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3


一体どのくらいの時間が経ったのだろうか。二人の戦いは終わることなく続いていた。
猛獣と化した金獅子を止めることは、不可能に近かった。

いつの間にか止んだ雨。
曇天の空からは光が差し込んでいた。

勢いの止まらない金時に、半ば呟くように銀時が言葉を発した。

「てめぇ…なんでこんなことをする…!」

「あ?こんなこと?」

「なんで…ためらいもなく簡単に人を殺せんだ」

会話をしながらも、銀時は刀を握り身構えたままで、血を流し過ぎ視界がぼやけてきながら、隙を見せまいと必死で立っていた。

それとは対照的に、金時も血を流してはいるがまだ余裕の表情であった。
負傷した数に差があるのでそれは当然のことではあるが、金時の右肩からは、今だ血は流れている。

はぁはぁと息を乱す銀時と、平然と立っている金時。
勝負はもう目に見えているようだった。

「…弱肉強食って言葉、知ってる?」

銀時の問いに、フッと小さく笑みを浮かべ、金時は構えている刀を鞘に納めて地面に置き、そのまま地面に座り込んだ。
突然のことで呆気にとられている銀時をよそに、金時は淡々と喋り続ける。

「この世界は弱肉強食の世界なんだ。強くなくちゃ、生きてはいけない。まあその強さは人それぞれだけど。
…だから俺は、いつまでも強くあるんだ」

「…生きるために、強くあるってのか」

「可笑しい?まあ同意は求めてないけど」

「……」

銀時は、何も言えなかった。
淡々と述べる金時の表情、それはあまりにも哀しく、寂しいものであった。
彼がそこまでして強さを求める理由、それはきっと彼自身が体験してきたことが所以しているのだろう。

「…ねぇ白夜叉、俺と来ない?」

「阿呆ぬかせ」

「はは、だよねぇ」

金時から発せられる言葉、一体どこからどこまでが本気なのか、本当なのか、分からない。

しかし銀時は、構えていた刀をいつの間にか鞘に納めていた。座りはしなかったが、戦う意思はもう見えない。それは金時も同じで、隙を見せた銀時に襲い掛かることはしなかった。

「白夜叉」

「…んだよ」

「俺はお前に殺されたい」

「…は?」

「ふは、冗談」

「…訳分かんねぇ奴」

「…俺はね、もう死んでもいいんだ」

「……」

「もう、疲れたから。
好敵手に出会えただけでも、満足」


空を見上げ、ぽつりと呟いた金獅子。
彼は自嘲気味に薄く笑みを浮かべ、目を閉じた。


一体、彼の身に何が起きたのか。
彼が金獅子として恐れられ、戦うことを強いられるような運命となった原因とは、何なのか。
深くは語らない金時は、誰にもそれを悟られることはなかった。

…今までは。

「…お前、過去に一体何があったってんだ」

「……さぁ、なんだったかな。覚えてないんだ」

「覚えて、ない…?」

そう、彼は過去のことを覚えていなかったのだ。
自分が強さを求め、暴れ回るようになる前の記憶が、すべてなかった。まるで記憶を切り取られたように、きれいさっぱり覚えていなかった。

失ってしまうほどの辛い記憶なのか、それとも誰かの陰謀により失ったのか。

その記憶さえなくなってしまった今では、分かる余地もないのだ。


思考が停止してしまったように薄く笑みを浮かべたまま動かなくなった金時を、銀時は何故か放ってはおけなかった。
拒絶されるかもしれない、不意に攻撃され殺されるかもしれない、しかし銀時は彼に近づき、そっと手を伸ばした。

そして金時に触れようとしたその時、遠くから声がした。

「銀時!!」

「っ…ヅラ…?」

「無事か銀時!!」

「高杉…それに辰馬も…」

「……行けよ、お前の帰るべき場所へ」

「…お前…」

「早くしねぇと、お前もお前の大事な仲間も死んじまうよ…?」


銀時は金時の言葉の意味が分からなかったが、次の瞬間雲の切れ間から巨大な戦艦が降りてくるのが見えた。
そして、その戦艦から覗く大砲がこちらに向けられているのも。

まずい。そう思った瞬間、金時に腕を掴まれて、銀時は思いきりその身を投げられた。仲間の方へ向かって。

突然の出来事に反応しきれなかった銀時は、仲間の方へと投げられながら、金時を見た。

「…じゃあな、白夜叉」

薄く、笑みを浮かべて、金時は背を向けた。
そして、巨大な戦艦から大砲が放たれた。
金時に向かって。

「き…金時ィィィィ!!!」

「おい!何処へ行く気だ!大砲の餌食になりたいのか!」

「離せ!あそこには…奴が、金獅子が居たんだ!!」

金時が居た場所は、黒煙をあげ、広い範囲で大地が歪んでいた。
…仲間ではなかったが、金時の人間らしい場面を見てしまった銀時は、既に放ってはおけなくなっていた。必死に仲間の静止を振り払い、黒煙の元へと行こうとするが…彼の体力も、限界を超えていた。
ぐらりと視界が歪み、銀時はその場で気を失ってしまう。


それから、金獅子の名が轟くことはなくなった。
代わりに、白夜叉の名がさらに広まっていった。

坂田金時は死んでしまった、誰もがそう呟く。
しかし彼の死体を見たものは、誰も居なかった。


…そして月日は流れ、攘夷戦争は終幕を終え、地球に天人が蔓延り、数年の時が過ぎた。



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あきゅろす。
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