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いっぱち物語(仮)

「入れ込んでるねぇ」

「そう見えますかね」

今は昼休み終了10分前。千熊は5限目の授業の準備後、自席でまったり緑茶を飲んでいた。

話しかけてきた男は「あの三宅さん」、もしくは「守護神」と言えば、この学園では大抵の人はわかる。御歳七十を迎えようと言う現役の門衛だ。年寄りと言っても180を超える長身、ガッシリと分厚い筋肉、趣味は筋トレとバイクと食べ歩き、なオールドヤングマンだ。そして、千熊の高校時代の恩師でもある。

「よっく言うぜ。泣いてるあいつにチュッチュチュッチュしてたのはお前だろ」

「チュッチュ……見てたんスか」

「デケェ物音がしたから覗いたら、いやーお前デロデロだな」

快活に笑う三宅の顔はからかいも含んで、にやにやと下卑たものになる。

「まさかお前が男に転ぶたぁな、学園に毒されたか?」

「人聞き悪い事言わんでくださいよ。しかも相手は生徒ですよ」

「ほ〜お、マニュアルどうりだな。らしくねぇ。ヒヒ。しっかし大丈夫か、あいつ?顔色悪かったが、ってあんだけ顔赤くして悪いも何も無ぇけどよ」

ケタケタ笑う三宅を横に、先程のイッパチを思い出す。

泣き止むと居たたまれなくなったんだろう、赤面しながらも笑顔で礼を言い、そそくさと出て行った。うろうろ視線をさ迷わせながら、必死で千熊と目を合わそうとする様は可笑しく、その律儀で健気な様子に千熊は、胸にほっこりと暖かいものを感じた。

華奢では無いが細身の、硬い体。変声期も疾うに終え、テンションも上がれば多少キーは上がるが、飽くまでも男の声。下着越しとは言え触れた、体格に見合った立派なそれ、女と見紛う要素は何一つ、欠片も無い。

でも何故かかわいい。

(隈、うっすら出来てたな…まだ、そこまで体調に影響は無いみてぇだが)

「…とりあえず、飯は食わさねえとな」

睡眠と食事時間を削ってると言う言葉を思い出し、ボソリと。

「んあ?何か言ったか?」

「なんも。っつうか先セー、何しに来たんです?わざわざ職員室まで」

「三宅って言え。特に用は無ぇよ。飯食ってまだ時間余ってっからな、偶にゃあお前の顔見るかってな」

「そらどうも。もうあんなの通さんでくださいよ、守護神様」

「あ、あれは仕方無ぇだろ。あれでも正規の手続きを踏んだ編入生だ」

「お疲れーッス」

「言い逃げか。…ああ、お疲れー」

千熊が職員室を出ると同時に、5限目の予鈴がなった。

[*前]

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あきゅろす。
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