いっぱち物語(仮)
19
「やんだ、そっだら見つめられっとはんずかす!」
キャッ!
ほっぺに両手当てて恥ずかしがってみたけど、…………えーー…なに?何よ?いたたまれなくてしたオフザケも見事空振り、こりゃもーアウトだわwクマさんたら何がしてーの?
と、クマさんがオレの前に跪いて、太股の上に額を預ける。
おや?
したら、次はオレの両手を前に持ってきて、今度は手に額をこつりとぶつけてきた。細く、長いため息を吐いて、時折何かを確かめるよーにキュッキュッて力を入れる。腕をさすって、手の甲を撫でて、太股の上に置かれた手の指の背に、唇が押し当てられる。
「は?ちょ、クマさん?どしたん?何?」
流石にちょい焦るだろ、これ。だって雰囲気が、ねぇ、甘味含有量ガチパネェですからw
手ぇ引っ込めよーとしても、ギュウッて握られてっからムリだし。
「ク、マさー…ん?」
いやいやいやいやいや、マジでどーした?オレどーすりゃあいーんよ?呼んでみても「んー…」みてーな生返事ばっか。後はニギニギするばっか。
とか、一方的にじゃれつかれて(?)たら、クマさんに見上げられる。何スか?何か言いたげなよーな、そーでないよーな、考えが読めん。どーせいっちゅーねん。そーいやこのアングル新鮮ね。クマさんみてーな巨男そーそー居ねーから、まず見下ろすって事がねーし。
つむじ…
下痢ツボ発見イエーイ!とか思ってつむじグリグリ押してたら、今度は腰に腕を回してきた。腹にほっぺくっつけられて、力強くしがみ付かれる。
痣とかちょい痛むけど、我慢できない程ではない。何より、何だかねー…クマさんが苦しそう、ちゅーか、不安そう、ちゅーか、いつもより幼く見えて戸惑う。いー歳こいたオッサンに何思ってんだ。
「クマさん、マジでどーした?甘えてーの?もじゃの相手に疲れちった?」
頭よしよししながら、オレ的優しげボイスで促してみる。慰め方とかよくわかんねーよ。でも、こんな沈んだよーなクマさん見てるのは辛いからね、頑張るよ、オレ。
「………疲れた…」
「……うん」
よしよししながらもジッと待ってたら、ぽつぽつ話し始めた。単語だけど。
「怖かった…」
「…ぅん?」
何が?
「しんどい」
「うん…」
ふっ、クマさんの「しんどい」て、響きがかわいい。
「きっっついなぁ」
「…ん」
ホントどしたんしょ、こんなクマさん初めてだわ。
「ん?何?」
ポツリと呟かれた言葉が聞き取れなくて聞き返す。
「………慰めて」
「へ?」
腹から顔を離して、再び見上げてくる。
クマさんの瞳は会長とは違った恐さがある。
会長の鋭く、熱くなる目と違って、クマさんのは飲み込まれそー。瞳の色素は薄い方だとは思うけど、夜の暗い海とか、深い森とか、そんな感じ。無意識に身を乗り出して、好奇心で迷い込む。入ったら二度と出られないよーな、何をされる訳でもなく、ただそこに在るだけなのに、勝手に深みに嵌まって、結局抜け出すのを諦める。まるで巧妙に張り巡らされた罠だ。
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