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『その者、金色(こんじき)の髪なびかせ、戦場を駆ける。
その様まさに、獅子の如きなり…』
――攘夷戦争。
天人と人間による戦争。
長きにわたる戦いの最中、天人にも人間にも恐れられ、名を馳せる者が居た。
"金獅子、坂田金時"
彼が金獅子と呼ばれる由来とは何か。
金とは、彼の髪の色が金色であることから。
獅子とは、ひとたび戦場へ出れば、敵も味方も関係なくその刃を振るう獰猛さから。
そして皆が一番驚愕したのは、金獅子は人間でありながら天人側についていたことである。
しかし敵味方関係なく暴れる姿から、天人達は自分たちを嵌めるための何かの策略なのではないかと考える者もいた。しかし彼は、金さえ払えば簡単に雇え、何でもこなすという。
ただ唯一の欠点は、強き者を見ると仕事を忘れ、戦いを挑むということ。たとえそれが、味方であっても。たとえ其処が、敵陣のど真ん中であっても。
そして自分と同じ人間、攘夷志士達からは、裏切り者と忌み嫌われていた。
金獅子が興味を示すもの、それは強き者だけである。
彼にとって強き者とは、力の強さだけが全てではない。しかし彼が名を馳せた時代は、強き者とは力の強い者であった。
「すんませーん、ここの大将さんは何処ですかぁ?」
今、天人達が集う戦艦に一人の人間が現れた。そう、彼こそが金獅子、坂田金時である。気の抜けた口調で、鎧も身に纏わず、腰に刀だけを携え、たった一人で訪れたのだ。
周りの天人達は、どよめき、困惑していた。なぜなら彼を知らない者はいないからだ。金獅子は一体何のためにやってきたのか、雇ってもらいに来たのであれば、幾分かマシであるが…もしこの戦艦を潰しに来たのであれば…皆、命はない。
緊迫した空気の中、金時はぼりぼりと面倒臭そうに頭を掻きながら奥へ奥へと進んでいった。周りの視線など全く気にした様子もなく、ましてや怯えた様子もなく、ただ、黙々と歩いていた。
「めんどくせー場所、大将は何処だってんだよまったく探す身にもなれっつーんだよコノヤロー」
近づいてみれば思いの外大きい戦艦で、この中に入って探すのは骨が折れそうだと金時はすぐに感じ取り、ぴたりと足を止めた。
「早く出てきやがれ、俺意外と短気だよ?早くしねーと、このでっけー乗り物真っ二つにすんぞ」
「真っ二つはさすがに困るな。…俺が大将だ、こんなところに何の用かな金獅子」
「んだよすぐに出てこれんなら始めから出てきやがれってんだ。用件は簡単だ、俺を雇え。拒否権はねぇよ?拒否ったらどうなるか…言わなくても分かるよな、馬鹿じゃあるまいし」
「…よかろう、こちらとて命は惜しい。それに金獅子が味方にいるというだけで、幾分か物事が楽になるというものだ」
「うっし、決まりだな」
商談成立。金時が自分を雇えと言って断る者はいない。以前、その獰猛さを恐れた天人が金時を雇うことを殊更に断った。そのことで金時の機嫌を害した天人とその仲間は、皆全滅したのだ。その噂は瞬く間に広まり、それから断る者は居なくなったのだった。
雇うと言っても、彼はほとんど指図を受けない。
ひとたび戦が起こるとなれば、勝手に戦場へと駆けていく。そして、強き者を求めて暴れ回るのだ。
「ついに我々の元まで来たか…金獅子…」
「我々も潮時、ということですな。金獅子は疫病神とも恐れられていますからな。しかし…あの噂は本当なのか」
「分からぬ、しかしあの身なりからして…本当やもしれぬ」
あの噂、とは…彼、坂田金時は、戦場で一人暴れ回るにも関わらず…怪我一つ負わないという噂だ。彼の身体は勿論のこと、彼が纏う服にさえ、傷は付かないという。
金獅子に纏わる噂は絶えない。
それは、暗に坂田金時という男を皆が恐れているということを意味していたのだった。
「…おい、聞いたか?次の戦、あの白夜叉がいるそうだぜ」
「おいおいまじかよ、でもこっちにもあの金獅子が加わるって話だぜ」
「そりゃ本当か?ついに白夜叉と金獅子がぶつかり合うってわけだ…俺達にしちゃ、共倒れになってくれんのが一番だよな」
「ははっ、ちげーねぇ」
明日の戦に備え、各々準備を進める中、ヒソヒソと話をする二人の天人がいた。彼らの話によれば、次の戦では天人側では金獅子と恐れられる坂田金時が、攘夷志士側では白夜叉と恐れられる坂田銀時が現れるようである。
傷一つ負わず暴れ回る金獅子と、傷を負いながらもその勢いは治まることなく向かってくる白夜叉…一体どちらが強き者なのか。
ヒソヒソと話している二人だけでなく、天人達皆が注目している対決だ。何処を歩いても聞こえてくるのはその話題ばかり。其処に滞在している金獅子本人にも、盗み聞きしようとせずとも聞こえてくるほどである。
「その白夜叉って、どんな奴?」
「あぁ?おめー白夜叉を知らね…ひっ!!」
「き、ききき金獅子!?」
「いいから教えろよ、その白夜叉ってどんな奴?強いの?」
「え、えっと…俺も本物は見たことねぇんだが…白って言う名の通り、髪の色は銀髪で…夜叉って呼ばれるように…馬鹿強いって噂だ…」
「…へぇ…馬鹿強い、夜叉…白夜叉か…」
近くにいた天人が、丁度良く白夜叉の話をしていたこともあり、金時は白夜叉という人物について尋ねた。彼は"馬鹿強い"という言葉に異様に反応した。まるで獲物を見つけた獣のように、鋭い目付きに変わり、ぺろりと舌なめずりをした。
目の前にいた天人達は、自分に向けられたわけではないと分かってはいるものの、彼の狂気染みた笑みに震え上がり恐れおののいていた。
―運命の時は、明日である。
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