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それから無事第一志望の大学も合格して、特に変わったこともなく卒業式を迎えることが出来た。
周りでは別れを惜しんで泣く奴、いつもと変わらず友達と話す奴と色々な奴がいた。
担任に別れを言う奴も……
「…………担任…か……」
そういや…銀八と別れてから一度も話さずに卒業しちまったな…。
…もう元の関係には戻れねぇのは分かってるが…未練がないわけじゃない。
だが今まで世話になった先生でもあるから、一応挨拶はしとかねぇとダメだよな。
「……近藤さん、銀八の奴どこにいるか分かるか?」
「先生なら確か向こうの方にいたと思うが…」
「そうか…
ちょっと挨拶してくる」
人混みから少し離れた所に行けばすぐに銀八は見つかった。
木に寄りかかって煙草を吸ってやがる…
…ここまで来たのはいいが…どう接すりゃいいのか分かんねぇ…。
「…んなとこで何ボーッとしてんだよ。友達との別れの挨拶はいいのかよ土方君?」
「……銀八…」
俺に気づいた銀八は、何の躊躇もなく声をかけた。
いつもと変わらない態度の銀八…それがズキッとくる。俺の事はもう何とも思ってないんだなって思い知らされる。
「…おいコラ、何か言えや」
「お前の方こそ、卒業おめでとうの一言もねぇのか?」
「卒業おめでとう」
「棒読みじゃねぇか」
相手の雰囲気にのまれそうになりながらも、きちんと礼を言おうと一回深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「…銀八」
「……んだよ」
「一年間、世話になったな」
これで…
銀八と会う事もなくなる…。
「色々と迷惑かけたと思う。
…その…感謝してるよ」
(銀八と過ごした日々は、
きっと忘れない…)
「…俺、本当に銀八の事が好きだった。
卒業しても、いつでもお前と会えるって思ってたよ」
「……ひじか」
「ありがとう、銀八。
もうお前を追いかけようとはしないから」
「…っ……」
本当は、泣きそうなくらい辛かった。
今すぐにでも抱き締めて…キスして…好きだって伝えたい。
でも、それはもう叶わない。
「少しの間だけだったが、銀八と付き合ってた頃は幸せに感じれたよ」
「………そうかい…」
最後にもう一度、銀八に言う。
もちろん過去形で。
「銀八が好き…だった」
涙は見せねぇ。
だがその代わりに微笑んだ。
そして、我慢できなくなる前に立ち去る。
立ち去り際に見た銀八の顔は、気のせいだと思うが……何故か悲しそうに見えた。
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