕事に取りかかった。

綾部に鉢屋、今日は2人の珍しいものが見れたものだ、久々知はそう思いながら先に家路に着いた後輩の姿を思い浮かべた。



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組み合わせ企画で1位だった久々綾でした。攻め久々知が新鮮でした…!たくさんの投票本当にありがとうございました!!





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あきゅろす。
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