いっぱち物語(仮)
16
相手は生徒だ。だが、子供相手とわかっていても、言いようの無い怒りが込み上げる。どれだけ自分が想われているか、大の男が涙や鼻水で顔を汚す程、丸め込んだ形とは言え、自身の体を差し出す程、向こう見ずでひたむきな想いを、その身に注がれていると言うのに…
「先生?」
「………………、もうダメだな…あれは…」
「…………」
教師として生徒に言う言葉ではないんだろうが、千熊 文蔵として言わずにはおれない。
と、杵沢はスッと千熊に手の平のインカムを渡す。
「予備があったのを忘れてました」
「…締まらねぇな、おい」
千熊はイッパチを捜しに走り出した。
呼ばれてる。
誰ですかい?ウッセーんだけど。寝させてよ。オレ、昨日寝ずに頑張ったんよ。あいつ等仕事しやがんねーからさー。
「――――――!」
だぁら、ウッセんだっつの。寝みーんだわ。ほっぺたぺちぺちぺちぺち、耳元でやいやいやいやい。
「……ぅ…さ…」
「イッパチ!おい!目ぇ開けろ!」
もー誰よ。デッケー声で起こされんのちょーイラつくんスけどー。実家でおかんてばいっつもデッケー声で起こすんよ。しかも布団剥ぐし。寒いっちゅーの。冷え症だっちゅーの。
無意識に暖を求めて手ぇパタパタしてたら、何かぬっくいもんに触れた。
お。何だべ、これ?固い?けど温い。
「…ぅっせ……くそばばぁ………」
固いけどまーいーや。温いから。何か気持ちくて、それをぎゅうぎゅう抱きしめる。そしたら、それもぎゅうぎゅう抱きしめ返してくれる。
いたた、いたた。
「ぃ、た…」
「ああ、悪ぃ、……」
あり?ちゅーかオレいつ寝たん?遠足……だったよね。うん。だった。
……おや?何で体痛いん?えーーー…っとぉ…ん?オレ、落っこちんかったっけ?ジミーが……
怪我したり……
熱出て………
熱い筈、なんだけど…
何でかこれは気持ちー。
何とも優しい温さですわ。
気持ちーから擦り寄ったら、労るよーに後頭部辺りを撫でてくれる。
何か、クマさんみたい。
頭に温いものが押し当てられて、オデコやこめかみや瞼にも柔らかいものが触れる。ふわふわしてちょー気持ちー。
でも、気のせーかね?頭を撫でる手の平が、柔らかく抱きしめる腕が、触れる温もりが、震えてる気がする。
「…………八……」
何か心臓がきゅうきゅうする声で呼ばれた。
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