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「おい、そこのお前、止まれ」


へらへらと笑いながら数人の女達と歩いていた金時の前に、一人の男が立ちはだかる。全身黒い制服を着ているのは、この辺では知らない者は居ない真選組副長、土方十四郎である。

その鋭い視線から逃げるように、女達はそれじゃあこれでと次々と金時の元から去っていった。ぽつんと取り残された金時は今だ土方に睨みつけられたままであるが、それよりも女達が去ってしまったことを残念がっていた。

「あーあ、みーんな居なくなっちまった。女にそんな視線送るもんじゃねぇよ、恐がってこの通りみーんな居なくなっちまうだろ」

「んなこたぁどうでもいいんだよ。…テメェ何のつもりだ、廃刀令のご時世に腰に刀を差して歩き回るとは」

土方が金時を呼び止めたのは、腰にある刀が目に入ったからである。ホストのような格好をしていながら、腰には本物の刀が差してある。その違和感に怪しさを感じ取ったのだ。

いつでも刀を抜けるよう気を張り詰めている土方をよそに、きょとんとただ土方を見る金時。

それもそのはず、金時は廃刀令や真選組のことを知らないのだ。故にいきなり自分に喧嘩を売るような視線で絡んできた土方に呆気にとられていた。


「…、その廃刀令ってやつがあんのに俺が刀持ってんのは可笑しいってんなら、それはアンタにも言えるんじゃねぇの?アンタの腰にも刀差してあんじゃん」

「…テメェ、どこの田舎モンだ。真選組を知らねぇのか」


金時の間の抜けた言葉に、拍子抜けする土方。
真選組、という単語を直接聞いてもピンときていない姿を見て、土方は更に怪しさを覚える。
いくら田舎者と言っても、真選組という組織くらいは知っているはずである。しかし目の前にいる金髪の腑抜けた面をした男は、真選組を知らないという。

そして何より気に食わなかったのは、自分が毛嫌いしている男にそっくりであることだった。その男とは、言わずもがな坂田銀時だ。見た目だけならまだしも、口調も態度もどことなく彼に似ていた。



「…とりあえず屯所まで同行してもらおうか」

「え、何、なんか偉そうな態度だと思ってたらもしかしておたく警察なの。つかこんな怖ーい面したヤローと一緒に歩くなんて御免被るわ。刀持ってんのが悪いってんならやるよ、刀。だからこれで勘弁してよオニーサン」



すっと腰に差していた刀を手に取り、土方の足元へと投げる。今の金時は何も身を守るものを身に付けていない。その金時の行動に拍子抜けした土方は、身構えていたのも止め、足元にある刀を拾い上げる。そして何を発するわけでもなく、背を向けて歩き出したのだった。


「はーよかった。…あ、そうだ。お巡りさーん!」

「あ?まだなんかあんのか」

「お巡りさんなら知ってるかなと思って。俺人探しててさー…お巡りさん、白夜叉って、知ってる?」


人探しなら屯所へ行けと言おうとしたところに、目の前にいる男の口から"白夜叉"という単語が出てきた。

その辺の人間は知らないであろう名、その通り名を知っているということは、攘夷戦争を知っているということ。見た目は馬鹿そうで弱そうで腰抜け腑抜けにしか見えないその金髪の男は、一体何者なのか。
土方の頭の中で、様々な考えがよぎる。

「おーい、何黙りこくってんだよ」

「…テメェ、一体何者だ」

「俺?俺はただの女好きの男さ。あ、でもお巡りさんみたいなイケメンも好きかもな〜」


へらへらと話を流すように笑いながら冗談を言う金時。刀は土方へ渡してしまったにも関わらず、無防備にも土方に近づき、不敵な笑みを浮かべながら頬を撫でた。
勿論土方はそれを払いのけ、身構える。


「なんのつもりだテメェ!俺をおちょくってんのか」

「やだなあほんの悪ふざけだろ?そんくらいで怒んなよカルシウム不足してんぞ」

「うるせぇ!」

「はーやだやだ、これだから血の気の多い男は」

「テメェ…やっぱしょっぴいてやる」

「いやだから…っと電話だ。はいもしもしこちら金の字〜」

「この野郎…」


完全に金時のペースに持っていかれている土方は苛立ちを隠せないでいたが、自分の携帯にも連絡が入り仕方なしに金時を放置して仕事に戻るのであった。



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あきゅろす。
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